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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #14.0
頭上のデジタル時計に目を向けると、アラームが鳴るほんの数分前だった。
ふわふわとした感覚のままベッドから抜け出し、洗面所に向かう。
歯を磨きながら、えっと、確かドレラに何か話さなきゃって思ってたんだけど、なんだったっけかな、思い出せずにいた。
きっともう少し頭がすっきりすれば思い出せるだろう。鏡には冴えない上に見飽きた顔が映っている。口を濯いでいると、妹が突進しそうな勢いで後ろのドアから駆け込んできた。
「どいてどいて」
部活をやっている彼女は僕より家を出るのが早い。支度はバッチリのようだったが、おっちょこちょいな性格なので、きっと何か忘れ物をしそうになっているのだろう。わりとよくある光景だった。そのため僕も歯を磨きながら慣れたステップで彼女をかわし、邪魔にならないようにしてあげた。
もちろん彼女は特に感謝などもせず、何か乳液のようなものを洗面台の棚から取り上げると、そのまま踵を返し出て行き、その数秒後「行ってきます」の声とともに家を飛び出したようだった。
再び静寂が訪れると、僕は支度をし、朝食をさっと済ませ、学校に向かった。途中「チャイナ・ガール」の件も無事思い出すことができ、ドレラに会うのが待ちきれなくなっていた。
しかし、学校に到着して、1時間目が始まるまでには、僕はひどく落胆していた。そう、ドレラが来ていなかったのだ。これは予想外だったし、彼女に会って話すのを楽しみにしていた分、ダメージが大きい。転校してきて以来、僕が覚えている限りでは僕に自己紹介をした日の午前中いなかった時以外、彼女は学校を休むことなどなかったはずだ。申し訳ないけど彼女には仲の良い友達もいないし、だからといって突然先生に「今日浅野さんどうしたんですか?」なんて聞くわけにもいかない。そもそも僕自身そんなことができる性格でもキャラでもない。どうしていいかわからず、ただ時間だけが過ぎていった。
午前中ウジウジと悩んでいたが、意を決して昼休みにスマホからメッセージを送ることにした。
Message:今日はどうしたの?
既読にならない。
不安が募る。昨日のことと何か関係があるのかな?というより僕が何かしてしまったのかな?そんなネガティヴが発動してしまう。昨日のことを振り返っても、彼女の様子や素振りを思い返してみても、思い当たることはなかった。自分がやらかしてしまった可能性は・・・自分ではわからない。なにかほんの些細な一言が彼女に何か影響を与えたのかもしれない。いや、僕にそんな影響力ないだろ。後頭部らへんがじーんと熱くなってきた。
結局その日、彼女は学校に来なかった。欠席ってやつだ。理由もわからずじまい。メッセージの返信どころか既読にすらならない。僕はかなり暗い気分で、家に帰った。ドレラと歩いた同じ道が、昨日とは別世界の荒んだ道に感じる。いや、むしろ僕の日常に戻っただけじゃないか、何をそんなに凹んでいるんだ僕は。
自宅まであと数十メートルというところで、僕は立ち止まった。家の前に、誰かが立っている。妹かと思ったが違うようだ。よく見るとそれは、ドレラだった。
「ド、ドレラ?」
早足で近づくと、ドレラも気づいて僕を見た。その顔は昨日と変わらない、無邪気な笑顔の彼女だった。
「あ、キネン君、お疲れ」
「お疲れって、ドレラ、が、学校は?」
「あ、ちょっと用事があって。先生には言ったよ」
「そ、そうなんだ。し、心配したよ、メッセージも返信してくれないし」
「あ、ごめん、ケータイ家に忘れた」
どうやら、無駄に心を跳ね回したのは僕だけで、ドレラもこの世界も平常運転らしかった。僕は安堵とともに脱力した。
「よかった。何かあったんじゃないかって心配してたんだ」
本当は「何かあった」じゃなくて「何かした」だったけれど。
「ごめんごめん」
彼女は何をそんなに心配してるのかといった様子で、不思議そうに僕をみつめていた。そりゃそうだ。
「でも、やっぱりキネン君はいい人なんだね」
「え、いや、そんなこと・・・」
僕は激しく照れつつも次の言葉を探す。
「あ、でも、なんで僕の家に?ていうかなんで僕の家知ってるの?」
そうだ、このことのほうが不思議だ。自宅の場所も教えてないのに。
「あ、うん、最初に話したときに何となく場所教えてくれたじゃない?だから勘を頼りに」
「いや、あんなざっくりでわからないでしょ?」
「いや、でも現に着いてるし」
彼女は時たま謎の行動や言動を発動する気がする。でも話を聞いたり実際に目の当たりにすると「そんなもんなのかな」と妙に納得させられてしまう。
「それで、何か緊急の用件でもあるってこと?わざわざ来たってことは?」
「いや、別にないよ?緊急の用事がなきゃ来ちゃだめだった?」
「い、いや、そんなことないけど」
なぜだか激しく狼狽えてしまった。健全な男子高校生の自宅に健全な女子高生は突然やってくるものなのだろうか、僕には判断がつかない。ただわかっているのは、彼女が目の前にいることが嬉しいということだけだった。
(続く)
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