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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #69

ドレラはその後もケージや餌入れ、飲み水ボトルなどを熱心に見比べていた。僕もドレラと一緒に意見を交換しながら、ビギーにとって最適なものを僕らなりに見つけようとした。

「このケージ、広さも高さもあるし、ビギーが快適に過ごせるんじゃないかな」と僕が言うと、ドレラはうなずいて「そうだね、これならビギーも羽を広げて飛べるし、遊ぶスペースもあるね」と賛同してくれた。

ミキモト君も「確かに、このケージは理想的ですね。ビギーもきっと喜ぶでしょう」と付け加えた。

その後、餌のコーナーに移動し、キバタン専用のペレットや新鮮な果物、野菜を見て回った。ビギーにとって安全で栄養バランスの取れた食事がなんなのか今のところはわからないけれど、なんとかするしかない。

「アボカドやチョコレートは絶対に避けるようにって言ってたね」と僕が言うと、ドレラは「そうね、ビギーの健康を守るためには、気を付けなきゃ」と真剣に答え、最後に「イギーに渡すまでは」と付け加えた。

ミキモト君も「ペットショップで売っている専用の餌を基本に、新鮮な果物や野菜を加えると良いですよ。栄養バランスが取れやすくなります」とアドバイスしてくれた。

僕たちは店内を歩き回りながら、ビギーのためのアイテムを次々とリストアップしていった。ケージ、おもちゃ、餌、飲み水ボトル、そして止まり木など、金額も含めてメモしていった。最後に、再びビギーのケージの前に戻ってきた。ビギーは僕たちを見つめ、興味津々な様子で小さく鳴いた。ドレラがビギーと会話(一方的だけれど)している間、メモに書いたものの金額をスマホの電卓で計算してみた。おそらくイギーが送ってくれた額で十分そうではあった。預かる期間が長引かなければ、ではあるけれど。

ドレラは「楽しみにしていてね、ビギー」と優しく声をかけている。

そうだ、もう後には退けない、覚悟を決めなければ、目の前の女の子の笑顔のために。なかなか恥ずかしい言葉を胸に、ドレラに話しかける。

「ドレラ、ちょっと話があるんだけど」

彼女はビギーから目を離し、僕の方に向き直った。「何?」

少し緊張しながらも、僕は続けた。「ビギーをうちに迎える準備が整ったら、最初のうちは一緒に面倒を見てほしいんだ。君が一番ビギーのことをよく知ってるから、僕だけじゃ不安だし、何かあった時に助けてもらいたいんだ」

ドレラの顔が一瞬驚きに変わったが、すぐに微笑んだ。

「何言ってんの?当り前じゃない。もちろん、喜んで手伝うよ。ビギーのこと、私も大切に思ってるし、彼が安心して過ごせるようにしたいから」

その言葉に、僕は心から安心した。「ありがとう。今日帰って家族にも話してみるよ」

ドレラは嬉しそうにうなずき、再びビギーに向き直った。「ビギー、これからもっと楽しいことが待ってるから、もうちょっとだけここで待っててね。私たちがここから連れ出して、イギーにあなたを届けるから」

その瞬間、ビギーが小さく鳴き、まるで彼女の言葉に応えるようだった。

ドレラは「毎日ビギーと遊ぶ時間を作らなきゃ」と言い、僕も「そうだね。ビギーが安心して過ごせるように、愛情を注いであげるよ」と答えた。
「私、毎日行くからね、キネン君の家」

「え、毎日?」

「何?ダメなの?」

「いや、駄目じゃないけど」

嬉しい反面、妹が何ていうかわかったもんじゃないという心配もある。

ミキモト君も「私もバイトのない日は行きましょう」

「いや、大丈夫」

僕たちはペットショップを出て、帰ることにした。ミキモト君はそのまま家に帰っていったが、ドレラは駅まで送ってくれた。

もうすぐ駅に着くというところで、ドレラが話し始めた。

「あのね、キネン君。ほんとのこというとね、私、今、理解が追い付いていない。プチパニックというか」

「うん」

「あ、でもそれは嫌なことって意味ではなくて、楽しくて嬉しくてって意味で」

「うん」

「なんか記憶のこととかもあるけど、今が楽しいし、弟たちともなんとなく距離が縮まった気もするし」

「うん」

「なんかうまく言えないけど、ありがとうって言いたいの…キネン君に」

俯いて小さな声で話すドレラに一瞬戸惑いながらも、彼女の気持ちを感じ取ろうと努力した。彼女の目を見て、できるだけ懸命に答えた。

「ありがとうって言いたいのは僕の方だよ。何が起きてるのか理解できないのは僕も同じだし、現実じゃないみたいだし」

「うん」

「それはビギーもそうだし、イギーなんてもっとそうだし」

「うん」

「でも、正直言うと、こうしてドレラと一緒にいることも僕には信じられないんだ。夢の中にいるみたいなんだ」

「うん」

ドレラは少し照れたように微笑み、僕の目を見返した。
「キネン君、本当に優しいね」

「いや、そんなこと…」

ドレラの微笑みに少し胸が高鳴るのを感じながら、彼女の言葉を受け止め、次の言葉を探す。
「本当に優しいかどうかはわからないけど、こうして一緒にいられることが嬉しいんだ」と僕は照れながらも正直に言った。

「そう言ってくれると嬉しいな」ドレラが返す。
そしてもう一度、今度は自分に言い聞かせるように呟いた。
「そう言ってくれると嬉しいな」

(続く)

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