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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #68

放課後、僕たちはペットショップに向かった。僕たちといってもミキオ君は部活のため、僕とドレラ二人きりという嬉しいシチュエーションだ。いや、そうなるはずだった。駅を降りた途端にミキモト君に声を掛けられ、首を突っ込みたがりの彼は、帰り道だし、店員だしと半ば言いくるめられる形で一緒に行くことになってしまった。ま、仕方がない。道中はミキモト君が今日あった授業の感想を熱く語っていたが、特に僕たちに刺さるような話はなかった。一応ミキモト君にもビギーの、キバタンのことを聞いてみたけれど、担当の場所ではないらしく、この前の話以上のことは分からないとのことだった。

そうこうしているうちにペットショップに辿り着き、自動ドアを通過し中に入った。心地よさよりも、客が来たことを知らせるという実用に重点を置いたメロディが響き渡り、それを聞いた店内のスタッフが数名、入口の僕たちを見て、優しく微笑んで迎えてくれた。不思議なのだけれど、同じスタッフであるミキモト君に対して特に反応がない。これも彼の能力なのだろうか。

さすがに店に慣れてきた僕たちは、迷いなくイギーのいる場所へと歩みを進めようとしたが、その時声を掛けられた。

「こんにちは、何かお探しですか?」

以前のマッチョ店員ではなく、女性店員が話しかけてきた。20代後半から30代前半くらいの年齢で、気のいいお姉さんといった感じだ。僕たちは挨拶を返し、事情を説明した(キバタンを探してるって言っただけだけど)。スタッフの女性は真剣に話を聞いてくれ、ビギーのケージへと案内してくれた。今回もビギーは、少し警戒しながらも興味深そうに僕たちをちらと一瞬だけ見て、なにごともなかったかのように動かなくなった。

「この子がキバタンです。とても賢くて、良い子ですよ」とスタッフは微笑みながら鳥籠を撫でた。「何かご質問があれば、どうぞ何でも聞いてください」

ドレラがすかさず質問した。
「ビギー、いや、キバタンの飼い方について教えてほしんですけど。何か特別な注意点があれば、それも教えてほしいんです」

スタッフは笑顔で頷き、詳しく説明を始めた。
「キバタンは、非常に知的で賢い生き物です。また、愛情をたくさん必要とします。毎日遊んであげることが大切ですし、栄養バランスの取れた食事も欠かせません。果物や野菜を好みますが、アボカドやチョコレートなど、鳥に有害な食べ物には注意が必要です」

僕はすかさずメモを取り出し、書きながら聞き入った。ドレラも真剣に聞いている。

「それと、ケージは広めのものが理想です。おもちゃをたくさん入れて、退屈しないように工夫してあげてください。羽を広げて飛ぶスペースも必要なので、部屋の中で放してあげる時間も設けるといいですね」

イギーと戯れている動画を思い出す。ビギーのためにもあれは良いことなのだ。

「ありがとうございます。助かります」と僕は感謝の意を伝えた。

スタッフはさらに続けた。
「飼い始めてから環境に慣れるまで、最初は少し時間がかかるかもしれませんが、徐々に安心してくれるはずです。とにかく愛情を注いで、一緒に生活すればきっと仲良くなれると思いますよ」

イギーとビギーを見てればそれは凄く良くわかる。

「何か困ったことがあれば、いつでも相談してくださいね」
と言って、店員さんは笑顔でその場を離れていった。かと思ったら突然踵を返し、戻ってきた。

「ミキモト君じゃない。いつからそこにいたの?お友達?」

ミキモト君は、いつものことだといった様子で驚きも怒りもせず、表情を変えずに、
「同じ学校の友人です」と答えた。それから幾らかの言葉を交わし、店員さんは今度こそ持ち場に戻っていった。

僕たちはしばらくビギーのケージの前で佇んでいた。ビギーは、僕たちの顔をじっと見つめ、何かを考えているようだった。店員がいる時とはなんだか様子が違う。リラックスしているように見えるし、僕らのことをちゃんと認識しているような感じだ。僕はビギーに向かって手を差し伸べ、「こんにちは、ビギー」と優しく声をかけた。ビギーは少し警戒しながらも、僕の手に近づいてきて、小さく鳴いた。その姿に、ドレラも微笑みながら「ビギー、元気?」と続けた。

その後、僕たちは先ほどの情報から、ビギーのためのケージや食事などについて話し合い、必要なものなんかをリストアップした。

「キバタンが慣れるまでは、少しずつ時間をかけてあげるといいですね」とミキモト君がアドバイスしてくれた。「キバタンが安心できる環境を作ることが大事ですよ」
僕はその考えに賛同した。
ミキモト君も「うちのスタッフに相談すれば、良いものを紹介したり、見つけるのに協力してくれるでしょう。私に言ってくれれば聞きますし」と言ってくれた。

その後、必要な用品や餌なんかが実際に売ってるのか、チェックした。ドレラは熱心に色々なアイテムを手に取ってはビギーに見せ、彼が興味を示すかどうかを確かめていた。

(続く)



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