【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #60.0
「元気そう・・だよね?」
痩せたり太ったりとかもなく、毛並みというか、羽のツヤもよく、生命のエネルギーのようなものを感じられる。もちろんキバタンの健康状態の目安とかなんてわかっていないけれど。
「うん、大丈夫そうな気がする」
彼女は微笑みながら指でそっと鳥籠を撫でた。僕も鳥籠に近づき、様子を伺った。
「ビギー、元気そうだね。君を救うために今頑張ってるところなんだ、もう少しだけ待ってて」
僕が話しかけると、ビギーは左右の足を交互に動かし、体を揺らした。その姿はまるで踊っているかのように見えた。嬉しがっているのだろうか。ドレラも僕も笑いながら、同じ動きをした。
僕らはビギーがおそらく元気そうであることに安心し、しばらくのあいだ鳥籠の前で、彼の様子を観察した。
「こんにちは、何かお困りですか?」
急に声を掛けられ、僕らは驚きながら振り返った。先ほどまで作業をしていた店員だった。どうやら僕らに気づいて、作業をやめて近づいてきたみたいだった。彼は若い男性で、背が高く、黒髪が短く刈り込まれていた。シャツの袖をまくり上げ、筋肉隆々の腕を見せていた。ペットショップの店員としては標準的なのだろうか。その筋肉を使い猛獣の突進などを受け止めたりするのだろうか。バカな考えが脳裏に浮かぶくらい彼の筋肉に目を奪われたが、すぐに我に返った。
「あ、いや、ただ見ていたんです。」
僕が答えると、ドレラがそれに続いた。
「いえ、いや、えっと、ビギー、じゃない、この子を買いたいんです。」
常識的に考えて、高校生二人がコンビニでおにぎりを買うみたいに気軽に買える額ではない。ひやかしだと思われて当然だろう。しかし、見下すような態度など一切取らず、筋肉の鎧に包まれた店員は、笑顔で応対してくれた。
「そうなんですね。キバタンはサービス精神旺盛な子が多くて、お客さんに声かけたりする子も多いんですが、この子は結構人見知りする性格で、じっとしていることが多いんですよ」
僕は、良い機会だと思い、聞いてみた。
「もう少しキバタンについて教えてもらえますか?」
「もちろん。個体によりますけど、基本は人が大好きで甘えん坊な性格です。かなり前に一羽いたんですけど、その子はとにかくカキカキが大好きで。あ、身体を掻くってことです、いつもカキカキして欲しいとアピールしてきましたね。私もつい可愛いので誘惑に負けてカキカキしてしまってましたね。お喋りが得意で自分の名前や「バイバーイ」など色々とお喋りできましたし、最後は手に乗って移動して放鳥ができるようになってきましたが、その時にちょうど売れて旅立っていきました。
思ってた以上の情報量で来られたけれど、僕たちは興味深く耳を傾けた。
「ありがとうございます。まだもうちょっと見てていいですか?」
「もちろん。何かあればいつでも呼んでください」
さわやかすぎる笑顔でそう言うと、僕たちの前から去って行った。
店員に礼を言い、再びビギーに目を向けた。すると、彼は鳥籠の中で動き出した。何かを訴えかけるような、不思議な動きだ。
「どうしたんだろう?」
僕はドレラに問いかけたが、当たり前だけど彼女もわからなかった様子だった。そのとき、先ほどの店員が再び駆け寄ってきた、手に何かを持っている。
「あ、それはおそらく、彼女を誘っているんですよ。」
店員はにやりと笑い、手に持っていた鳥の餌を鳥籠の中に入れた。ビギーはその餌に飛びつき、しばらくは餌を食べることに夢中になっていた。
ビギーが餌を食べ終わってからしばらくして、また不思議な動きを始めた。鳥籠の中をグルグルと回って、僕たちに向かって何かを伝えようとしているようだった。
「何か言いたいことがあるのかな?」僕はドレラに尋ねた。
ドレラは鳥籠に近づいた。ビギーはドレラに目を向け、彼女を見つめている。彼女は鳥籠に手を伸ばし、彼に話しかけた。
「ビギー、君は何か私たちに伝えたいことがあるの?」
驚くことに、ビギーはドレラの言葉を理解したかのように、彼女に向かって鳴き声ではない唸るような音を発した。
ビギーは、ドレラの手に向かってくちばしを伸ばし、鳥籠の中から彼女の指先を軽くつついた。ドレラは驚いたが、ビギーが伝えたいことを感じ取っているようだった。ビギーは、再び唸るような音を発し、リプレイ動画のように先程とまったく同じ動きでドレラの指先を軽くつついた。
「この子も男の子なんですね。いつも大人しいですけど、そこはやっぱり、うん」
「飼い主に性格が似てるのかも」
「飼い主?まだ買い手は決まってないですけど?」
店員は怪訝そうな顔で言った。
「あ、いや、そうですよね」
ビギーの不思議な行動を見て、僕たちは驚きつつも興奮した。何か重要なことを伝えたいのかもしれないと思い、ドレラは再びビギーに話しかけた。
「ビギー、私たちに何か伝えようとしてくれてるの?」
その問いかけに、ビギーがほんの一瞬だけ店員を見た気がした。まるで、この男がいると話せないとでも言いたいかのように。そして、再びドレラの指先を軽くつつき、鳥籠の中で足踏みした。
(続く)
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