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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #2.0(修正版)

隕石が直撃するとか、謎の生命体が現れたとかそんな大ごとではない。けれど僕にとっては人生の転機かもししれないことがその日起こったのだ。いや、正確に言うと、それは今も続いている状態なのだった。

あの日、僕はいつもと同じように、平凡に登校し、平凡に授業を受けていた。いつもと変わらぬ授業風景がそこにはあった。ただ一つを除いては。
彼女の姿がその日は朝からなかったのだ。もちろんそれも後になって気づいたことなのだけれど。

午前の授業が終わり、昼休みになった。僕はコンビニで昼食を買ってあったが、飲み物を買うため、1階にある自販機に向かった(僕の教室は最上階の4階にあった)。これは僕のほぼいつものルーティンといってもよくて、ちょっと遠かったが、午前中の授業の後の気分転換兼軽い運動としてちょうど良かった。

教室から出て、階段を降りようとしたとき上の方から僕を呼ぶ声がした。
声は、屋上へと繋がる階段からだった。そして声の主は転校生の彼女だった。

「星野君」

そういえば彼女の名前を伝えてなかったね。彼女の名前は浅野ドレラ。名前で判断するのは良くないのかもしれないけれど、ハーフだとか外国人の血が入ってるとかは僕にはわからない。そうだと言われればそんな気もしてくるし、そうじゃない気もする。

彼女が僕の名を確かに呼んでいた。が、しばらくはそれを把握できなかった。意外というよりも僕の頭にその感覚というか、シチュエーションが存在しなかったからだ。彼女が僕の名前を呼ぶ?僕の名前を知っているのはクラスメイトなんだから、ない話ではない。けれど、僕は彼女と一度も話したこともなければ、関わったこともない。それなのに彼女は僕のことを、僕の名を、確かに呼んでいる。

この事実をしっかり認識するのに数秒、いや十秒以上かかってしまった。

「え?俺?」

「うん、そう。来て」

細く白い手が、力強く手招きする。明らかに普段教室で読書している彼女ではなかった。

僕は言われるがままに階段を登り彼女に従った。階段を登りきると、そこは屋上のドアがある少し広い空間になる。そしてそこは下の階からは死角になっていた。

窓のないそこは薄暗く、硬い鉄のドアの四角窓から光が差し込むだけである。姿は認識できるが、表情は読み取れない。そんな場所で僕と彼女は向かい合った。

「ついて来て」

そう言うと彼女はすぐさま反対を向き、ドアを開け(鍵はかかっていないのだろうか?)、外に出た。見えない糸に引っ張られてるみたいに僕も続いた。
突然暗がりから外に出たせいで、屋上が必要以上に眩しく感じた。

教室の窓から見るときよりも幾らか空が近い。学校の周辺に高い建物はなく、住宅が並ぶ。近くにはコンビニや倉庫なんかもいくつか目にすることができ、その先には薄っすらと山が見える。名前はわからない。今日はよく晴れていて、結構遠くまで見渡せた。

彼女はフェンスに近づいていき、そのまま両手でフェンスを掴み、前方に目を向けた。僕も彼女を追い、数メートル前で立ち止まった。

「ねぇ、星野君はどの辺に住んでいるの?」

「あ、えっと、電車で来てるから、こっからはさすがに見えないよ」

「ふうん。ここから見えるところじゃないんだ」

郊外の小さな高校なので、もちろん近くに住んでいる生徒もいるが、それは少数で、近隣の街から電車や自転車で通っている生徒のほうが多い。ここから見える家に住んでいる方が稀だと思う。

「ふうん」

さっきとは少しニュアンスの違う相づちだった。いずれにせよ自分から聞いてきたくせに、かなり興味なさそうな返事だった。

「星野君は誰と住んでるの?」

「誰って、そりゃ家族とだよ」

「そう」

多少の礼儀のつもりで、僕も質問をしてみた。

「君はどこらへんに住んでいるの?」

「私は、・・・教えたくない」

自分は聞いたくせに。そしてあっさりと答えた自分にも恥ずかしくなった。
ただ、女子に住む家をいきなり聞くのはもしかして失礼なことなのかもしれないと少し焦った。

それきり彼女は黙ってしまった。何か気に触ったのだろうか。気まずい沈黙が続く。耐えきれなくなった僕は、再び問いかけた。

「えっと、それで、僕になんの用なのかな」

「さっき呼んだときは「俺」って言ってたのに、今は「僕」なんだね」

「いや、さっきは突然だったんで」

「ふうん。ま、いいや。呼んだのは、挨拶しておこうと思って」

「挨拶?いや、君が転校してきてからだいぶ経ってるけど」

「でも君と話したことはないよ」

「そうだけど」

「何事も挨拶からがスタートでしょう。私の名前はドレラ、浅野ドレラ。よろしくね」

「いや、知ってるし・・」

「君の名前を教えて」

半ば諦めたように名乗った。

「キネン、星野記念です」

(続く)

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