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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #30.0

「もちろんです」「え?」

確かに僕には親友と呼べるような友人はいなかった。いつの頃からだろうか、クラスで孤立してるとか誰とも話さないとかそういうわけではないのだけれど、学校以外で一緒に遊んだり過ごしたりする友達はいなかった。いや、気にするのは今はそこじゃなくて、そのあとの部分だ。ドレラは僕のことを友達だと認識してくれていた。少し照れくさかったけど、その何倍も嬉しさがこみ上げていた。そのせいで僕の答えはなんだかひどく滑稽な感じになってしまった。

「いやいや、そんなの言われてどうこうするものじゃないでしょ」

「大丈夫です、僕が責任を持って友達になってあげます」

僕は面倒くさくなって言葉を返すのを諦めた。ドレラとコヤギはそれぞれに満足そうだった。それならそれでいいか。

「で、新しい友達二人で何を話していたの?」

「僕のアルバイトの話です。ペットショップで働いているんです」

その瞬間、ドレラが目を輝かせた。

「え、すごい、すごい、どこでどこで?」

「家の近くです、歩いて7、8分の所なんです」

そう言いながらコヤギは僕の方を見て、目でなにか訴えかけてきた。友達ではないけれど僕はそれをすぐに察した。

「あぁ、そういえば、ミキモト君はドレラの家の近くらしいよ」

「え、本当?そうなんだ、じゃあ何度か会ってるかもね」

「そ、そうですね」

彼は流石に窓から覗いていることは言わなかった。賢明だろう。しかし、驚くほどあっさりとした反応に僕は(おそらくミキモト君も)拍子抜けした。出会ったときに僕に住んでいるところを言わなかったのは僕を警戒していたのか、ただの気まぐれだったのか。

「ねぇ、キネン君、今度そのお店行ってみよう」

「じゃあ、僕が案内しますよ」

「うん、いいね、お願い」

二人の盛り上がりに乗れずにいた。なんとなく意気投合している二人に、いやミキモト君(親しい感じを出したくなくなったので、ミキモト君に戻す)に嫉妬していたのかもしれない。さらに言うと、ドレラとどこかに行けるのは嬉しいが、彼女とミキモト君を近づけていいものだろうかと僕は思案したのだ。

「じゃあ決定。いつにしよっか」

そんな僕の思いとは裏腹に話は進み、二人は日程の調整を始めた。このまま二人は仲良くなるかもしれない。それがいいのか悪いのかも判断できない。そして少なくとも、二人が仲良くなればなるほど僕のミキモト君への嫉妬は増していくだろう。心の狭い人間だと認めなければならない。

「ねぇ、どうしたのキネン君、なんか楽しくなさそう」
「浅野さん、察してあげてください、星野君は、浅野さんが僕と楽しそうにしてるのを妬いてるんですよ、きっと」
「え、なにそれ」
「ちょ、ちょっと待って、勝手に話を広げないで」
意外にも鋭いミキモト君の指摘にたじろぐ。

「まぁ、いいじゃないですか。もうそろそろ昼休みも終わりです、教室に戻りましょう」

話は放課後に、ということで僕らはそれぞれの教室に戻った。結局僕は昼食を終えることができず、食べかけのパンを持ったまま戻ることになり、少しだけ二人を恨んだ。そして心の中で、放課後に話すのもオッケーしてないけどな、と呟いていた。

午後の授業はいつものようにぼんやりと過ぎていった。けれど、僕は一番後ろの席に座っているドレラを何度も何度も確認せずにはいられなかった。油断していたらいつの間にか消えてしまうのではないかと思ったからだ。彼女のことをずっと見ているわけにはいかないので、後ろを振り返り、何かを見るふりをして(もちろん何もないのだが)ドレラがいることを確認してはほっとする、を繰り返した。

彼女は休み時間は相変わらず読書をして、周りの人間と絡むことはなかった。そして僕にはそんな彼女に話しかけに行く勇気はなかった。手持ち無沙汰になった僕は、昼の食べかけのパンを虚しく食べた。何の味もしなかった。そういえば彼女はいつも何を読んでいるのだろう。本屋のカバーが掛けられていて中身を確認することができない。あのカバーの本屋も二人の住む街にあるのだろうか。中身については今度聞いてみよう。

終業のチャイムが鳴り、帰りのショートホームルームが終わると、部活に行く者、だらだらと放課後の計画を練る者、そそくさと帰る者、それぞれの行動に移る。ここでいつもならいつの間にか消えているドレラが僕の横に立ち、「帰ろ」と耳元で囁き教室を出ていった。僕は机の中身を適当に鞄に詰め込み、急いでドレラの後を追った。

駅と学校の間くらいでようやく彼女は速度を落とし、僕の横に並んだ。僕は内心複雑だった。帰ろうと言ってくれたことは嬉しかったが、ここまで距離を取っていたということが、僕と一緒にいる所を他人に見られたくないということなのだと認識したからだ。

「ゴメンね、キネン君。ここまで来れば大丈夫なはず」

といって彼女は周りをつぶさに確認した。

「どういうこと?」
「いや、私のことを付け回してる人がいるみたいなの」

「ストーカー?」

僕は即座にミキモト君のことを思い浮かべたが、さっきドレラに直接会ってるから、その線は薄いと、判断した。

「ううん、違う」
「じゃあ、女子に恨まれてるとか?」
彼女の容姿ならば謎に逆恨みとかもあり得ない話じゃない。
「なんで恨まれなきゃいけないの?違う違う」
「じゃあ何?」
「弟よ」
「あっ‥」「何?」

思わず変な声が出てしまった。彼らとすでに遭遇していることをまだドレラに伝えてなかった僕は、とりあえず驚くふりをした。

(続く)



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