見出し画像

【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #40.2

「ちょっと待ってください。まずは私に事情を説明してください。事件とか警察とか物騒なワードも出てきましたし。あのオウムがそれに絡んでるわけですね。やばいですねやばいですね」

言葉とは裏腹になんだか楽しそうにしている。トラブルに首を突っ込みたくなる性分なのかもしれない。とりあえず伝えないことには先に進まなくなりそうだったので、僕は問題のない範囲で、隠すべき所は隠し、できる限りのことを伝えた。

「どう?改めて、何か策はある?」

「うーん、ないですね」
ほぼ予想通りの答えが帰ってきた。ある意味期待を裏切らない男と言える。

「ミキモト君、例えば料金後払いとかってできるの?」

「分割払いはもちろんやってますけど、後払いは聞いたことないですね」

「値引きとかは?」

「セールとかはやってますけど、個別の値引きには応じてないはずです」

ペットショップ事情は全くわからないけれど、ペットのセールというものに違和感を覚えた。商売だし、成長してしまっては売れなくなる可能性が高まるのだろうから当然といえば当然なんだろうけれど、完全に「商品」として扱っているような気がして、なんだか落ち着かない感じがした。

ミキモト君がさらに続ける。

「私がアルバイトしてからの話ですけど、セールも犬や猫なんかがほとんどです。鳥はいままでないですね」

「やっぱり思い切ってイギーに言うしかないよ」

僕とミキモト君のやりとりを黙って聞いていたドレラが口を開いた。

「悪いことしてるわけじゃないし、信じてもらえるもなにも、あれは間違いなくビギーだよ。絶対イギーならわかるはずだし」

「まぁ、まぁ落ち着いて。そんな熱くならないでください」
興奮を隠さないドレラに対し、ミキモト君が冷静に、かつ引き気味に突っ込む。

「なってないし。私、間違ってない、絶対」

「ドレラの気持ちも言い分もわかるよ。確かに一番の方法はそれなのかもしれない。他に良いアイデアも浮かびそうにないし」

うんうんと深く頷くドレラ。

「取り敢えずやれるだけやってみよう。もし他に方法が思いついたらそれもやればいいし」

ドレラもミキモト君も同意してくれたようだった。

「それでも、慎重にやらないとね。やっぱりSNSを使うことになると思うけど、そもそも英語が厳しいよ?」

「それについては私に考えがある。イギーとやりとりするにあたってずっと考えてたんだ」

「英語が堪能な知り合いでもいるんですか?」

「うん、ちょっとね」

ドレラのことをすべて知っているわけではないけれど、現在ドレラの知り合いと言えば、僕と、一応ミキモト君しかいないはずだ。あとは家族くらい。それとも僕の知らない交友関係があるのだろうか。

「じゃあ、その人に英語の文章を作ってもらうとして、もとの文は僕らで考えないといけないね。あとは、ビギーの動画をちゃんと撮ろう。そうだな、イギーにしかわからない行動とかしてくれたら最高なんだけどな。うん、とりあえずミキモト君、次のバイトいつ?」

「ふふふ、あなた方、運がいいですね、いつもは日曜に入っている私が、なんと今日、夕方からバイトです」

イラッとする気持ちをぐっと堪えて、僕は紳士な対応をする。

「ナイスタイミングだよミキモト君。そしたら、できるだけでいいからビギーの動画を撮ってきてくれないかな?お客として僕らが行って撮るより、遥かに良い気がするから」

「わかりました、お安い御用です。他ならぬお二人の頼みです、ナイスな映像撮ってきますよ」

「ちゃんとお店の人に断ってね」

「もちろんです」

気がつくとドレラが僕のことを不思議な顔つきで見つめていた。

「どうしたの?」

「いや、すごいよ、キネン君。私が見込んだ通り。やっぱりキネン君は頼りになる」

ドレラに褒められて、頼られて、嬉しさがこみ上げる。このために僕は頑張ってるのかもしれない。

なんとなく道筋がついたので、ひとまず僕らは解散することにした。誰に対しても同じテンションで来店の感謝を伝える店員の甲高い声に見送られる形で、僕らは店を出た。

「駅まで送るよ、キネン君」
と、ドレラ。

「じゃあ、バイトの準備もしないといけないので、一旦家に戻りますね。いつもは日曜だけなんですけど、店長がどうしてもっていうんで今日も入ってるんですよ。君にしか頼めないっていうんですよ、困りますよね」

たぶん困っていないし、店長は店長で、嘘ではないだろうけどうまくミキモト君を操っている気がする。バカとハサミはなんとかって確か言ったと思うけど、ミキモト君もうまく扱えば、良い働きをしてくれるのだろう。

それはともかく、彼が気を遣ったのか、何も考えていないのか、おそらく後者だとは思うのだけれど、いずれにせよ二人になれるので素直に嬉しかった。ミキモト君に別れを告げ、僕らは駅に向かって歩きだした。少し歩いた後で、さっきのことを恐る恐る聞いてみた。

「あのさ、英語ができる知り合いって・・?」

「キミオ、弟」
すんなりと答えが返ってきた。

「え、あ、双子の」

「そう、でも二人ともじゃなくてキミオだけ。あの子オーストラリアに留学してたんだって」

「そうなんだ」

「あ、今、二人一緒じゃないんだって思った?」

「いや、そんなことないけど、ちょっとだけ」

「ふぅん。なんかさ、双子って何でも一緒みたいに思われてるよね。まぁそれももちろんわかるんだけど、それぞれ一人の人間なんだよ。好きな食べ物だって、好きな音楽だって違うに決まってるよね。いや、でも一緒に過ごしてたら趣味嗜好が近くなるか、あれ、わかんなくなってきちゃった」

「はは。なんかドレラらしい。そうだね、なんていうか世の中全体がそんなふうに捉えているよね。考えてみたらおかしな話だよね。双子差別、いや偏見だね」

「とにかくキミオは英語が堪能なの。だから頼めばすぐに英文にしてくれると思う。そこは任せて」

「うん、わかった。それなら間違いもないだろうし、細かい部分も伝えられるだろうし、イケるかもしれないね」

これで無事双子と繋がりが持てる可能性も出てきた。ビギーには申し訳ないけど、彼のおかげでいろんなことが良い方向に回り始めた気がした。

(続く)

サポートお願いします。全力でクリエイター活動に邁進します。