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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #59.0

僕たちそれぞれ、短冊に書くことにして。何を書いたっけな」

思い出を辿りながら続ける。

「たしか僕は『世界一周したい』って書いた。当時、僕は世界の国々に興味を持ち始めて、いろんな国を訪れることが夢だったんだ。知ってる国なんてたかが知れてたけどね。でも、当時は、というか今もだけど家族で国内旅行したことがあっただけで海外なんて行ったことなかったから、世界一周旅行なんて考えただけでもワクワクしたんだ。」

「ちょっと意外。だけど、いい夢だね」と、彼女は笑顔で答える。

「それで、妹は『ピアノが上手に弾けるようになりたい』って書いてたような気がする。昔家にピアノがあって、それに興味があったんじゃなかったかな?でも、結局全く上達しなかったけどね」

彼女は再び優しく微笑んだ。

「母親は家族の健康とかそんなだったと思う。で、3人とも書けて、笹に括りつけようとしたときに、妹が不思議そうな顔して言ったんだ。
「なんにも書いてないのがいっぱいある」って」

「書いてない?」

「そう。すでに笹にはたくさんの短冊が括りつけてあったんだけど、そのなかに何も書いてない短冊があって。しかも一つや二つじゃなく無数にあったんだ。僕たち三人は、何も書いていない短冊の存在が気になり始めた。妹がその短冊の一つを引っ張り、しばらく眺めてから言った。「なんで何も書いてないの?」って。

それに対して母親が「なんでだろうね?書き忘れちゃったのかな?」なんて言って。もうすでに親が子をあやす様な物言いが好きじゃなくなってきていた僕は、ちょっと嫌な気持ちになった。だから「こんなに書き忘れるっておかしいでしょ」って嫌悪感を滲ませて僕は母親に言った。それに対して母親は「でも実際なにも書いてないのがたくさんあるからねえ」とかなんとか返されたんだ。その後どうしたとかどうなったとか何も覚えてないんだけど、何も書かれていない短冊はかなり印象に残ってる」

彼女は何かの答えを探してるみたいだった。

「でも、今はもしかしたらあの短冊には何か特別な意味があったのかもしれないって思ってる」

「特別な意味?どういうこと?」

「例えば、何も書いていない短冊は、何かを望んでいるけれども、それを言葉にすることができない、またはしてはいけない事情があったとか。あるいは、何かを書こうとしたけれども、自分の思いを上手くまとめられず、結局書けなかったとか、そういう可能性もあるって今は思える。でも、何も書いてない短冊って、少なくとも当時の僕には意味不明で、ただの無駄に見えたんだよね。でも、今は、人それぞれに想いがあって、それが言葉にならなくても、その気持ちは確かに存在するのかもしれないって。だから、たとえ何も書いていなくても、その短冊には大切な意味があるんじゃないかって思える。そう思うと、あの時の短冊たちが少しだけ愛おしく感じられてきたんだ」

彼女は僕の言葉に真剣に耳を傾け、必死に理解しようとしてくれている。

「ごめん、意味わかんないよね」

「ううん、そんなことないよ。確かに、人それぞれに想いがあり、それが言葉にならなくても、その気持ちは存在するのかもしれない。何も書いていない短冊にも、それはあるのかも」

「ごめん、変な話で。そもそも僕の勘違いとか、夢とかかもしれない。なんだかぼやけた記憶で確証がないんだ」

「そうなんだ、でも面白いよ。私も新しい発見ができた気がする」

彼女はじっと前を見て、大きく頷いた。

「私、短冊に書かれた言葉って、すごい気になる。それぞれに人の願いや思いが込められているって、本当に素敵だと思うんだ」

彼女の言葉に、僕も同意する。

「でも、時には願いがかなわなかったり、言葉にできなかったりすることもあるんだよね。だから、何も書かれていない短冊にも、きっと大切な想いが込められていたはずだよ」

「そうだね。そう思うよ、正直半分は意味不明だって今も思うけど」

「ふふ、そうだね」

夕暮れが近づくことを知らせるかのように、一羽の鳥が空に舞っていた。そして答え合わせをする必要もなく、まもなく日が暮れるだろう。実際、僕らがペットショップに着くころには、夕日が店のガラス窓を橙色に染めていた。

僕たちはゆっくりと店内に足を踏み入れた。夜が近いペットショップは何だか物悲しく、空気が以前に来たときと違うように思えた。動物たちは、夜が来るのをじっと待っているものもいれば、夜の訪れにそわそわしているものいた。客は数えるほどしかおらず、店員も僕たちからは一人しか見えなかった。その店員は屈んで在庫のチェックだかなんだかをしていて、僕たちに気がつかない様子だった。そんな彼の横を通り過ぎ、立ち止まることなくピギーのいる鳥籠を目指した。

以前と変わらずにビギーはそこにいて、僕たちをまっすぐ見つめていた(本当に見ていたかはわからないけれど、少なくとも僕にはそう思えた)。

「ビギー、元気だった?」

安堵と喜びを交えて、ドレラが問いかける。そんな彼女の問いかけに、ビギーは右足を少しだけ斜めに上げ、反応した(ように見えた)。

(続く)














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