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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #28.0

ドレラに聞いてみる?いや、記憶のことですらわからないのに、こんなことまで関わらせてはいけない、たとえ当事者だったとしても、だ。ドレラには伏せておくことにしよう。じゃあ、弟たちに聞いてみる?いや、これも良い案には思えない、おかしな人間だと思われそうだ。

こんなどうにもならないことをどうにかするみたいな話、国語の教科書に載ってた気がする。低徊だかなんだか。思い出したからってわけじゃないが、結局僕はその物語の主人公と同じことをした。大きな問題はとりあえず置いておいて、目の前のことを処理する。そう、帰ることにした。

ぼんやりと発光する人間?B級ホラー映画にすらならないだろう。だって恐ろしくないし、人に危害どころか迷惑にもならない。むしろ暗闇でありがたがられる存在になりそうだ。人々を照らし助けるハートウォーミングな物語だったらありえる?そんな馬鹿なことしかもはや浮かんでこなかった。

そういえば、その張本人らしきドレラはいま何をしているのだろう。ドレラに関係する人物には会ったが、本人には会えなかった。僕はドレラに会いたくなった。会って話がしたかった。イギーのことでも、どんな話でもいい。彼女と会話していると心が満たされる、それは僕にとっては間違いのないことで、誰にも奪えない真実だった。

陸上部の部員たちはすでにグラウンドに散らばり、各々の競技を始めていた。僕はそれをぼんやりと眺めながら、ゆっくり立ち上がり、校舎を後にした。

家に帰ると、家族は誰もおらず、僕一人だった。洗面所で顔を洗い、自分の部屋へ向かった。とりあえずパソコンの電源を点けて、発光する人間について検索してみることにした。ミキモト君の言うことを全て信じているわけではないが、ドレラに関することは一応は調べておきたいと思ったからだ。我ながら生真面目だと思う。

結果は、発光生物とか、人間は実は発光しているとか、そんな内容のサイトや記事ばかりだった。もっとオカルト的な記事もあるかと思ったが意外にもそういうものは無かった。僕は少しホッとした。少しだけ、ほんの少しだけドレラの記憶と関連があるのかと思っていたためだ。

ただ、そうすると彼は僕にわざわざ嘘をつきに来たバカ野郎ということになる。まぁ、別にそれでも良いのだけれど、そんなに悪いやつではなさそうだったし、そこが僕の気になる部分でもあった。わざわざそんな嘘をつく必要が?もしかして僕とドレラが仲良くしているのを良しとしなくて、か?ありえなくもないが、なんだかこれもしっくりこない。結局僕はこれまた考えるのを止めた。

ひとまずやることがなくなったので、僕はピギーの続報を調べてみた。どうやら動きはないようだった。僕の危うい英語力ではかなり怪しいが、犯人から犯行声明とか要求は出てないみたいだった。そもそも犯人が個人なのかグループなのかもわからないけれど。

ビギー、君は今どこにいて、何をしているのだろう。お腹を空かせているかもしれない。えっと、キバタンは何を好んで食べるんだっけ、忘れてしまった。

君のご主人様は心配しているだろうね。君が無事に帰ってきて、主人を安心させて欲しい。そうすれば、遠い異国の少女が笑顔になるんだ。君は知らないだろうけど、君の御主人様は、その少女と世界を繋げる唯一の存在なんだ。僕なんかじゃ到底敵わない、唯一の存在なんだ。いや、唯一の繋がりといっていい。この繋がりがなくなったら、彼女は自分の存在が無くなってしまうと言う。僕はそれを望んでない。そしていつかは僕が繋がりとして存在したいと思っている。彼女がそれを望むかはわからない、でも僕はそれを望んでいる。だからそれまでの間、いつになるかはわからないけれど、君のご主人さまには彼女の支えとなる存在でいて欲しいんだ。

ビギー、わかるかな。だからどうか無事で、そしてイギーのもとへ戻って。

気がつくと僕は祈っていた。何もかもらしくないと思った。自分の中から出た思いではあるけれど、それに自分自信が驚いていた。彼女の存在がそうさせるのか、僕自身が変わったのかはわからない。けれど僕の中の何かが激しく蠢いているのを感じた。

翌日も彼女は学校を休んだ。そして彼女からの連絡はなかった。昼休みに弟を見かけた(兄、弟どちらかはわからなかった)が、なんだか間違えたら失礼だろうし、聞くのも憚られて、声をかけられなかった。

そのまま購買でパンを買い、屋上に出た。今回ドレラはいないけれど、念の為ミキモト君が潜んでいないか確認する。もしかしたらどこかに潜んでいるのかもしれないが、僕には目視できなかった、けど大丈夫だろう。雲に覆われた空はいつもより近く、そして重く感じられた。ベンチに腰を下ろし、パンを食べる。目の前に立ち、僕を見るドレラを想像する。焼きそばパンを見て、初めて見たとか言うかもしれない。僕は僕が作り上げた妄想上の彼女の天然さを笑う。けれど思い直す。彼女の天然さは彼女の記憶によるものなのではないか、と。しかしどうなのだろう、物の名称とかもすべて忘れてしまっているのだろうか?彼女は「私が私であることははっきりわかる」と言っていた。そして「過去だけがない」とも。果たして僕は、あの時もっといろんなことを聞くべきだったのだろうか?

(続く)

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