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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #49.0

二人とは駅まで一緒に行き、そこで別れた。ドレラはお腹も心も満足そうに、また明日といって笑顔で帰っていった。キミオ君も礼儀正しく僕に感謝を述べ、お辞儀をして姉の後に続いていった。

二人が電車に乗り、姿が見えなくなってから僕は自分のホームに向かい自宅のある駅に向かう電車に乗り込んだ。窓の外の暗闇を見るともなく見ながらキミオ君との初対面を思い出していた。彼と、ミキオ君は、彼女の秘密を知らずに、彼女のことを心配していた。3人がどんなことを考え、どんな風に過ごしているのかはわからない。ドレラはどこかで記憶の欠片を弟たちに求めているのかもしれない。弟たちはドレラの様子を気にしてはいるけれど、何が違っているのかはわからない。何かが違っていることには気づいているけれど。

偉そうなことを言うと、ドレラの秘密を知っているのは僕だけなのかもしれない。そのことは僕を高揚させると同時に不安にもさせる。なぜドレラは弟たちに話さないのだろう?いや、話せないのか。とにかく僕にはわからないことだらけだ。けれどドレラのためになるようにしたい。ドレラには悲しい顔ではなく笑顔でいてほしい、それを強く思う。

家に着くなり、母親が問いかけてきた。

「外で食べるなんて珍しいじゃない、もしかしてデート?」

見えないところからもう一つ声が足される。

「そんなわけないじゃない、お兄ちゃんに限って」

「あら、意外と珍しいもの好きの子だっているのよ、世の中には」

憎たらしい妹はもちろん、フォローにすらなっていない母親のことも無視して自分の部屋に向かう。一息ついて、またもや考えを巡らせる。自分はこんなにも考えるタイプの人間だったっけかな?ドレラに出会う前の自分がどんな風だったか思い出せなくなっていた。こんなこと言ったらドレラに怒られるかもしれないけれど。

キミオ君がビギーの歌を気に入らなかったのは何故だろう。真っ直ぐな性格なのはなんとなく察しが付くが、それと同じくらい相手への気遣いもできるはず。そんな彼があの場であんなことを言うのが不思議で仕方なかった。本当に気に入らなかっただけなのだろうか。何か他に理由があるのではないだろうか。

そんなことを考えていたら、ミキモト君からメールが届いた。大仰な絵文字で緊急性を伝えようとしてくるのだが、なぜかそれが嘘臭く思える。メールにも人柄が現れるのか、ミキモト君だからなのだろうとしか言いようがない。なにやら報告があるので明日学校で伝えたいとのことだった。もちろんビギーのことだろう。何か分かったことがあるのかもしれない。

断る理由などもちろんないので、良い話だという期待も込めて、即オーケーの返信をした。そしてすぐにドレラにもその件を伝えると、シンプルに「了解」という二文字だけの返事がきた。

次の日、僕とドレラは昼休みになるとすぐ屋上に行き、ミキモト君を待った。空は広く青く、雲すら存在していない。まるでこの世界を祝福しているかのように晴れ渡っていた。二人でなんとなく空を見上げていると、ドレラが視線はそのままに、僕に聞いてきた。

「キネン君は青空好き?」

「どうかな、好きなような気もするし、そうでもないような気がする」

「じゃあ、雨は?」

「外には出たくないけど、部屋から見る雨は好きだと思う」

ドレラはなんだか納得いかない様子で僕を見た。

「なんか、キネン君らしすぎてつまんない」

「なにそれ」

「もっとほら、高校生らしく、晴れてたら思い切り外で運動ができるだとか、雨は切なくなるから嫌いとか、あるでしょ、そういうの」

「その答えどっちも僕が言ったら笑うと思うんだけど」

「それはその通りだね」

「なんなんすか、いったい」

そこにミキモト君が鼻歌を歌いながら現れた。なんの歌かはわからない。でも確かめようとは思わない。

「いやいや、お二人さんお揃いで」

「ミッキーが呼んだんでしょ」

「おっとそうでしたそうでした」

やはりミッキー呼びが気になって仕方がないが、なるべく茶番に付き合わないよう、会話に割って入る。

「ビギーについての話だよね?何か動きがあったのかな?」

「売れちゃった、とかじゃないよね」

心配そうにミキモト君を見るドレラ。違うとは思うけど、僕も緊張してしまう。

「いや、ビギー君は元気にやってます、そして大いに歌っています」

ホッとするドレラを見て僕もホッとする。そして、無駄にドレラを動揺させる目の前の男に少し腹が立ってくる。

「昼休みの時間なくなっちゃうから、教えてくれないかな」

少しぶっきらぼうに僕は問いかけた。

「うん、いいでしょう、教えましょう」

昨日のキミオ君の爽やかさや礼儀正しさ、そんなものが彼に少しでもあればいいのに。

「実はビギーの歌には、規則性があったんです」

「え、ホントに?どんな?どんな?」

「落ち着いてください。最後まで話は聞きましょう、星野君」

ここ急かしてはいけない。これが、これこそがミキモトという男なのだ。

「ちゃんと聞くから教えて」

ミキモト君は締まりのない口から白い歯をこぼし、いいでしょうと言わんばかりの顔を僕に向け、続けた。

(続く)

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