【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)⑭

 それから数日は何も起きなかった。もちろんカズマサの頭の中のメリー・ゴー・ラウンドは回り続けていたが、それは早くなったりゆっくりになったりを繰り返していた。何度も「NINe Records」に行きたい衝動に駆られたけれど、さすがに連日訪れるのもどうかと思い、行くのを躊躇していた。

 ただ、一日一回は『ガールフレンド』を聴くことが日課のようになっていた。今またカズマサはレコードに針を落とし、自分と彼女とを繋げる唯一の証のような気がしているそのレコードを聴きながら、次の日曜には「NINe Records」に再び行ってみようと、決意を固めていた。しかしその機会はカズマサの思いより少しだけはやく訪れた。きっかけは今度も母親だった。

「悪いんだけど、今度の日曜に、また父さんの所行って欲しいのよ」
いつもならあからさまに嫌そうな顔をして拒否の姿勢を貫くはずだったが、今回は母親が拍子抜けするほどあっさりと了承した。そのせいで母親は訝しがったが、珍しく素直に行くといっている息子の気が変わらないうちに、という思いもあり、使いに行かせることを優先し、特に何も尋ねはしなかった。
「あと、あなたが言ってたテープレコーダー、知り合いが譲ってくれるってよ」
「え、本当?」
カズマサは思わず大きな声を出してしまった。母親との会話でこんな大声を出したのは数年ぶりかもしれない。
「ええ、何となく捨てられずに押し入れにしまってあって、引き取ってくれるならむしろ嬉しいって言ってたから」

 吉報は忘れた頃にやってくるのか、レコードショップとナナミのことで、忘れたわけではなかったがテープのことを頭の隅に追いやっていたカズマサの心に再び火が灯った。
「これも日曜になるわね。日曜にその人の家に行って引き取ってくるわ。悪くないお使いの謝礼でしょ?」
「うん、悪くない」
 

 素っ気なく答えたカズマサだったが、本心は喜びを爆発させたいところだった。母親の前でそれはできない、思春期特有の照れみたいなものかもしれない。部屋に戻るとカズマサはもはや習慣となっている『ガールフレンド』を聴いた。音に身を委ねながらも、もう一度日曜日のことをことを頭の中で整理してみた。簡単なことだ。父親に荷物を届ける、店を覗いてみる、家に帰るとテープレコーダーがある。これだけのことだ。ただここには大切なことが欠けていた。「ナナミに会う」という一点だけがそこから抜け落ちていた。予定ではなく、あくまでもカズマサの願望ではあったが。(続く)

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