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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)㉓

 二人は大事な何かを言いたいのだが、何から話したらよいかわからない、そんな様子だった。けれど何かを断ち切るように信二郎が口を開いた。

「さっきも言ったようにそのテープの中で歌っている男を私は知っている。間違いない、あいつだ。いや、正確には知っていた、が正しい」

カズマサとナナミは次に続く言葉を待ったが、信二郎から次の言葉は発せられなかった。

「この人はだれなんですか?」

カズマサの問いに信二郎は答えない。代わりに陽の差す窓際までゆっくりと歩き、外の様子に目をやった。

「その人は、信ちゃんの友達なの」

停滞していたその場を溶かすように奥様が切り出した。

「一緒にバンドもやっていたの。私も彼を知っている、とても」

「どうしてるんです、その人」

「わからないの。ある日突然彼は私たちの前から消えた。その時から一度も会っていない。だからこのテープを聞いてとても驚いたわ。久しぶりに彼の歌声を聞いたけど、間違いなく彼だわ。でもどうしてカズマサ君がこのテープを・・」

奥様の話を遮るかのように、外を眺めたままの信二郎が振り向きもせず二人に語りかける。

「二人とも時間は大丈夫かい。少し長い話を聞いてもらいたい。それがこのテープのヒントになるかもしれない」

「私は全然平気。カズマサ君は?」

「僕も大丈夫です。むしろこちらからお願いしたいくらいです」

「わかった。ありがとう」

 何か気持ちを整えるかのようにソファに深く座り直したあと、コーヒーを一口飲み、信二郎は、テープの男との出会いを語り始めた。とても静かに。その話は、彼が大学2年生の時からスタートした。

「どこから話そうか。あいつの名前は坂口というんだ。私は彼と大学で出会った。同じ大学だったんだ。あいつと出会ったのは大学2年のとき。それまでは全く知らなかったんだ、同じ学年なのに、だよ。

 そんなに大きな大学じゃないから、一年もいれば話をしたことがなくても顔くらいは知ってるはずなんだが、あいつのことは知らないどころか見たこともなかったんだ。

 俺は軽音楽サークルに所属していた。歌もギターもそれなりにできたもんだから1年生の時からサークルのバンドで重宝されてね、沢山のバンドを掛け持ちしたり、時にはヘルプで呼ばれたり、一目置かれていたし、わりと忙しく学生生活を送っていた。

 そしてそれが理由で調子にも乗っていた。若かったからね、何でもできそうな気になっていた。実際自分のバンドもやり始めていて、ライヴをやればそこそこ客も入ったし、自分は才能があるって思ってた。そんな時だよ、あいつに出会ったのは。

 2年の梅雨が終わったくらいの時期だったろうか、いつものようにサークルの部室でギターを弾いて、バンドのやつらと他愛もない話をして、夕方帰ろうとしていた。その頃は電車通いで、駅で電車を待ってる時に、突然背後から話かけてくるやつがいたんだ。もちろん名前も知らないし、見たこともない。駅だから大学の人間かどうかもわからない。ようは全く見ず知らずの男が話かけてきたんだよ。それが坂口だった。

「それ、ストーンズですよね?」

 男が指差す方向には私が持っているCDがあった。私は当時CDプレーヤーを持ち歩き、気に入ったアルバムを聴きながら大学と家を往復していたんだ。その日も電車に乗る前にアルバムをセットして、聴きながら帰ろうとしていたところだったんだ。

「あ、あぁ、そうだけど」

「自分もストーンズ好きなんです。いつも音楽聴いてますよね。駅でよくみかけるんで、同じ大学の人かなって」

 そんな感じで到着した電車にそのまま二人で乗ることになった。彼は4つか5つ先の駅に住んでいるらしく、それまでの間ストーンズについて私に語り続けた。そのほか話したことといえば、同じ大学で同学年であること、それだけだった。

別れ際最後に彼は言った。

「大学で会ったらまた話をしましょう、それじゃ」(続く)

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