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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #31.0

「ド、ドレラに弟いたの?」
「言ってなかったっけ?双子の弟がいるの」
「ふ、双子?」

「そう。高校一年生、ふたりともこの学校の生徒」

「マジですか?教えてよそんな大事なこと」

彼女は、そんな大したことじゃないと思って、といって弁明した。二人に会ったことをドレラに言う了承を彼らから取り付けていたにもかかわらず、タイミングを逃してしまった僕は、このまま知らない体でいくことにせざるをえなかった。彼女に嘘をつくような形になってしまい、少し心が痛んだ。

「でもその弟たちがなんで君を付け回すの?」
「なんだかいつもと様子が違うって言って・・・」
「それって・・・」
「そう、二人にはそう見えるみたい。でも私にはわからないの、彼らと私がどんなふうに育って関係を築いてきたのかが」

僕は言葉を何も返せなかった。
「いや、そんなに深刻に捉えないで。おせっかい焼きたいだけみたいだし・・」
僕を心配させないためなのか、本心かはわからなかったが、彼女がそういうなら僕もそのように振る舞わなければならない。

「そういえば、放課後ミキモト君と話するんじゃなかったっけ?」
「あ!」

二人同時に声を上げてしまい、一瞬の間を置いて僕らは笑ってしまった。そう、すっかり忘れていたのだ。さっき何かで彼のことを思い出したはずだったが、それでも彼との約束は思い出さなかった。僕らも相当悪いが、やはり影の薄さは彼の能力なのかもしれない。それはそれとして、なんとかしなければいけない。

「どうしよっか・・」
連絡先の交換もしていない。昔の人達はどうやって待ち合わせとか約束をしていたのか本当に不思議だ。いや、そんな呑気なことを言っている場合ではない、何か方法はないものか。ミキモト君のために引き返すのは正直面倒くさい。ドレラに関してはすでに考えるのを放棄して僕に期待しているようだった。

立ち止まっている僕らの横を学生たちが通りすぎていく。これでは早々に学校を脱出した意味がなくなってしまうのではないかと思ったが、こちらに関してもドレラは気にする様子はない。

「何か困りごとですか、お二人さん」

二人で声のする方向を見ると、それはミキモト君だった。
「いや、ある人との約束をすっぽかしちゃって」
「それはいけませんね、きっと探してますよその人」
「だよね、困ったな」
「でも引き返すのも面倒くさいし、いっかぁって、キネン君と二人でなり始めてたところ」

ドレラも同じように思っていたことがわかり僕は嬉しくなった。

「きっと、怒ってますよその人」

「明日謝るしかないかなぁ」

「そろそろ突っ込んでもらえませんかね、それとも突っ込んだほうがいいですか」
「あ、コヤギ君」
ドレラが本気なのかフザケてるのかわからない調子で驚く。とりあえず僕も乗っかる。
「ミ、ミキモト君じゃないですか」
「いや、もう茶番は結構です。それにこういうことは慣れっこです」

「ごめんなさい、コヤギ君、私達別の事情で、急いで学校から離れなければならなかったの」

半分は合っている急造の言い訳に僕も乗っかる。

「うん、ごめん、ミキモト君」
「そうだったんですか。それでも、声かけるとか・・・」
ミキモト君はほとんど聞き取れない声でブツクサと文句をひとしきり続けたあと諦めた様子で言った。

「わかりました、こうやって会えたのでよしとしましょう」

僕はドレラと並び、その後をミキモト君がついて来る形で僕らは歩き出した。結局ペットショップへは次の土曜日に行くことに決まった。ドレラの家の前(実質ミキモト君の家でも変わらないけど)に集合ということになり、僕にとっては、あっさりとドレラの家がわかると同時に行けることにもなった。

残りの会話はミキモト君の独演会状態となった。遠足のバスで置いていかれた話(一度や二度ではない)や、体育のサッカーで12人目として出場しつづけた話とか、そんな話だったと思う。彼の存在感のなさは、彼自身のネタのようになっているのかもしれない。僕とドレラはわりと楽しくその話を聞いていた。独演会の何個目かの話題の途中で僕らは駅に着いた。僕は二人とは反対方向なので、ここで別れることになる、はずだったのだけれど、

「コヤギ君、私達、ちょっとこれからデートなんで、ここで」
と、ドレラが突然切り出した。

「え?え?え?」
僕は理解が追い付かない。
「そうなんですね、やっぱり二人はそういうことなんですね」
「そのへんはご想像におまかせします」
ドレラがいたずらっぽく笑う。僕らはドレラの提案でミキモト君を見送るためホームへ向かった。約束をすっぽかしかけたお詫びの気持ちかもしれない。嬉しいようながっかりしたような不思議な表情で僕ら二人を見つめた後、ミキモト君は到着した電車に乗り込んだ。

「じゃあ、土曜日に」
「いや、学校でも会うじゃないで・・」
言い終わらぬうちに電車のドアが閉まる。車掌さんに少し感謝した。電車が発進し、小さくなっていく。僕は恐る恐るドレラの表情を確かめる。いつもと変わらない美しい横顔だった。

「あの、な、なんで?」
「だって、この後ミキモト君と二人で家の近くまで帰るのさすがに気まずいじゃない」
ドレラがそんなことを考えるのは意外だったが、ミキモト君の不思議さ(言葉を選ばなければ気持ち悪さ)が彼女にも伝わったのかもしれない。そしてデートが事実ではなく帰らないための理由づくりだったことにがっかりもしてしまった。

「じゃ、行こっか」
「え?どこに?」
「デートするって言ったじゃない」
「え、それはただだの・・」
「いいから、行こ」

反対側のホームへ向かう彼女の後を追う。次の電車はあと1、2分で来るみたいだ。その間に確かめなければならない。ホームは僕らの学校の生徒や他の帰宅する人々で賑わってきた。僕らは乗車する人たちの列に並んだ。ドレラは少し緊張した面持ちになり辺りを見回した。双子は見た限りではいないようだ。けれどもなぜか僕たちは周囲に聞こえないように小声で話すことになった。

「どこへ行くの?」
「キネン君の家の駅の一つ前にレコード屋さんがあるみたいなの。そこに行こう?」
「え?え?」
「嫌なの?」

「そんなことないよ」

「じゃ、決定」

戸惑いはしたものの、なんの異論もなかった。むしろドレラと一緒にいられるだけで嬉しい。そして彼女自身がデートと言っている。誰かに引き止められたって振りほどいて行くだろう。僕は即座に了承した。電車が定刻通りに到着し、乗り込んだ。乗車率が少し高めの車内で僕らは、少し離れてしまい会話はできなかった。降りる駅の手前でドレラが目配せしてきたので、僕は頷き、停車すると同時に下車した。

(続く)

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