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【小説】ウルトラ・フィードバック・グルーヴ(仮)㉛

「ちょっと待って、待って。まだ終わりじゃない。カズマサ君のテープに全然繋がってない」

全員の目がカズマサのカセットテープに向かう。しかしテープは何も教えてはくれない。静かにテーブルの上に身を置くだけだった。

ケースには手書きで「96/02/21」と書かれている。

「普通に考えて日付だろうな」

「ええ。僕もそう思って、パソコンで調べてみました。でも何も出てきませんでした。96年の2月21日。ニュースになった出来事も特にありませんでした。もしかしたらなにか見逃しているかもしれませんが」

「ただ単に録音した日ってことかな」ナナミが割って入る。

「だろうな。96年か。ちょうど私たちのバンドが解散状態になった年、つまり俺や坂口が大学を卒業した年だな・・」

突然、信二郎が乱暴にソファーから立ち上がる。

「そうか、そうだったな。ちょっと待っていてくれ」

 そう言って信二郎は部屋から出ていってしまった。部屋にはカズマサとナナミ、そして奥様が残った。ナナミは奥様をちらと見たが、その表情から彼女の気持ちを読み取ることはできなかった。不安なようでもあるし、寛いだようでもある。ナナミは仕方なくカズマサに話かけた。

「ねぇカズマサ君は、坂口さんのことどう思う?」

「うーん、どうって言われても・・・。ちょっと信じられないような話だけれど、きっと本当の話なんだと思う。坂口さんて人は、なんていうか・・、才能があって、正直な人なんだと思うな。」

 「うん、私もそう思う」笑顔でナナミは答えた。

「あの、奥様、不躾だとは思うんですけど、この機会にしか聞けない気がするんで聞いちゃいます。信二郎さんとの出会いは?」

「フフフ。なんだか話に聞いてたナナミさんが、想像通りのナナミさんで、嬉しいわ。あと、奥様ってこそばゆいんでよして、ミズエでいいわ」

「え、あっ、はい。信二郎さんは私のことどんな風に言ってるんですか?」

「すっごく可愛くて素敵な子があのレコードショップに来てて、よく会うって。しかも選ぶレコードのセンスがなかなか良いって」

「え、いや、そんな、ありがとうございます」

とてもわかりやすく照れるナナミ。

「フフフ。私ちょっとヤキモチ焼いちゃって、私も一緒にレコードショップ行こうかしらって言ったら、やめろって止められちゃって」

「そうなんですか」

「そうなのよ。だから今日は会えて嬉しいわ。かわいい彼氏さんまで一緒にきてくれて」

「いや、違います、彼氏じゃないです、違います、友達です」

即座に、そしてきっぱりと答えるナナミ。

「・・・・・」

「あら、そうなの、お似合いなのに。あ、私と彼との出会いだったわね」

「そうです、そうです」

「結局これも坂口君のおかげって言えちゃうんだけど、彼と出会ったのはライヴハウスだったの」

「あれ、でもお二人が知り合ったのは信二郎さんが音楽を避けてた時期ですよね」

「そう、今の話はもちろん、彼が音楽をやっていたことも知らなかったわ」

「じゃあなんでライヴハウスで?」

「フフ。実は私と坂口君も知り合いだったの」

「えっ」

 ミズエの思いがけない言葉にカズマサは驚く。

「そういえばさっき、坂口さんのこと「私たちの前から消えたって」」

「そう、信二郎さんと出会う前から、坂口君のこと知ってたのよ」

「実はバイト先が一緒だったの。彼が大学1年生で私が2年。だから坂口君と信二郎さんが出会うよりも前なんだ。私は二人とは違う大学だったんだけど、住んでる場所が近かったの。だからたまたまバイト先が一緒になったんだと思う。ごく普通の街の定食屋。学生やサラリーマンが立ち寄る感じの。バイトの数もそんな多くなくてほとんどが大学生。私は良く言えばウェイトレス、別の言い方すれば注文聞きかしら。彼は厨房で黙々と炒めものを作る係。バイト中に話すことはなかったけど、帰る時とかに少しづつ話すようになっていって。彼が音楽をやってるのは知ってわ、バイト先にギターを持ってきたこともあったし。でも聞いたことはなかったし、どんな音楽をやってるのかも知らなかった。もはやあなたたちもわかるでしょうけど、自分のことをすすんで話すような人じゃなかったし」

二人は大きく頷く。そして話の続きを待つ。(続く)

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