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勝手に本人スピンオフ『宮本浩次VS玉置浩二 歌化け物とスーパーボーカリスト達の宴(3)』

(前回までのお話↓)

「おお吉井じゃねえか。お前、大丈夫だったのかよ?その、体の方は…」

体調不良で休業していた吉井に泉谷はつい小声で聞いてしまう。
「大丈夫もなにも、公式で発表した事、それ以上でも以下でもないですよ」

吉井は真顔で言い放った。
宮本はこういう時、どう声をかけていいのか分からない。
もしも自分が吉井と同じような状況になったら…。そう思うと言葉が詰まってしまうのであった。

「まあ、同情されるようになったら俺の商売あがったりなんでねえ。その辺にしといで下さいよ。ケッケッケッケ」

 乾いた笑い声を響かせる吉井。

「あれー?吉井君さ、君、今日のフェスに出演する予定はなかったよね?何でここにいるの?」

 不思議に思った玉置が言った。

「何でって…」

 そんな事を俺に聞くのか?さすがは天然歌化け物だなと思いながら吉井は答える。

「たまたまフェスの出演者チェックしてたら、まあとんでもない面子が集まってるじゃないですか。こりゃ『絶対になんかおこる!』と思って車3時間ブっ飛ばしてきたら、案の定でしたよ。流石は俺の嗅覚。『歌化け物達の宴』最高じゃないですか。ケッケッケッケ」

 吉井は不敵な視線を宮本に向けた。
「宮本君がやりたくないなら、それ、俺が出まーす。ダメですか?玉置さん?」
「吉井、お前なあ〜」
 泉谷は大きく肩でため息をついた。
「病み上がりだっつうのに、そんな事に貴重な時間も体力も使うんじゃねえよ」

「そんな事?」
ヘラついていた吉井の表情が一変する。

「これのどこが『そんな事』なんですか?日本のロック史上、いや世界のロック史上、いや、人類史上の歴史に残る大事件だ。俺はその目撃者、いや、当事者になりてえんだよ。その為だったら俺は命なんて惜しくねえよ」

 吉井の気迫に押し黙ってしまう泉谷と宮本。

 熱い気持ちが全面に出てしまい、我に戻った吉井は「とか言っちゃったりしちゃって…」と自嘲気味に笑った。そして玉置を見つめた。

「どうですか?玉置さん?俺じゃダメですか?」

 世界中の女達が言われたい言葉を玉置に投げかける。

 すると、玉置は満面の笑みを浮かべて言った。

「ダメっ」

 ウッと吉井がたじろぐ。

「カジュヤはもっと元気になるまで、おやちゅみしてなちゃい!僕が対決したい相手はぴろじなの!」

 駄々っ子に言い聞かせるように玉置は微笑みながら吉井に言った。   それがまた吉井を深く傷つける。その悲しみは怒りとなり、宮本へと向かった。

「なんだよ…。宮本君ばっかり!ずるい!」

 狡い?ずるい?ZU・RU・I?

 そんな言葉を浴びせられたのは小学生以来だった。新鮮さのあまり

 EAST END +YURIの「DA・YO・NE」のメロディラインに「ZU・RU・ I」がのっかり、宮本の頭の中を駆け巡る。

♪ZURUI〜!ZIRUI〜!

 ああ、あんな曲が世を席巻するような、まだまだ時代が浮かれていた頃、俺はepicとの契約が切れてミュージシャンから無職になろうとしていた。 同時期に活動していた吉井率いるイエモンはブレイクの大波にうまく乗り上げ、次々にヒット曲を生み出した。その波に追いつけ追い越せとばかりに エレカシも数年後にブレイクを果たしたがセールスではイエモンには及ばなかった。

その吉井が四半世紀の年を経た今、自分に「ずるい」という全くもって大人気ない言葉を投げかけている。

 大人気なさにかけては自分も負けていないつもりではあった。

 しかし、出演予定のない地方のフェスに何かが起こる事を見越して数時間も車を飛ばしてくるようなアグレッシブさまでは宮本は持ち合わせてはいない。

「トラブルには一切関わりなくない」と華麗にスルーしたB’z稲葉と
ミスチル桜井とは対照的に、自らトラブルを嗅ぎつけそこにダイブする男、吉井和哉。

その昔、レディオヘッドに「対バンやろうぜ、負けねえよ」と言った
吉井和哉。
「ミュージックステーション」において奥田民生が7・3分けの頭に背広を着た免許写真を披露し絶賛を浴びるや「俺の免許写真の方がすごい!」と
自ら番組スタッフに持ち込む吉井和哉。

 そもそも吉井と同い年で同じ歌謡曲に影響を受けたというのに、イエモンとエレカシの音楽は全く異なるものであった。

 イエモンの音楽にあってエレカシの音楽にないもの、それは「妖しさ」であった。

 その妖しさの正体はこれなのかもしれない。トラブルや争いに自ら身を投じて表現として昇華させる。それはまるで泥を吸い上げて華麗な花を咲かせる蓮の花のようだ。

 宮本は散歩コースの上野の不忍池に咲く蓮の花の美しさを思いおこした。あの極楽浄土のような美しさの下には真っ黒な泥の世界があるのだ。

これが吉井和哉の世界なのだ。
ウォーター!まるでヘレンケラーのような腹落ちの瞬間であった。

いや、ウォーターではなく、俺がここにいるのはそもそもファンタグレープが飲みたからで、それなのに何で自分はこんな事に巻き込まれているのか。宮本の脳内思考は忙しかった。

「聞いてんのかよ?宮本君。これで、玉置さんとのライブ出ないって
 逃げたら、俺、許せねえから」

 吉井が言った。その言葉に宮本はハッと我に戻った。

「逃げる?俺は別に逃げてねえよ!」

 クワッと着火する宮本。

「じゃあ、何でやるって言わねえんだよ」

「俺もいろいろやる事があるから…」

「いろいろって何だよ?」

「エレカシのライブとかレコーディングとか、あとソロ活動も同じくらい ライブとレコーディングあるし、テレビ出演も。あと古本の虫干しとか…」

「古本の虫干しだあー?」

吉井は呆れて声を裏返す。

「そんなもんなあ、俺が代わりにやってやるよ。何なら一生やってやるよ」

「そんなもんとは何だ?失礼だろ」

 怒りの表情を浮かべて宮本は吉井に向かっていった。

「やめろ!お前ら、何、やってんだよ。喧嘩すんなよ、喧嘩を」

 泉谷が二人間に割って入った。

「だって吉井君が俺の趣味を『そんなもん』て言うから…」

「はいはい、悪うございましたね」

「何だ?その小馬鹿にした言い方はよお!?」

「だから、やめろって!」

 泉谷はよろめきながら再び吉井と宮本の間に割って入る。

と、その時だった。

「おめーら、さっきからわちゃわちゃわちゃわちゃ、うるせえんだよ!」

 突然、突き抜けるような艶のある声が4人の頭上から降りかかってきた。

 驚いて振り返る四人。

 そこにいたのは「オーロラ色に輝く歌声を持つ北国の反社」こと、松山千春であった。

 ま、松山さん!  (続く!)

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