アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (5)

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  第  二  章

     ( 二 )

綾乃は2人の息子(祥・征)の子育てに奮闘しながら遺伝子研究にも勤しみ忙しい日々を送っていた。
次男征が小学校に入学し今までより自分の時間が持てるようになった頃、
綾乃は日枝神社の近くにある雅が私的に使っている別宅琳彩庵に招かれた。庭には吸い込まれる様な緑色の水が張られた池が静寂を醸しだし、2棟の書院風な茶室が趣を添え、竹林や梅林が琳彩庵を囲むように佇んでいる。
その凛とした空気感は都心の喧騒と隔絶された別世界の様だった。
「綾乃さん、お待ちしていましたよ。こちらは初めてだったわね」
「はい、お義母様、都心にこの様な静かな場所があるなんて驚いています。お義母様のお仕事場でいらっしゃるのですか?時々、こちらに出掛けられているのは知っていましたが。
今日はお招き頂き有難うございます。嬉しいです」
「今日は綾乃さんに大事なお話があって来て頂いたのよ」
「以前、桃生の言い伝えのことをお話ししましたね。
 桃生の血筋には果たす責務があると」
「はい」
「その責務はこの地球文明・人類発祥からの歴史・政治・経済・医学・芸術伝承・自然等有形無形全ての事象を記録・記憶することにあります。
その責務を全うする為にアシェラレイという仕組みが存在します。
アシェラレイにはその時代に応じて多数のネットワークを持ち時代の動向を陰ながらに見護っています。
異次元的な叡智も受け継がれ未来も観ることが出来ます。
しかし、アシェラレイは何時の時代も人類が如何なる状況に直面しても天上からのご神意が降りない限り時代に干渉することはありません。
このアシェラレイの統帥は桃生の血筋を以て受け継がれ、現在は私が担っています。
統帥は代々の統帥が次の統帥を指名し責務を受け継いでいきます。
綾乃さん、次の統帥は貴方に担って欲しいと考えています」
綾乃は余りの衝撃で言葉が出なかった。
「何も心配はありません。臆することもありません。これは綾乃さんの宿命であり御魂が心から望んでいることなでもあります。私もさようでした。
私と共に歩んで参りましょう。
綾乃さんにご紹介する方々がいます。どうぞ、お入りになって」
綾乃が取り付く島もなく、2人の女性と一人の男性が亜瑠宮家執事の若草さんと一緒に入ってきた。
「こちらは柚木麻子さん。こちらは栗崎紀代さん。お二人とも桃生の血筋で私と一緒に責務を果たしているのですよ。このお二人の後継者であり綾乃さんと共に責務を果たす方々は麻子さん紀代さんが選びますが、綾乃さんがお連れしても構いません。
私と麻子さん・紀代さんは全てが通じ合っています。
綾乃さんも姉妹の様な良き理解者と巡り会えることでしょう。

こちらの男性が神宮寺勝さんです。執事の若草さんの後継者となります。
ネットワークの管理や情報収集・連絡全ての諸事万般を計らってくれます。男性は丹後の真名の血筋から選ばれます。
マナ 太平洋諸島地域で信仰された神秘的な力の源とされる概念。
コドリント著「メラネシア人」には「人間の通常の力を超越し自然の共通法則の外側にあってもあらゆる事象に効果を及ぼすもの」とあります。
マナ - Wikipediaより引用・参考にしております
マナの壺の食物が絶えず豊潤であったというのはこの現象だったのかもしれません。丹後の真名は古代「気」を司り風を擁した一族の末裔であると同時に、大和の真の歴史を継承し日本の中枢にも通じています。ある国の王朝では王朝に与しない一つの系統が歴史の証人として正史を記し門外不出として受け継いでいると言われている様にです。
神宮寺さんは鳥の鳴き声の周波数を理解し意思疎通を図ることが出来ます。鳥は大空を自然界の様相を把握し情報を集め伝達することができます。鳥が神様の御遣いというのはこの優れた習性から選ばれたのかもしれません。
勿論自然界では鳥だけではなく全ての生命は各々の周波数を持ち意思疎通を図っています。

今、日本はバブルの高成長の中にいますが所詮は泡の中の砂上の楼閣です。これから日本や世界は大きな混乱の時代を迎えます。
その時こそ綾乃さんが統帥として立たれる時。綾乃さんの持つ霊性で導いていってください。
アシェラレイは干渉することは出来ませんが、日出るものの術を伝達することは出来ます。綾乃さん、邁進されてくださいね」と雅は優しく微笑んだ。
「お義母様、突然のことで混乱しています。私が統帥?無理です。
お考え直しください。まだ祥も征も手が掛かりますし主人の考えもありますし、実家の両親も驚くと思います」
「何も心配はいりませんよ。ご実家のご両親様には開がイギリス留学の前にお会いしてお話ししてあります。開が貴方を連れて来た時から後継者は貴方にと決めて準備をして来ました。主人も承知しています。開は私が統帥であることは知りませんが何かを感じ取っているでしょう。家庭のことも今迄通りで構いません。大切なことは綾乃さんの覚悟です。
綾乃さんのお誕生日に私から開に話します」
綾乃は「私はどうしたら良いのだろう?」鉛の様な不安の思いを抱えながら帰路に着いた。

綾乃の誕生日、子供たちが寝静まった後、義父誠一も同席して開に義母雅が
「綾乃さんを私の後継者に決めます。アシェラレイの統帥となります」
開は目が飛び出さんばかりの驚いた顔をしたものの静かに
「そうですか。やはり綾乃でしたか。子どもの頃から母さんは何か大事な役目をされているのだろうな?と感じていました。アシェラレイがどの様な組織か分かりませんが、父さんが母さんを信頼し見守ってきたのであれば僕も綾乃と子供たちを信頼し支えて行きます。一番大変なのは綾乃だろうから。綾乃は最愛の女性だからね。安心して僕に任せて欲しい」
亜瑠宮開 現在は亜瑠宮コンツェルンを率いている。イギリスから帰国した開は5年程大手の弁護士事務所で主に国際企業関係の事案に従事していた。世界的に成長したコンツェルンではその知識と人脈を駆使して手腕を発揮している。絶えず世界情勢に神経を尖らせているが、綾乃との京都散策を機に伝統文化への造詣を深めている。

本来ならば妻である私が開の支えとなるべきなのに、綾乃は開の温かい言葉に涙を零した。最初告げられた時は「何故、私なのか?」と抗う気持ちで一杯だったが、雅の真摯に責務を果たしている姿を見ていると
「これも桃生の血筋であり私の宿命なのだ」そして、「あの夜の瑠璃竹とアルルはこのことを示唆していたのだ」と受け入れ覚悟を決めたのだった。
開の御胸に抱かれた深い愛情に包まれ綾乃はアシェラレイの統帥に就いた。
綾乃の両翼になる桃生の血筋の二人には、仁義葵と香月真澄が選ばれた。
仁義葵は綾乃がラボで働いていた時の同僚である。研究職ではなく総務部に所属し雅の秘書的な仕事も兼ねていた。同期である為入社時から仲が良く一緒に旅行したヨーロッパや中東は楽しい思い出である。代々続く宮大工の家系と聞いていたので綾乃が声を掛け快く承諾してくれた。姉御肌で明快な性格を綾乃は頼もしく思っている。
香月真澄は柚月麻子が自分の後継者にと推薦した。綾乃や葵より少し年上で気象庁に勤務している。麻子の友人の池波流茶道家元のご息女であり幼少の頃から知っている間柄である。とても冷静で洞察力が鋭いが穏やかな白百合の様な雰囲気を醸し出している。
早くから自分の後継者にと思い折に触れ様々な話をしてきたので打診をした時には何の躊躇いもなく承諾したという。
葵・真澄は二人とも家庭を築いていることも綾乃には心強かった。
綾乃・葵・真澄は必要に応じて集まってくる情報を精査したり今後の動向を話し合って時代の成り行く様を見護っている。穏やかに時は流れていた。

立春の頃から白梅が綻び始めていた琳彩庵の梅林は満開を迎えている。
陽射しは益々太陽の輪舞を祝福するかの様に力強く注がれ、彩り華やかな春の目覚めを光の精霊たちが鈴を鳴らすように押している。
綾乃はしし座レグルスやおおいぬ座シリウスが輝く夜空を眺めていた。
風が舞うようなとても精妙な柔らかな夜の帳の中に身を切る颯の様に研ぎ澄まされた刀剣の波紋を感じていた。
「天上から問われている」
その問いの真が何を表しているのか分からず戸惑いながらも
「今回は受け入れざるを得ないかもしれない」と静かに目を閉じた。
数日後、琳彩庵で綾乃は葵・真澄・神宮寺に
「間もなく朱雀の鬼門が開きます。もう止めることは出来ません。
私達は大きな濁流にならないことを只見守ることになりますが、出来るだけの策を尽くしましょう。
神宮寺さん、地球の儀の晶の方にお知らせてください」
「承知致しました」
「真澄さん、その時の気象を予報してください。特に風のデータを。
葵さんは混乱に備えてインフラや交通関係の構築をお願いします」
綾乃は日本海域全体に結界を張り少しでも緩やかである様にと海流との波動同調に務めた。
綾乃は統帥だけが入ることが出来る紫鏡螺殿に向かった。
大きな水鏡の前に水晶の水鉢に奉られているマリアナ海溝の超真水に自らの血を垂らし結晶化して桃生の血筋を継ぐもの達に伝播した。


綾乃は穏やかな春の始まりのよく晴れ渡った何処迄も広がっている青い空を愛おしそうに見詰めていた。
「このまま何事もなく過ぎ去って欲しい」と願わずにはいられなかった。
太陽が天頂に昇り、阪神・淡路大震災が早朝だったこともあり、少し気持ちが緩んだのか急激に眠気が襲い綾乃は「少し横になってきます」と告げ部屋に戻り倒れるかの様にベットに入り眠りに落ちてしまった。
日本列島が大きく揺れた。東京は震度5強を観測した。大きくまるで船に乗っているかのように大きな横揺れだった。東京の交通網は遮断された。各地での被害の状況が刻々とテレビから流れて来た。大震災は多くの国民の心にも悲痛な爪痕を残した。
NASAは東日本大震災で地球の形状軸が17㎝動いたことを報告した。
(1日の時間が1.8マイクロ秒短くなりましたが歳差に吸収された様です)


綾乃は身体へのダメージが酷く1ヶ月地震酔いに苦しみほぼ寝たきりの状態過ごした。漸く体調が回復した頃、綾乃に一つの身体的変化が現れていた。
綾乃は大地の振動と波形を身体に感知する様になっていた。
振動の強弱・地表に近づいて来るほど強くなり地震発生の予測し
火山性・スロースキップ・回転性等波形の認識により日本周辺の地殻の変化を認知できるようになっていた。
「あの時は何も出来なかった。例え大地震を避けられないとしても何か出来ることがあったはずだ。これから日本列島の地殻変動は益々大きくなる。
更なる被害を出してはいけない」綾乃は自分の身体を通じて大地の波形を緻密に追っていた。
大震災の余震が漸く落ち着き始めた頃、綾乃は今までに感じたことのない不気味な鋭角的な大地の波動をキャッチした。三重沖が大きく揺れた。
紀伊半島南東沖地震 フィリピン海王プレート内で発生した逆断層型のプレート地震。
P○PSは南海トラフにおけるプレート境界固有域のはがれによって発生した。巨大地震サイクルの中盤においてプレート境界における中規模地震が発生したことは次の巨大地震の準備プロセスが進行していることを示しているという分析結果を公表した。(Yahoo!ニュースより引用しています)
「この地震をきっかけに九州や関西地方が揺れて行くだろう」
この綾乃の予測通り2週間後に熊本は2回も震度7の地震に見舞われた。
綾乃たちは今まで以上にネットワークを駆使し情報収集に奔走した。
ネットでは出雲大社の国旗が半分に切れて落ちたことから西日本が沈むのではないかという実しやかな噂が流れていた。
ここ数年の相次ぐ地震で西日本の主要な場所の鬼門が崩れてきた。
線状帯による豪雨も各地に甚大な爪痕を残している。
「日本だけではなく地球全体で極端な気候変動が始まっているのだわ。
準備を怠らず、崩れた結界を少しでも修復出来るように計らってください」

当時、この熊本地震発生メカニズムを解析されていたサイトがありました
聖書を研究されている一般の方のサイト?
このサイトに書かれていた見解は他では見受けられないものでした
令和6年1月1日の能登地震に繋がる記述もありました
ご紹介出来ないのが残念です(現在は閉じられてしまった様です?)


太平洋プレートがマリアナ海溝でフィリピン海溝の下に潜り込んでいる
阪神大震災・鳥取地震・熊本地震等で動いた地殻の揺り戻しの地殻変動に注視し、更にそこからの南海トラフへのプロセスの地殻変動にも注視することが肝要となる。

「人類は自分達の欲望の為に地球上の多くの生命を奪ってきた。
一つの生命が絶滅した時、その生命と相対する生命も絶滅する。
(鉱石・天然ガス・石油等のエネルギーも含めて在るもの全て)
それは、人類の種族・遺伝子情報を一つずつ破壊していく意味を持つ。
その為に地球の調和が大きく崩れ臨界を超えてしまった。
西日本は九十九の砦が動かないように最大の注意をしなければならない。
そして、東京の結界の強化を一刻も早く行わなければならない」
綾乃・葵・真澄は一層の邁進を心に誓った。


ローマ法王ベネディクト16世が退位
日本でも間もなく新しい御代を迎える
元号は万葉集 大伴旅人の和歌を出典とした  
「初春の令月にして気淑く風和らぎ 
 梅は鏡前の粉を披き蘭ははい後の香を薫らす」


綾乃は琳彩庵の庭の池の前に立ち、空にアシェラレイの徴を刻んだ。
池の水が二つに割れ地下に続く階段が現れ綾乃は降りて行き扉を開けた。
統帥だけが入れる海に繋がる空間が広がっていた。
大きな鏡が置かれ篝火が焚かれている。
 

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