アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (4)

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    第  二  章

時を超え 綾乃に繋げし宿命が 次なる光 鏡に映し


    ( 一 )

天海綾乃(てんみ あやの) 十九歳 
東京の医学部生で夏休みに実家に帰省していた時、同じ桃生郡にある伊奈神社の例祭に父と一緒に出掛けた。今年の例祭は海の中にある小島に橋が掛かり篝火が焚かれ、小島の竹林にひっそりと佇んでいるお社に参拝が出来る。夜の帳に焚かれる火は静かな波音と共にとても幻想的だった。

その夜、何処からか「綾乃 綾乃」と呼ぶ声が聞こえる。
眩しい月明かりの中からまるでお伽噺の天上の女神が瞼に浮かんできた。
「綾乃、今夜は有難う」
「あなたは、誰?」
「私は香久耶。伊奈神社を護り続けている媛巫女です。今夜は幻の瑠璃竹が60年に1時間だけ虹の七色の花を咲かせます。普通の人々の目には映りませんが地球にとっては重要な儀式なのです。立ち会って頂けますか?」
気が付くと綾乃は空に向かって立っている天橋立を真名鶴の羽衣を纏って登っている。
最上まで来ると次は海亀に乗って更に空高く登っていった。
雲一つない夜空から眼下を眺めると伊奈神社の竹林から七色の光が天に向かって伸びている。
「美しいわ。まるで月虹のオーロラみたい」
「七色の光は天上に地球上の傷ついた生命を届けます。
地球上の生命は各々バランスを取りながらハーモニーを奏でています。
故に一つの生命の絶滅は相対する生命の絶滅を招きます。
でも、心配しないでください。
その生命は宇宙で癒され再び地球に戻ってきます。
瑠璃竹が咲き終わった後、竹林は一斉に枯れてしまいますが翌朝には新しい竹林が蘇生されています。何時か綾乃はこの儀式の意味を知ることになるでしょう。今日は本当に有り難う」
翌朝、綾乃は何時になく気持ち良く目を覚ました。
「夢だったのかしら?実際に見ていたような感じがしたのだけれど。
光のシンフォニーの様なとても素敵な光景だったわ」
綾乃は早速父の祐樹に告げた。
父は考え込みながらも冷静に「不可思議な現象だが、綾乃にとって大きな転機になるかもしれない。先ずは学生としての本分を全うしなさい」と
これからを承知している様な言葉を掛けてくれた。
数日後、綾乃は20歳の誕生日を迎え母里実から桃生の言い伝えを聞いた。
「瑠璃竹の夢と関係してくるかもしれない」とまだ影も形も見えない何かに導かれて行く様な不思議さを感じた。
 
東京に戻り恋人の亜瑠宮開に伊奈神社での夜の夢を話した。
「綾乃は神社の娘だし、霊感も強いから何か予知夢じゃないかな?
お父上も大きな転機になるかもしれないと言ったんだろう。
まあ、大きく構えていれば良いんじゃないか?
そうだ、明日、古代メソポタミア展を観に行かないか?」
「良いわよ。美術館で待ち合わせね」
翌日、綾乃は美術館で待っていたが開は来なかった。
「急用でもできたのかしら?」
チケットもなく帰ろうとも思ったが折角だからと綾乃は長蛇のチケット販売の列に並んだ。すると、ある若い男性から突然「差し上げます」とチケットを渡された。驚いているうちにその男性は立ち去ってしまったが、綾乃は大きな声で「有難うございます」とお礼を伝えた。
美術館に入ると土偶や土器・生活に使われた品々が展示されていた。高床の祈祷場の復元も展示されその高さに驚いた。綾乃はゆっくり当時の暮らしを想像しながら丹念に観て回り美術館を後にした。
途中近くの氷川神社にも寄りお参りしてから家路に着いた。
夜、「ごめんごめん、急用が入ってしまった」と開から電話があった。
「もう~」と怒りながらもお喋りを楽しみ綾乃はベッドに入った。
深み行く黒羽色の微睡のなかで
薄紫の淡雪に見紛う程の光の粒子に包まれた柔らかに風にたなびく絨毯の様な深緑の氷川玉泉川ほとりの洞窟に、紺碧の神秘な瞳を持つ美しい龍神が姿を現し天を射るような威厳のある声で「汝の名はアルルである」と告げた。
綾乃には日常の一つだが、いつもは可愛らしい精霊が囁いてくれている。
更に初めて聞く言葉『アルル』に戸惑いを感じてしまった。

朝、目を覚ますと綾乃は早速調べてみることにした。
「アルルの女?アルル地方?」初めはありきたりのことしか出てこなかった
「アルル 女神」で検索すると「シュメールの大地・豊饒の女神ニンフルサグ」の別称でありエンリルの妹であることが分かった。
ニンフルサグとはシュメールの聖歌によると「天における真に偉大な女神」であり歴代のシュメール王の守護神でもあったと記されている。
シンボルマークはオメガ、究極の達成・成功を意味するという。
スイスの時計メーカーは1894年19ラインキャリバーが時計産業の在り方を永遠に変える事業であったことからオメガと名付けられている。
南フランスのプロヴァンス地方は中世ではスイスをも含むアルル王国も存在していたことから、忽然と消えたシュメール文明の一部は欧州に逃れその血筋を受け継ぎオメガの概念を知っていたのかもしれないと想像が膨らむ。
エンリルは父アヌ神と共にシュメール統治を預かる最高神であり、
「メ」と呼ばれる太古の神々によって定められた規範によって絶対的な効力としてシュメールは統治されていたということも分かった。

シュメール - Wikipedia Ω - Wikipedia アルル - Wikipedia
引用・参考にしております


「シュメール文明か。最古のギルガメッシュ叙事詩が有名ね。
日本にも海を渡って来たという文献がある。「メ」は初めて知ったわ。
時間や空間を超えて全てを見通せるということかしら?
古代遺跡に描かれている目・アメリカのドル紙幣に描かれている目もそういう意味なのかしら?」
「瑠璃竹の七色の花とアルル」
自分の宿命が少しずつ動き始めているのかもしれないと綾乃は身震いした。


『 「汝の名は Aruruである」 と伝えられたあの夜から
 貴女に辿り着いて この物語は始まっていたのね
 記憶と記録は 螺旋を描き 同じ時空を 同じ人類を生きても
 光のプリズムは 自由の翼を広げるのね  ありがとう・・・ 』

『ニンフルサグのシンボルマークは「Ω」
 これだけで充分に満たされていた
 小惑星レオナにによるペテルギウス星食
 流れる様な文字で綴られた巻物が降りてきた夢を見た
 更なるニンフルサグの3つのシンボルが新しい扉を開いた
 紀元前3千世紀 北極星はりゅう座トゥバン 「蛇の頭」 』
 
 
開が司法修習期間を終えたお祝いを兼ねて開と綾乃は六本木のレストランでディナーを楽しんでいた。
「無事修了おめでとう。お疲れ様」と綾乃は労いの言葉を掛け祝福した。
「ありがとう。ほっとしたよ。これで法曹の資格を得て安心してイギリスに留学出来るよ。でも、その前に綾乃を両親に紹介したいんだ。イギリスに行ってしまったら綾乃とも中々会えなくなるし。来週の日曜日はどうかな?」
「嬉しいわ。大丈夫だけれど緊張してしまうわ」
「決まりだな、有難う。迎えに行くね」
日曜日、綾乃は薄桃色のフェミニンのワンピースで緊張の面持ちで亜瑠宮家を訪れた。
「初めまして、天海綾乃と申します。
 本日はお招き頂きまして有難うございます」
「ようこそ、いらっしゃい。お話は開から聞いていますよ。
 今日はゆっくりなさっていらしてね。さぁ、どうぞ」
綾乃は開の父誠一・母雅と楽しい時間を過ごした。
「綾乃さんのご実家は京都の神社と聞いていますが?」
「はい、丹後桃生の竹籠神社でございます」
「そうですか、私の母も京都の出身なのですよ。
 何かご縁があるかもしれませんね。
 綾乃さんは将来医師として臨床の道を進まれるのかしら?」
「はい。でも、何れは遺伝子の研究に進みたいと思っています」
「それでしたら、亜瑠宮コンツェルンにラボがあるから卒業後はそこで研究  なさったら?開もその方が安心するでしょうから。
ねぇ、開。将来の奥さんは近くに居た方が嬉しいでしょう?」
「母さんったら」
「綾乃さん、そうなさったら。私も綾乃さんと色々とお話ししたいわ。
 開はイギリスに行ってしまうけれど、綾乃さんは是非遊びにいらしてね。   待っていますよ」
「有難うございます。では、そろそろお暇させて頂きます。今日はとても楽しかったです。有難うございました」
「送って行くよ」と開が綾乃に優しく声を掛けた。
仲良く部屋を後にする二人を誠一と雅が微笑ましく見送った。
「雅、綾乃さんは気立ての良いしっかりとしたお嬢さんだな」
「はい、清楚でありながらも秘めた意志の強さを感じました。
あなた、私の後継者は綾乃さんにお任せしようと思います」
「雅が決めたのであればこれも綾乃さんの宿命だろう。
 綾乃さんも何か感じ始めていることもあるだろう」
「えぇ、一度竹籠神社に行って参ります」
「そうだな、僕は何も出来ないが支えて行くつもりだ。
 雅も熟す機を待ちながら綾乃さんを見守っていこう」
「有難うございます」
 
開の車の中で綾乃は黙っていた。
「疲れたのか?母は綾乃を気に入ったみたいだ。僕も嬉しいよ」
「えぇ、お父様もお母様もとてもお優しくて楽しい時間だったわ。
 おばあ様も京都出身と伺ってとても親しみを感じたわ。
 開がイギリスに行っても伺おうかしら?」
「そうしてくれ、兄も仕事で世界を飛び回っているから綾乃が来てくれると  母さんは娘が出来たとすごく喜ぶと思う」
「えぇ、それではお言葉に甘えて」
「そうそう、イギリスに行く前に綾乃のご両親に会いたいのだけれど」
「両親に連絡をしてみるわ。
 京都は盆地で暑いから涼しくなる9月か10月辺りはどうかしら?
 私も試験が終わるし紅葉がそろそろだから、少し京都を散策しない?」
「良いね。そうしよう」
 
今年は猛暑の影響か?10月初旬の京都はまだ汗ばむ日が続いていた。
「京都は中学の修学旅行以来だな。外国人が増えたな」
「そうなのよ。外国の観光客が多くて色々な言葉が飛び交っているわ。
京ことばと相まって不思議な感覚になってしまうけれども、多くの方達に来て頂いてとても嬉しいわ」
開と綾乃は籠神社の近くにある実家の竹籠神社に着いた。
竹籠神社の御祭神は素戔嗚尊神、創建は崇神天皇の御代と言われている。
「ただ今~」
「お帰りなさい」母の里実が迎えてくれた。
「お母様、紹介するわ。こちらが亜瑠宮開さん」
「亜瑠宮開です。今日は押しかけてしまいまして申し訳ありません」
「いいえ、大歓迎ですよ。どうぞ、お上がりになって」
「はい、お邪魔致します」
居間では父の祐樹も待っていた。
「お父様、ただ今帰りました。こちらが亜瑠宮開さん」
「初めまして。亜瑠宮開です。宜しくお願い致します」
「綾乃から聞いているよ。ゆっくりして行きなさい」
「有難うございます」
「先ずは修習期間を終えたそうだね。
司法試験を現役で合格し修習期間も順調でこれからが楽しみだ。
法曹界はギリシャ神話の剣と天秤を持つ正義の女神テミスに象徴されるように正義と力が万民に等しく在る世界だ。裁判官のバッジは八咫鏡を形取っていて曇りのない目で真実を明らかにする使命がある。検事も弁護士も同様な高邁な精神だと思う。志を高く志を持って進んでいくのだろう。
イギリスにはいつ行かれるのかな?
イギリスも国土を海に囲まれて王室も今なお国民から尊敬と親しみをを以て迎えられている。皇室の方々も留学されている。大いに見聞して来ると良い。楽しみにしているよ」
「お正月が明けてから行く予定です。
大学院に入学する前に色々と準備をしたり、ヨーロッパを回ってこようと思っています。日本にも時々帰って来ます」
「綾乃も遊びに行くのかな?」
「えぇ、来年の夏休みに行きたいわ。お父様、良いかしら?」
綾乃の言葉を聞いて開が唐突に
「お父さん、僕は真剣に綾乃さんと交際をしたいと考えています。
 お許しください」と頭を下げた。
「まぁまぁ、そんな畏まらなくても。先ずはお食事にしましょう」と
里実が促した。
お酒が入って意気投合したのか父と開は夜遅くまで話込んでいた。
翌日、綾乃は開と丹後半島巡りを満喫した。
「丹後半島は何か異国の香りがするな~」
「えぇ、この辺りは古代の渡来族の伝承が多いのよ。竹籠神社のある丹後桃生もそうよ。遺跡とか言葉なんかもアジア圏というよりオリエンタルの様な感じかな?
鄙びているけれど静かで良いところよ。冬はとっても寒いけどね」
開と綾乃は綾乃の友人と会ったり神社を巡ったり伝統工芸を見学した。
「綾乃が京都で一番お気に入りの場所は何処?」と開が訊いた。
「そうね、青蓮院も好きだし蓮華寺のお庭も好きだし。迷ってしまうわね。
う~ん?下鴨神社の糺の森かな?京都の中でもすごく静かで小川も流れていて心が洗われるというというか空気が澄んでいるというかとても居住まいを糺される森ね。
下鴨神社はとても落ち着ける神社よ。葵祭が有名なの。籠神社にも葵祭があるのよ。加茂神社では祭員が頭に葵の葉をつけ籠神社では藤の花をつける。2つの神社は所縁が深いと言われているわ。カモがネギを背負ってくるというのは加茂族が上加茂・下鴨神社の神官の禰宜を担っている事ともいわれているし、色々と歴史があるのね」
二人は一週間程京都散策を楽しんで東京に戻った。
 
二人が東京に帰った夜に、天海家に亜瑠宮雅から電話が入った。
「この度は開がお世になりまして有難うございました。
お陰様で綾乃さんとのご縁も深まったと喜んでおりました。
尽きまして、ご両親様にお話ししたいことがございまして
お伺いしたいのですが宜しゅうございますか?」
「はい、どうぞお越しください。私も少しお尋ねしたいことがあります」
「有難うございます。では、2週間後で如何でしょうか?」
「はい、結構でございます。お待ちしております」と電話を切った。
「亜瑠宮様からですか?」
「あぁ、2週間後にお見えになるそうだ。
これは覚悟をしておかなくてはいけないことになりそうだ」
「そうですね」里実は哀し気な瞳を空に移した。

2週間後、亜瑠宮雅が訪ねて来た。
「お待ち申しておりました。どうぞこちらへ」里実は居間に案内した。
居間で待っていた祐樹と改めて二人で訪問のお礼を伝えた。
「母の里実でございます。ようこそお越しくださいました」
「亜瑠宮雅でございます。こちらこそ突然な不躾な申し出をお受けくださいまして有難うございます。本日は折り入ってご相談させて頂きたいことがございまして伺わせて頂きました。
早速ですが、里実さまもご存じだと思いますが、私はアシェラレイの統帥でございます。綾乃さんに先日お会い致しまして、次期統帥は綾乃さんに受け継いで頂きたいと望んでいます。
突然の申し出をお許しください。さぞ驚かれたことと思います」
暫く悲痛とも言えるような沈黙が続いた。
「何故、綾乃なのでしょうか?」
里実は心の底から絞り出すような声で尋ねた。
雅は慎重に言葉を選びながらも毅然と
「ご神縁と言いましょうか?ご神託と言っても良いかもしれません。
理屈ではなく私が感じたということでございます。
里実さまも桃生の血筋を引き、ましてや竹籠神社に嫁がれた御身。何時かはこの様な日が来るかもしれないと思われていらしたのではありませんか?」
「はい、瑠璃竹の話を聞きました。確かに綾乃は幼い頃から巫女的資質が強いものがありました。生まれた日には彩雲が出ておりましたので、何かお役目をもっているのかもしれないと感じました。でも、統帥とは・・・」
「お気持ちは充分お察し致します。私も最初は固辞しましたが『これも私の宿命なのだ』と受け入れました。確かにお他人様には分からない悩みや不安もありましたが今は自らが選択した道であると邁進しております。
綾乃さんもご自分で選ばれて行くと思います」
里実は逡巡しながらも
「さようでございますね。桃生の女性は心の何処かで覚悟を決めているのかもしれません。桃生の血筋からは統帥だけが選ばれるのでしょうか?」
「詳しいことは申し上げられませんが、他に補佐として桃生の2人の女性が選ばれます。この方達は私が選ぶという訳ではなく、後継者が決まると自然とご縁が結ばれて行き綾乃さんと共に責務を果たして行きます。決して強要されることはなく環境も自然と整い全てが必然として歩むことになります。私の場合もさようでした。
時間と万全な準備をして参りますから御心配には及びません。
お任せ願いませんでしょうか?宜しくお願い致します」
二人の心情や思いを真摯に受け止めながら見据えていた祐樹が徐に
「承知致しました。宜しくお願い致します」と頭を垂れた。
里実も覚悟を決めた様に静かに頷いた。
「有難うございます。息子の開はイギリスに留学してしまいますが、綾乃さんとの交流を深める機会を多く持って行きたいと思います。そして、機が熟した時私から告げたいと考えています。全力で綾乃さんをお支えしていく所存です。天海様も不安や新心配なことは何でもおっしゃってください。
何といっても綾乃さんの一番の支えはご両親様ですので何でもお申しつけください」と雅は深々と頭を垂れた。
 
2月梅の花がちらほらと咲き始めた頃、開はイギリスに旅立っていった。
「行ってしまったわ」綾乃は寂しさを感じていた。
一緒に見送りに来た雅が「お茶でもしましょう」と声を掛けてきた。
二人は空港を出て東京に戻り皇居近くののレストランに入った。
「大学のお勉強は如何?」
「無事3年生に進級出来そうです。本当に学ぶことが多すぎて大変です」
「綾乃さんは桃生の言い伝えを聞かれたかしら?」
綾乃は雅の突然の問いかけに驚きながらも
「はい。そう言えば開のおばあ様が京都のご出身だとか?
 亜瑠宮様もご存じでいらっしゃるのですか?」
「えぇ、私は東京生まれですが桃生の血筋を受け継いでいます。
 どんな風に感じられたかしら?」
「私は遺伝子学を専攻したいと思っていますのでその一定の血筋だけに受け継がれて行くものはあると思います。ミトコンドリアDNAは母親から子に受け継がれて行きますから母の話を聞いて腑に落ちたというか何か安心したというか懐かしいものを感じました。
桃生の女性には桃生独自のミトコンドリアDNAが刻まれているのかもしれません。私は幼い頃から霊感が強くて、神社の娘に生まれたというのもあるのかもしれませんが何か理屈というか人智を超えたものが存在している様な感じがします。上手に言えませんが。
こういう話をすると変わった人と思われてしまいそうですが」
「私も同じですよ。私も他人様のなかでは異質なのかもしれません。
綾乃さんは何か不思議な経験はあるのかしら?」
「はい。実は・・・」綾乃は何のためらいもなく瑠璃竹の虹の花とアルルの話を始めた。雅は時々頷きながら静かに聞き入っていた。
「この不思議な出来事の意味することは何だと思われますか?」と綾乃は
思い切って雅に尋ねてみた。
「先ず、アルルと呼ばれたことは、きっと綾乃さんが遺伝子を専攻していることに関係あるのではないのかしら?興味があるということは何かご縁があるということね。ご先祖様のなかにお医者様がいらしたとかもっと遡って過去世とかね。
アルルがニンフルサグの別称であるのであればニンフルサグは人類を創ったという古文書の研究もありますから、綾乃さんも人類の遺伝子創生の仕組みを記憶に有しているのかもしれませんね。だから、天上に傷ついた地球の生命を届ける七色の光を視覚することが出来たのでしょう。
綾乃さんには何か神秘な力があるのでしょう。
遺伝子を研究専攻しているのも魂の叫びからもしれません。
旧約聖書のアブラハムはメソポタミア地方のカルデアのウルに生まれています。ウルはシュメールの王朝が栄えた地であり月神ナンナが守護しました。古代イスラエルの民にも深くシュメールが関わっているように感じます。
綾乃さんの使命であり責務なのでしょう」
綾乃は素直に耳を傾けていた。雅の声が心に染み入ってきた。
雅と綾乃の御霊が静かに共振し溶け合って行く様だった。
この事をきっかけに二人は急速に交流を深めていった。
時々帰国する開も「まるで綾乃は母さんの恋人みたいだな」と驚く程だ。
大学を卒業し綾乃は亜瑠宮コンツェルンラボで遺伝子研究に勤しみ
2年後、開の帰国を待って華燭の典を挙げた。



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