アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (3)

アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (1)|花音 (note.com)
アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (2)|花音 (note.com)

  第 一 章   ( 四 )

はにかんだ様な可憐な秋桜が涼風に嫋やかに揺れ始めた頃、
父透は亜瑠宮綾乃を訪ねていた。
「ようこそ、お越しくださいました」
「こちらこそお招き頂き有難うございます。本来ならば夏にお伺いしなければいけない処遅くなりまして申し訳ありませんでした。りらのことは義父の淳史から承っております。伊奈神社の由緒も珠美との結婚の時、義父から伝えられていおりましたが、私共も逡巡しておりまして、どの様に受け止めて良いものかと」
「舞藤様が『何故、りらなのか?』と困惑されるお気持ちは充分理解しております。
なれど、舞藤家も古くから雅楽を以て朝廷に仕えた名家。秘かに聞き伝えれたことがおありでしょう。奥様の珠美様も伊奈神社のご息女として強いては桃生に生を受けた女性としてこの意味をご理解されていることと思います。
非情な申し出とお思いかもしれませんがこれはりらさんの宿命なのです。
私も同じでした。抗うとしても魂に刻印されている責務を自然と担うことになって参ります。御心配やご不安は重々承知しておりますが、私が誠心誠意を尽くして全てを図らって参ります。私は一人の人間としても幸せを感じております。全ては自然の流れの中にあると受け止めています。
りらさんを私にお預け頂けませんでしょうか?宜しくお願い申し上げます」と綾乃は深く頭を下げた。
「亜瑠宮様、お上げください。覚悟をして参りましたがいざとなると、親というものは脆いものですね。しかし、これがりらの宿命であり御霊がが望むものでもあるのであれば、りらを宜しくお願い申し上げます」
「有難うございます。ご理解を賜りまして心から御礼申し上げます」
「これは舞藤会の招待状です。どうぞお運びください。りらも再会を喜ぶと思います。お待ち申し上げております」
「有難うございます。私も皆様にお会いできます事楽しみにしております」
「それでは、お暇させて頂きます」透は部屋を出た。
「りらの宿命か。先ずは私たちが糺さねば」と覚悟を秘めた。
綾乃は窓から透を見送っていた。
「始まる・・・」と決意を新たにした。


秋の舞藤会が開催された。りらも巫女舞を披露した。
楽屋に亜瑠宮綾乃が訪れていた。
「今日はとても素晴らしい会にお招き頂きまして有難うございます。
久しぶりに舞を堪能致しました」
「こちらこそお運び頂きまして有難うございます。
ご紹介させて頂きます。こちらは長女みらです。いずれ私の跡を継ぎ舞藤流家元になります。こちらは長男悟です。今日は笙を吹いておりましたが音大でチェロを専攻しています。そして、先日お声がけ頂きましたりらです」
「素敵なご姉兄妹ですね。みらさんの舞には気品の中にも艶やかさが感じられました。情感溢れる舞手になられるでしょう。楽しみですね。
悟さんは笙とチェロで儚さをも奏でられることでしょう。期待しています。
是非、皆さん一度遊びにいらしてください。お待ちしております。
奥様の珠美様にお目にかかりたいのですが、カフェでお待ちしているとお伝え願えますか?」
「承知しました。後程伺わせます」
「それでは、皆さんご機嫌様。楽しみに待っていますね」
綾乃は楽屋を後にしカフェに向かった。
みらは「素敵な方ね。是非伺いましょう」と喜んでいた。


「亜瑠宮様でいらっしゃいますか?」
「はい。珠美様でいらっしゃいますか?お呼び立てして申し訳ありません。少しお話をさせて頂きたくて、さぁ、どうぞ。
本日は舞藤会にご招待頂きまして有難うございます。とても素晴らしい時間を過ごさせて頂きました。お子様方も才能豊かでしっかりと将来を見つめて精進されているご様子ですね。
ご両親様の愛情の賜物でしょう。お幸せですね」
「有難うございます。まだまだ未熟ですが可愛い子供たちです」
「今日はりらさんのことでお話がございまして」
「はい、父と主人から伺っています。私も伊奈神社の娘ですから統帥が桃生の血筋を引くものから選ばれることも知っております。
只、余りにも突然でしたし、まだりらは19歳ですので何も知りません。
不安が大きく戸惑っています」
「そのお気持ちは充分にお察し致します。私の母も同じだったと思います。只、私は20歳を超えていましたのでその伝承は母から聞いておりました。予兆のようなものも感じておりましたので、戸惑いながらも必然的に受け入れて参りました」
「みらさんはこの伝承をご存じですか?」
「はい。みらも戸惑うと思います」
「そうですね。でも、これも桃生の血筋を引くものの定め。戸惑いながらも奥深くに眠る御魂が受け入れていくものかもしれません」
「はい、抗いつつも受け入れていく霊性なのでしょう。亜瑠宮様をご信頼し謹んでお受けすると主人も申しておりました。りらをどうぞ宜しくお願い致します」
「私の真意をお汲み頂き有難うございます。心から感謝申し上げます。
私を始め皆様方のご協力の許、自然な流れの中で尽くして参りましょう。
一番大切なことはりらさんがりらさんらしい人生を歩むことですから」
「はい」珠美の目に光るものがあった。

 
楽屋にはみらの同級生でありりらとも幼馴染である天翔蒼が訪れていた。
天翔家は紀州徳川家で天文を担っていた家系であるが芸術にも造詣が深く、世界的指揮者である天翔忠文がりらの祖父舞藤祐太朗と大学の同窓であったことから家族ぐるみの交流が続いていた。

天文の歴史は人類の歴史と共にあった。
日本では推古天皇の飛鳥時代に中国から天文学が移入され発展していくことになり、奈良~平安時代には朝廷に陰陽寮(天文博士・暦博士・漏刻博士・陰陽博士)が置かれ、天変を天皇に密奏したり凶兆である場合は呪術や祈祷を執り行う星占的な側面が強かった。
江戸幕府が天文台を設置してから科学的観測を行うようになったが陰陽寮の影響は大きく明治以降になって漸く廃止された。
江戸城に天文台を造ったのは徳川吉宗である。天文学の重要性を知っていたのである。(Wikipediaより引用・参考にしております)

「みら、おめでとう。流石頑張り屋のみらだな。色香も加わって素敵な舞だったよ」
「蒼、ありがとう。アメリカから戻ったの?」
「あぁ、漸くアメリカでの研修が終わり、日本宇宙機構財団に勤務することになった。りらちゃん、大きくなったな。あの泣き虫な女の子が巫女舞をを披露しているとは驚いたよ。とても清楚な舞だったよ」
「蒼さん、お久し振りです。有難うございます。もう大学2年生ですよ」
「蒼君、アメリカから帰国したのか?」
父の透が声を掛けてきた。
「おじさん、ご無沙汰しております。はい、一ヶ月前帰国しました」
「そうか。もう落ち着いたのであれば来週の日曜日辺り我家で一緒に食事をしないか?アメリカでの様子も聞いてみたいし、みら達も積もる話があるだろうから」
「有難うございます。是非、宜しくお願いします」
日曜日、蒼は舞藤家を訪れ夜遅くまで楽しく話し込んでいった。
りらは蒼に陰陽で不思議に思っていることを尋ねてみた。
「蒼さん、教えて欲しいことがあるの。
惑星の公転周期は様々な周期があるけれども、地球からの星々の周期は毎年大きくは変わらないと思うのに、昔の陰陽は何を以て天変を予測したの?」
「いい質問だね。あの頃は惑星や星座の座位というより流れ星や新星の発見という天体の変化を過去の文献と照らし合わせて天変を予測し天皇に密奏していたんだと思う。
月の満ち欠けも日蝕・月蝕の仕組みもまだ不可思議の時代だったからね。
それらの天象を統計・体系化させ古代からの伝承も合わせて陰陽は確立されていったのだろうね。
そして、そこには呪術という秘儀を生み出し今尚受け継がれている。
奥深く、ある意味触れてはいけない世界なのかもしれない。」
「そうなのね。難しいことは分からないけれどもホロスコープって何か魔法陣みたいな感じですものね。占う・予知すること以上にもっと不思議なことが秘められている感じがするわ」
「魔法陣か?きっと黄道12宮から占術するホロスコープだけではなく、
白道を27分割したナクシャトラも魔法陣なのだろう。
太陽と月がめぐり逢っての陰陽だと考えられる。
九曜では月の交点の昇降点がラーフ・降交点がケートゥ。
釈迦は息子にラゴラと名付けている」
この再会をきっかけにりらと蒼の二人は急速に親しくなっていった。

クリスマスイブ二人は赤レンガ倉庫近くの海の見えるクリーム色の煉瓦の壁がおしゃれな横浜のレストランで過ごしていた。
「今年はホワイトクリスマスね」
「あぁ、はい、プレゼントだよ、手を出してごらん」
蒼がピンクの星柄の包装紙にブルーのリボンがあしらわれた箱を、りらの掌に静かに置いた。
「有難う。何かしら?」りらが丁寧に包みを解き開けると、3つの小さなダイヤチャームが並んだ指輪が生命の産声の様に輝いていた。
「可愛らしい指輪ね。有難う」早速、りらは指にはめてみた。
「りらはオリオン座が好きだろう。
 だからこの指輪が似合うと思って選んだんだ。
 気に入ってくれて嬉しいよ」と蒼は安心した様子だった。
「有難う。星って遍く色彩の展覧会の様にきらきら輝いて綺麗ね。眺めていると心が花から花へ飛び交う蝶々の様にウキウキしてくるの。私は星から生まれて何億光年もかけて宇宙を旅して、色々な星に思い出を刻んでこの地球に生まれて来たのかもしれないって思ってしまうわ」
「そうだな、毎日宇宙を眺めていると自分達も宇宙を創造している輝きだと感じる。自分達の想像を遥かに超えた躍動が鼓動が宇宙には存在していると思うんだ。
りら、知っているか?人間には一人一人に守護星があると言われているんだ。それ程深く人間と星々とは繋がっているのだろう。
星々は人間達の生業を見守り助けて来たのだろうね。人類は幸せだね」
「心が温まる言い伝えね。そうするとクリスマスツリーのベツレヘムの星はキリストの守護星ということかしら?」
「キリスト誕生を知らせ三賢者をベツレヘムに導いたという星だね。
後世様々な検証が行われたが該当する天文現象が見当たらず、一時推測されt太陽の反対側に地球と同じような惑星が存在する反地球という概念は現代の科学的根拠からとんでもと一蹴されたが、以前測量学の講義を受けた時に教授が『自分たちは今分かることしか分からない。だからそれが絶対だとは言えない。いつの時代もまだまだ解明されていないことの方が多い。未知があるから希望があり可能性が眠っている。研究者は謙虚であることが大切だ』と話されていた。
僕もそう思うよ。宇宙空間を絶えず移動している星雲もあるかもしれない。太陽の反対側に同じような太陽系が存在しているかもしれない。地球から見えている太陽系と宇宙から見られている太陽系の姿は人類の概念を遥かに超えて、幾つもの時空間が重なる多層形であったり、公転周期も軌道も惑星や星々の位置も常に一律に定型ではないのかもしれない。
宇宙というものは本当に無限大であり、生命と同様に神々の領域に委ねられているかもしれないと思う。
人類の発祥も神々と共に在る。そんな風に感じるんだ。
昇降点黄経・天体の座標軸を表したり、宇宙の膨張率や密度揺らぎ等の宇宙の性質を表す一連のパラメーターを表す記号には『Ω』」が使われている。
『Ω』は天における真に偉大なる女神・シュメールの豊饒を司る女神
『ニンフルサグ』のシンボルとして刻まれている」
(Wikipediaより引用・参考にしております)
「そうね、時代がもっと進んだら地球以外の生命たちとも交流が出来るかもしれないわね。
『宇宙暦太古紀 太陽系に地球という惑星が存在した』という古文書を天の川銀河文書保存星媒体で未来の生命たちが学んでいるかもしれないわ」
二人は雪の結晶が舞い散る夜空をいつまでも眺めていた。

 
神々しく美しい黄金の光に満ちた初日の出が昇り新年を迎えた。
舞藤家は松の内に亜瑠宮家に新年のご挨拶に向かった。
亜瑠宮家は白金台の閑静な住宅街に広大な邸宅を構えていた。
「まるでベルサイユ宮殿みたいね」とりらが感嘆の声を上げた。
「流石、亜瑠宮コンツェルンの会長宅だな」と兄の悟も驚いた様子だった。
父透の運転する車が亜瑠宮家の門扉の前に止まると、門扉が開き透は邸宅に向かった。椿の生垣やつつじ・サツキが植えられバラ園や噴水も見受けられる庭園を抜けると豪奢な洋風な邸宅が見えて来た。
車寄せで神宮寺が待っていた。
車を付けると神宮寺が「お待ち申しておりました。お車をお預かりします」
父透は車の鍵を預け、母珠美・姉みら・兄りら・りら達が車を降りた。
「どうぞ、こちらへ。綾乃さまがお待ちでございます」と大理石の玄関を通り階段を上り赤いペルシャ絨毯が敷かれた廊下を進みダークグレイの扉の前に案内された。
「綾乃さま、舞藤家の皆様方が御到着されました」と神宮寺が声を掛けた。
静かに扉が開いた。首元に白いファーがあしらわれ胸元には小振りな牡丹が刺繍された緑色のベルベットドレスにウェーブがかかった美しい栗毛色の髪をなびかせた
綾乃が現れ「ようこそ、どうぞお入りください」と招き入れた。
幾何学模様の絨毯が敷かれ奥には暖炉が焚かれていた。天井のシャンデリアが大理石のテーブルと北欧の薄茶色のソファーが窓から差し込んでいる陽射しに輝いていた。 
「明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます
本日はお招き頂き有難うございます」
「こちらこそ宜しくお願い申し上げます。本日はお運び頂き有難うございます。
また皆様方にお会いできることを楽しみにしておりました。
生憎主人は会社の新年会があり、息子たちも今年は帰国しなくて私だけですの。お引き合わせしたかったのですが申し訳ありません。また次の機会にと思っています」
「お気遣いには及びません。亜瑠宮コンツェルンを指揮しているとあれば多忙を極められていることでしょう。子供たちも大人になると各々忙しくなる様です。悟も来週からオーストリアに留学しますし、みらはこの春結婚の予定です」
「まぁそれは楽しみですね。私の息子達は各々スイスとイギリスに居ます。宜しかったら是非、遊びに行かれてください。みらさんは春にご結婚となるとお忙がしくなりますね。何かお祝いを差し上げなければね。
りらさんは今年成人式と伺っていますが?」
「はい、誕生日は2月です」
「お祝い事が続いて宜しいですわね」
瞬く間に時間が過ぎ「これでお暇させて頂きます。本日は有難うございました」
綾乃は玄関まで一緒に降りて行きりらに、
「20歳のお祝いを用意しておきますからまたいらしてね」と声を掛けた。
りらは嬉しそうに「はい」と返事をして車に乗り込んだ。

りら達を見送り部屋に戻ると義母の雅が入ってきた。
「あの可愛らしく紫の凛とした瞳の女性がりらさん?」
「はい、お義母さま。私の後継者にと考えております」
「思い出すわ。綾乃さんも同じ位の年頃だったわね。息子開に連れられて初めて亜瑠宮家を訪れたのは。私もその時に決めましたよ。
『私の後継者は綾乃さん』とね。次はりらさんに受け継がれるのね。
お母様の珠美様はどの様なご様子だったの?」
「はい、最初にお会いした時は『何故、りらなのか?』と困惑されていらっしゃいました。りらさんを心配するお気持ちが切々と伝わってきました。
私が『私の母も同じ気持ちだったと思います。なれど母も桃生の血筋を受け継ぐもの。娘の宿命を受け入れざるを得ないと何処かで感じていたのかもしれません。
私も抗いたいと考えましたが、多分自分の御霊が望んでいることだと決断致しました。重責もありますが一人の女性としてもとても幸せです。
珠美様も桃生の血筋を受け継ぐもの。
何よりも大切な事はりらさんがりらさんらしく在ることです。
誠心誠意を以てを尽くして参ります』
珠美様は涙ぐんでおられました」
「母親の愛情というのは海よりも深く空よりも広く高いものですね。珠美様は伊奈神社の御息女です。受け継がれる血筋の意味を何方よりも深く刻んでいることでしょう。
綾乃さん、珠美様に寄り添いアシェラレイ統帥としての責務の遂行を宜しくお願いします。現在の地球の状況を鑑みると更なる混乱と困難が待ち受けているでしょう。
だからこそ、りらさんがアシェラレイ統帥として立たれて行くのでしょう。
ところで、地球の儀の晶の方とはいつお会いするの?」
「明後日、琳彩庵でお会いする予定です」
「そうですか、直にお会いするのは明治維新以来ですね。それだけ日本が
地球が瀕死の状態に陥っているということなのでしょう。
綾乃さん、差配を宜しくお願い致します」
「はい、お義母さま。最善を尽くしアシェラレイ統帥として責務を全うする所存でございます。お義母さまにもお力添えを宜しくお願い申し上げます」
 

雲一つない清々しいほどの晴れ渡った青空だった。
小豆色の生地に波とおしどりの絵羽模様が描かれた訪問着に亀甲紋の銀地の帯を締め、白い小花のチュールフェイスベールを付けた綾乃が伊藤若冲・日出鳳凰図画が掛けられた琳彩庵の茶室でお茶を点てていた。
「どうぞ」と松の文様をあしらった黒銀のベネチアマスクを付け深い紺色のスーツに亀が描かれた白銀のネクタイの正客の前に曜変天目茶碗を置いた。
「頂戴致します」と一口含み「結構なお手前でございます」と礼を述べた。
「本日はお運び頂きありがとうございます。地球の儀の晶さまとこうして直にお目見えすることは明治維新以来となります」
「さようでございます。いつも陰ながらのご尽力を誠に有難うございます。
我らがこうして直に見えるということは地球が瀕死の危機に直面している由縁からでしょう」
「本日は今後の構想についてご相談したくお越し頂きました」

『超えて開くもの  二つの輪廻相交え 静寂が混沌を包む
 深く深く 息を詰めて 子宮に還るもの 紫を抱く 』
 
 
 
立春が過ぎりらの誕生日、未明までの雨があがり珍しく朝に虹が掛かった。
両家の祖父母達も集まり閑静なレストランで心温まる笑い声が溢れる素敵な時間を過ごした。
「さぁ、そろそろ私たちは先にお暇するとするかな」の父透の声掛けで祖父母達やみら・悟達は帰宅した。
珠美とりらは部屋を変わり向かい合って座っている。
「お母様、何かお話でもあるの?お姉さまのお誕生日の時も二人だけで残られたでしょう?」
「えぇ、今からお話しすることは桃生の血筋を持つ女性に伝えられることな。、私も母から20歳のお誕生日に聞いたのよ。だからそのつもりでね。
古代から丹後国桃生郡桃生村に生まれた女性は霊力がとても高い。
桃生は丹後国の民は海の向こうからの渡来族ではないかと言われている様に、桃生も流れこそ違えど密かに大和に渡来し丹後国に溶け込んで行った少数部族だったのよ。
その桃生の歴史を伝承している仕組みがあり大事な責務を果たしているの。具体的なことは私達には知る由がないのだけれど、それらを司る統帥は桃生の女性の血筋で受け継がれ神縁で決まると言われている。このことを心しておいてね」
「難しくて分からないこともあるけれども、舞藤家も雅楽を以て朝廷に仕えてきた家柄だから何か腑に落ちる様に感じるわ。分かりました、心に留めおきます」
「有難う。これから先悩むこともあるかもしれないけれどもみんなが見守っているから大丈夫よ。さぁ、そろそろ戻りましょう」二人は帰路についた。

数日後、りらは亜瑠宮綾乃を訪ねた。
「いらっしゃい。お待ちしていましたよ。20歳のお誕生日おめでとう。
これは私からのプレゼントです。気に入ってくださると嬉しいわ」
「有難うございます」りらは箱を開けた。
「素敵~。有難うございます」とピンクサファイアにダイヤがあしらわれたペンダントを付けた。
「ピンクサファイアは幸運な星と言われダイヤは高潔な煌めきを現しているのよ。りらさんに相応しいと思って。喜んでくださって嬉しいわ。
今日はゆっくりとお話ししましょうね。
去年の夏、伊奈神社で舞を奉納してから丹後の歴史を調べられたの?」
「はい。亜瑠宮様も丹後のご出身だと伺いました。教えて頂きたいことがあります」
「えぇ、私に分かることでしたら。その前に亜瑠宮ではなく綾乃と呼んでくださらない?何か堅苦しくて。宜しいかしら?」
「はい。それではお言葉に甘えまして綾乃さま。
聖徳太子についてですが、母間人皇后が丹後に身を寄せていたことから
丹後とは深い縁があるように感じられるのですが?」
「りらさんは古代史を専攻されていましたね。
私もりらさんんと同じように感じます。りらさんも霊感がお強いでしょう?私も同じですよ。歴史の授業を受けていても疑問に思うこともありました。聖徳太子は仏教を広めたとなっていますが、私はキリストと似ている要素が多いということを考えるともっと広い教義の様に感じます。そして未来記を残していることを鑑みると一族の行く末にも布石を置き、太子の叡智は受け継がれていると考えます。
ですから、今、尚信仰され続けているのでしょう。
多くの歴史学者や愛好家が様々な視点から聖徳太子を研究され書籍も出されていますから知識や時代背景を深めてごらんなさい。
熊野郡も当時の丹後国の重要な拠点だったのでしょう。
ところで、りらさんはお母様から桃生の言い伝えを聞かれましたか?」
「はい、桃生の血筋を引いた女性には重要な責務があると。
綾乃さまは丹後の竹籠神社の御出身だと祖父から聞きました」
「そうです。私も桃生の血筋を受け継いでいます。りらさんぐらいの頃だったかしら?」と綾乃は遠くを見つめ懐かしく思い出していた。
 
 
 
 
 
 

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