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Full Funnel Marketingとは?

マーケティングにおけるFunnelとは?

Full Funnel Marketing(フルファネルマーケティング)は、漏斗(ファネル)の形状を模した概念であり、顧客が最初に商品やサービスに関心を持ち、それを購入につなげるまでのプロセスを表現します。この手法では、顧客の行動パターンを認識し、それに合わせてマーケティング活動を展開します。

具体的には、下記のような図で表せます。

元々は純粋な逆三角形の概念であり、その下部にあたる三角形がなかったため、「Funnel(漏斗)」と名付けられました。逆三角形は上部(Upper)、中部(Middle)、下部(Bottom)の3つの層に分けられます。

マーケティングの理論では、顧客が商品やサービスを購入するまでに、いくつかのステップを踏むと整理しています。その代表的な理論の一つがAIDMAで、Attention(注目)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)の5つのステップから成り立っています。例えば、商品を購入するためには、まずその商品に注目し、興味を持ち、欲求が生まれ、記憶され、最終的に行動に移る、という流れです。

このAIDMAのステップを上から下に流れるように表現したのが「Funnel」であり、各段階でのユーザー数の概念も表現されています。例えば、最初の段階で多くの人が商品に注目するが、興味を持つ人はその中の一部であり、その後もユーザー数は段階ごとに減少していくことが一般的です。逆三角形の形が選ばれたのは、このAIDMAのステップが上から下に流れることを直感的に表現するためです。

AIDMAからAISASへ

AIDMAという概念の起源は不明ですが、インターネットが一般的になる2000年前後よりも前から存在していたのは確実です。事実私がマーケティングを始めた2002年同時からマーケティング業界において、AIDMAは広く認知されていたからです。

しかし、インターネットの普及に伴い、AIDMAに当てはまらない消費者の行動プロセスが増えました。特にECでの衝動買いのような場合は、従来のAIDMAには適用しづらい場合もあります。そのため、AISASというモデルが登場しました。AISASでは、3段階目が変わり、S(検索)、A(行動)、S(共有)という順番になります。

若い世代にとっては、DMAよりもSASの方が理解しやすいと感じるかもしれません。興味を持った商品を調べ、その後に購入するという行動プロセスがインターネットの普及によって一般的になってきたからです。また、良い商品や満足した商品をSNSで共有したり、オンラインストアでレビューを書いたりする行動も一般化しています。そのため、AISASでは最後にShareという概念が追加されました。

このような変化により、元々はきれいな逆三角形であったFunnelの概念が、最下層に上向きの三角形が追加されるなど、形や概念が変化しています。

Full Funnelの各段階を適切にコントロールする

Full Funnel Marketingは、Funnelのすべての段階に対して適切な量と質のマーケティング施策を実施し、Funnel全体を適切にコントロールするマーケティング手法です。この手法では、すべての段階に適切な施策を実施することが重要であり、そのためにはAISASの5段階に対する理解が必要です。商品やサービスの現状を正しく把握し、問題点を理解した上で、どの段階を改善し、どの程度の施策を実施するかを判断します。Full Funnel Marketingは、全体の状況を理解し、施策の組み合わせを適切にデザインし、Funnel全体をコントロールすることを目指しています。

2パターンの家庭用ゲームソフトの事例

それではもう少し具体的なケースを、パッケージゲームソフトの2つのタイトルを例に考えてみましょう。
完全新作の家庭用ゲームソフトと20年間続く老舗のスポーツゲームのマーケティングを比較すると、Full Funnel Marketingの適用方法は次のように異なります。

まず、完全新作のゲームでは、認知度を高めることが最初の課題です。なぜなら、タイトルのことを誰も知らないからです。この解決のためには広告、ソーシャルメディアキャンペーン、プレスリリースなどのUpper Funnel施策が必要です。次に、ゲームの魅力や技術的な進化を伝え、興味を持ってもらうためのMiddle Funnel施策が必要です。最後に、購入を促すためのBottom Funnel施策が重要であり、特典付きの予約キャンペーンや限定オファーなどが効果的です。また、購入後にはSNSなどを活用してユーザーがゲームの良さを共有するShare施策も重要です。

一方で、20年続くスポーツゲームは発売前に既に固定ファン層を持っています。こうしたゲームでは、新作の存在を知らせるUpper Funnel施策はあまり必要なく、Middle Funnel施策が重要です。つまり、前年からの進化や新機能を伝え、ファン層を納得させることがポイントです。そして、Bottom Funnel施策では、固定ファンが期待する特典やボーナスを提供し、購入を促します。最後に、Share施策では、既存のコミュニティを利用してファン層の拡大や情報の拡散を図ります。

このように、異なるゲームのタイプによって、Full Funnel Marketingの各階層に対するアプローチの方法が異なります。完全新作のゲームでは認知から購入までの全プロセスを適切にコントロールする必要がありますが、20年続くスポーツゲームは固定ファン層を持つため、中心にMiddle Funnelの施策を据えつつ、その他の段階も調整していくことが重要です。

それぞれのゲームのFunnelの計上を図解すると下記のようになります。


新作タイトルのFunnelイメージ


継続タイトルのFunnelイメージ


新作ゲームタイトルのマーケティングにおいては、まず、予算の限られた状況下でFunnel全体をどのようにバランスさせるかを検討する必要があります。特に、新作タイトルではそのゲームが成功するかどうかが保証されていないため、大規模なマーケティング予算を最初から投入することは稀です。そのため、予算の制約下でマーケティングを行う際には、効果的な施策を展開することが求められます。

上部の逆三角形の形状が鋭くなるのは、費用対効果を最大化するためマーケティングの施策をよりターゲットに絞り込む必要があることを意味します。このため、実施プランの策定段階においても、ターゲット顧客に向けた広告やプロモーションを精密に展開することが重要です。

また、インディーゲーム等でよくみられるのは、口コミによって売上を急増させる手法です。認知施策に予算をかける余裕がない場合などに有効です。しかし、その実現のためには当然商品クオリティが十分に競争力を持っていることが最低条件です。このような条件がそろっている場合は、お金はかけず、時間をかけて口コミ効果を期待する戦略が取られることがあります。

新作タイトルで大きな売上を達成するためには、マーケティング全体の規模を拡大する必要があります。しかし、それには当然リスクが伴います。これを軽減するためには、アニメや映画などの有名なIPを活用するなどして、Upper Funnelの顧客数を増大させ、中位と下位に予算を投入することで、マーケティングの成果を最大化するような手法がとられたりします。。

一方シリーズ物の老舗タイトルの場合、20年以上の歴史があり、固定ファンが既に存在しているため、重要なのはそのファンをどれだけ購入者に変換できるかです。そのため、マーケティングの重点はMiddle&Bottom層でのファンの離脱を減らすことにあります。したがって、マーケティング戦略では、この2つの層に焦点を当てることが重要です。理想的な状況では、Middle&Bottom層の形状は鋭利な三角形ではなく、台形のような形状になることが望まれます。また、固定ファン同士のコミュニティが存在する場合、これによって口コミ効果が期待されます。

ただし、ナンバリングタイトルのように毎年アップグレードされるタイトルの場合、Middle Funnelで悪い評判が立ってしまったり、前年からの上積みが少なかったりすると、マーケティングだけではリカバリーが難しいというリスクもあります。過去作品や競合作品との相対的な商品クオリティが商品販売の成功に大きく影響してしまうのです。

新作ゲームと老舗タイトルの比較を通じて、Full Funnelのバランスの違いを説明しました。このように、同じゲームタイトルでも商品やブランドのライフサイクルによって大きな差が生じます。マーケティングの成功には、商品やサービスの特性、競合環境など、さまざまな要因が関与します。そのため、Full Funnelのバランスを達成することは、普通のように聞こえるかもしれませんが、実際には非常に難しいことです。各要因を適切に考慮し、適切な戦略を構築することが重要です。

デジタル中心のマーケティングをしてきた企業向けのFull Funnel論

次回以降、Full Funnel Marketingを行う上で考慮すべきポイントを紹介します。しかし、事前に理解していただきたいポイントがあります。

まず、Upper&Middle領域の具体的な施策については、伝統的なマーケティング手法で経験と知識を持つ方が私よりも遥かに深い洞察力を持っています。そのため、その点について詳しく知りたい方は、その方面での情報をご参照ください。

このため、私のBlogでは伝統的な手法について議論する代わりに、デジタルマーケティングを中心に行われる企業におけるFull Funnel Marketingに焦点を当てます。ただし、この分野はまだまだ発展途上であり、誰も正解に至っていないと考えています。私自身も納得のいくモデルやフレームワークを見たことがありません。ここでは私自身のさまざまな試行錯誤の経験を共有し、皆さんに情報提供できればと考えています。

【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


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