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#11 ペットが来た日
娘が小さい頃猫を飼いたいと言われつつ、家と宿のスペースがほぼ一緒なので掃除やアレルギーの問題を考えると願いを叶えることができずにいた。
そんなある年の秋、友達とフェアーに出掛けた小学生の娘が水の入ったビニール袋を提げて帰ってきた。
1.まさかの奇襲
車で送ってくれた友達のお母さんが顔を見るなり「ごめん、ごめん、ごめん!」の連発。
こんなの連れて帰って来ると思ってなかったでしょ、と言われて見たらビニール袋に入っているのは金魚だった。
フェアーの帰り道わざわざ臨時の小さい水槽も調達してくれ、飼えなかったらうちが引き取るとまで言ってくれた。
こちらこそお世話をお掛けしましたとお礼を言って、道路から玄関のドアまでの短い距離を歩く間にどうするどうするが頭を駆け巡る。
大喜びでドアへ掛けて行く娘、引き取ってもいいというお母さんの車はまだ走り去っていないという次の瞬間、ビニール袋は家の中に吸い込まれていった。
青天の霹靂...
金魚一匹で何を大袈裟になのだが、商売をやっているうちは何も飼わないと思っていたし、正直動物を飼うことには抵抗があった。
そもそも行く前に金魚の話なんか微塵もしてなかったやん...と閉まったドアをまた開けながら一人呟く。
でもまずは狭いビニール袋から出してあげなきゃいけないし、お水はどうするだのどこへ置くだの初めてのペットで大張り切りな娘とひとしきりバタバタして、金魚はその夜買ってきてもらった水槽に収まった。
様子を見たり飼い方を調べたり、最初全然乗り気じゃなかったのに金魚が来たらなんだか楽しく、奇襲作戦が成功した娘もほれ見たことかと喜んでいた。
しかしそれからたったの二週間で、ポップコーンと名付けられらたその金魚はポップな生活とは無縁な短い生涯を終えた。
お水の交換もみんなで慎重にやったつもりだったけど、一週目が終わる頃になると仰向けに泳ぐようになりそのまま逝ってしまった。
お友達の方の金魚は、一週目ですぐ死んでしまったことを娘は聞いていたせいかショックは少なかったようだったが、私にはやっぱりこれだからペットは嫌だと後味悪く水槽を片付けた。
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2019年10月
2.二代目登場
それから一年が経ちまたフェアーの季節がやってきた。
今度は私が子供達を連れて行くことになりお天気のいい秋の午後、乗り物に乗ったりゲームをしたり、お菓子を食べたりしてさあそろそろゲートへという段になって見てはならないものを見てしまった。
景品が金魚という生き物の尊厳を全く無視したゲームが出口ゲート横にあるのだ。
そうか、こういうことになっていたんだと行き交う人混みの中、ピンポン玉入れゲームとその横でケースに放り込まれている金魚の前で立ち尽くす。
出口の近くって、もう周到に仕組まれたロケーション。
そして無情にも子供達が明るく「ゲームやってもいい?」と聞いてくる。
頭の中は当然、去年娘が握っていたビニール袋のシーンから寂しく水槽を片付けるところまでの走馬灯。
え、ちょっと待って
あれは辛かった...
そして私の口をついて出てきた言葉は
「よっしゃ、やろっ!!」
もはやこれは薄幸だったポップコーンの弔い合戦。次の金魚は絶対あんなふうに死なせないとゲームをする子供達を応援しまくった。
フェアー独特の雰囲気と、歩き回った疲れとその日最後のゲームということで変に熱くなった結果、金魚6匹を連れて帰ることになった。
帰りの車は誰がどの金魚をもらうかで大騒ぎ。
そうこうしているうちにビニールの水が漏れ出し、後ろの席から子供たちに速度を上げろとせかしまくられ家に着いた。
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こういうことをするのは夫
3.すり替え事件
結局金魚は6匹をお友達と等分に分けて3匹ずつ。
この二代目には同じ間違いをするまいと、行動の速い夫はすぐさまペットショップで濾過フィルターとエアーポンプ付きのやや大きめの水槽を買ってきた。
そして今度は二週目も順調に過ぎ、私たちが水槽の近くを歩くと金魚達が寄ってくるようになった。
そうなるともう可愛くて、みんなが餌の時間でもないのに構いに行く。
いつもなら素通りしていた場所だったのに、水槽を置いてからは通る時に必ず顔がそっちを向くようになる。
そうしているうちにちょっとずつ金魚が大きくなり、夫が次はガラス張りの立派な水槽と追加の敷石やくぐり輪、水草なども買ってきてそれなりに本格的な生活空間ができた。
そして盤石の飼育体制になった冬に私と娘は日本へお正月帰省。
友達家族がみんなで行くなら餌やりするよと言ってくれてたけど、その年夫は一人残ることにした。
そして日本で一ヶ月過ごして帰ってきた私達が家に着いて最初に向かったのは水槽。
電話やメールのやり取りで「金魚たち元気にしているよ。」とは聞いていたものの映像として見ることはなかったので再会を楽しみにしていた。
尾びれのヒラヒラした白と、一般的なオレンジ色のと、茶色で白い模様のある三匹だった。
ところが帰ってみるとサイズが行く前の1.5倍はあり、どう見ても白のヒラヒラとオレンジが二匹。
デカっ!!
からの、あれ...?
夫は空港からの運転を終えてテレビを観ている。
茶色はどこへ行った...
リビングに戻ると夫が「金魚元気でしょ。」と至って平常。
う、うん...
よーく見るとオレンジの一匹のオデコに辛うじて白いものがあるようなないような。
家に独り残って商売と金魚の世話をしてくれてたことを思うといきなりあれこれ言えなかったが、ちょっと見ない間にすっかり金魚達が変わっていてなんか引っかかる。
そして後日友達と集まりがあったときその話をした。
サイズが大きくなったのは、一ヶ月金魚だけが話相手だった夫が餌をやり過ぎたのは十分あり得るが、さすがに色はと...
やらかした?
娘の手前言いにくいとしても、帰って来た時から隠し事があるようにも見えない。
そんなある日、また友達が集まっていたら場の勢いで金魚すり替え疑惑の話が出てきた。
それを聞いた夫がこれまた青天の霹靂で、「そんなこと疑われてたの!?」と心底びっくりしていた。
でもこっちがびっくりしたのは「最初からオレンジだったでしょ?」って
お、覚えてないの...
もはや別の問題である。
元茶色だった金魚についてはそれ以後誰も追求しなかったが、この記事を書きながら今更とは思いつつ本当に金魚の色が変化するのかということを調べてみたら、どうやら「色変」というらしく光の不足、保護色機能、ストレスなどから色が変わることはよくあると書いてあった。
なるほど
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4.一年を前に
ということなどもありつつ、
当時夫はよくお客さま相手に孫の話でもするかのように金魚話をしていた。
娘は友達が来ると輪をくぐる様子を見せたり、ビデオを撮って動画を作ったり、家族それぞれが金魚時間を楽しみ可愛いがっていた。
そんな初夏のある日、早朝4時から家族全員で登山に行った。
帰りは夕方になるしと朝と昼2回分のエサを水槽に入れたがそれがいけなかった。
夕方帰ってきたらいつもよく食べる元からオレンジの一匹がお腹を上にして泳いでいた。
すぐに別の水槽に移して水を換えたりしたがその晩死んでしまい、残りの二匹も翌日相次いで死んでしまった。
これには娘もショックでさすがに大泣き。
後で調べたら金魚はいっぺんに沢山食べると死んでしまうことがあると書いてあり、逆にお腹が減った方がよかったんだと取り返しのつかないことをしてしまい言葉がなかった。
夏が終わればもうすぐうちに来て一年になるねとよく話していたのにその前に居なくなってしまった。
いつも目をやっていた場所にもう水槽はなく、片付けた水槽も見るたびに辛かったが、小さい子供のいる友達家族が金魚を飼った時もらってくれた。
こんなペットの話と我が家は縁が無いと思っていたけど、辛いながらも金魚たちのいた日々のことは家族の思い出になった。
そしてあの失敗は今も悔やまれるけれど、可愛いと悲しいの経験が私達の心のひだを増やし、人生の糧になってくれたことを感謝している。
最後まで読んでくださり
ありがとうございました
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