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歴史小説『はみだし小刀術 一振』第4話 夜襲

宇喜多直家の祖父能家の城が襲われたのは主君浦上氏の跡目問題による家臣の対立だったと考えられている。一方の有力家臣だった宇喜多能家は夜襲を受け砥石山城落城の際、興家と直家を逃がし散った。宇喜多直家6歳の頃のことであったと伝えられている。

『破門されたのか?!』
父と祖父は笑った。
『一応報告をと思いまして帰りました。』
『わざわざ御苦労な事だな。大工には元々関係ない話だ。』
祖父が貯えた口髭を触りながら呆れた。

小文太の家は元は宇喜多に繋がるものだと小文太は教えられていた。戦国時代は血で血を洗う戦いが全国で行われたが豊臣から徳川政権による幕藩体制が出来上がる過程で多くの家が滅んだ。戦国大名の宇喜多家は天下分け目の関ヶ原で西軍として敗れ、直家の子秀家は島流しとなり滅んだ。
小文太の生まれ育った沼の集落は宇喜多直家が岡山城に移るまでの本拠城下であった。

戦国時代に大きく発展したもののひとつに土木建築の技術があった。現代も含め戦いや争いは多くの悲劇を招くが一方では技術の革新を導くことがある。かように人間は愚かな生き物であった。
戦国期、豊臣秀吉が水攻めで『備中高松城』を落とそうとした戦いは有名である。水攻めとは堤で城を囲い、水を川から導入し城を落とす。聞くのは簡単だが広い範囲を堤で短期に囲むのはなかなかの土木技術であった。宇喜多家も地元家としてこの戦いの主力であり中心家のひとつだったことから戦国時代に既に高い土木技術を持っていたと推測されている。これらの担い手の家臣団があった。

『大工の腕で負けたのなら命をかけてワシらも働くが、やっとうや組手の技などワシらにはどうでも良い。お前の遊びだ、好きにすれば良い。』
『おじい様好きにしたのではなく、兄上は首になったのです。お可哀想に…』
酒を運んできた一番下の妹が話に絡んでふざけた。離れで祖父と暮らしている。ここは離れの一室だった。
『現場の揉め事ならワシもいっちょうやってやるんだが…』『お爺様が役に経つもんですか…』
おこのがまた口を挟んだ。ちゃっかり兄の横に居座って正座している。
『なにを!ワシが若い頃、現場で揉め事があった時は切っては投げ、叩いては打ちしたもんじゃ!』祖父が得意の大工自慢を披露し始めた頃、突然大きな足音がした。
跡継ぎの長兄だった。『小文太!お前の組のものがさっき駆け込んで来たぞ。現場の小屋が燃えてるそうだ。すぐ会ってやれ!』
『奴らか!?まだ終わっていなかったか?!被害は?』『直接聞け!急げ!』

この後小文太の運命を、変えることになる争いはついに本格的に彼を飲み込み始めようとしていた。彼の左腕とともに幾つもを失っていきながら…



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