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本屋大賞ノミネート!読書感想文『水車小屋のネネ』と再び『黄色い家』と

津村記久子さんの『水車小屋のネネ』を読み終わりました。幸福な時間をじっくり味わうように読みました。

ネネがヨウムだと知らずにこの本を手に取ったのですが、インスタグラムでヨウムの「アーボ」や「メイちゃん」をフォローしている鳥好きな私には、ネネの仕事ぶりや一挙手一投足?が鮮明に目に浮かび物語に引き込まれました。

表紙の絵や挿絵もこの小説の世界にあまりにぴったりで、こんなにふかふかとした温かい気持ちで読んだ小説は久しぶり。

新聞小説だからこんなに挿絵がたくさんあったんですね。私も毎日新聞を愛読しているのですが、この小説は私の地域では掲載されておらず、残念だったような、まとめて本で読めてラッキーだったような(笑)
そのくらいとても気に入っています。

バタやんさんの「この小説がすごかった!ベストブック2023」の第1位は『黄色い家』でした。


『黄色い家』の読後感は少し前に投稿したのですが、『水車小屋のネネ』を読んでいる間じゅう、ずっと『黄色い家』の花ちゃんのことが頭を離れませんでした。

『ネネ』の物語も、子どもに無関心な母親がきっかけで、18歳の理佐が独立して家を出て働くという、『黄色い家』の花とまったく同じといってもいい設定で始まったからです。小さな妹の律は虐待されていたといっていい状況でしたし、だから、正直この本の表紙の楽しそうな絵を見ても、「そんなに明るい話ではないのだろう」とかえって慎重な気持になったくらいです。

花と理佐を分けたもの

都会を離れて「ヨウムのいるおそば屋さん」で働くことを選択していたならば、花もお金に翻弄され、吞み込まれていくような生活に陥らなかったかもしれません。

都会と田舎ではお金の持つ力が全然違うのですよね。田舎ではお金はそこまでギラギラとした全能感がなく、ちょっと離れて見るだけの余裕をこちらが持つことができるような気がします。

18歳の理佐が置かれていた状況は、傍から見たら本当に危ういものであったはず。誰につけ入られてもおかしくないし、理佐の覚悟と勇気を、花だって持っていた。出会った人を大切にする気持ちの強さも2人は似ている。

理佐のパートナーになる聡さんも、妹の律が手助けをした中学生の研司くんも、元は家族に恵まれない人でした。『ネネ』の登場人物はみんな片親だったり、親子関係が悪かったり、離婚して帰ってきた人だったりと、「不幸」といっていい経験をしている。

これだって、『黄色い家」の花が出会った、蘭や桃子の経歴とそう変わらない。

みんなが差し出す人であったこと

いちばんの違いは、『ネネ』の登場人物がみんな、自分の持ち場から、少しずつ差し出す人だったことだと思い当たる。
目の前の誰かに、自分の時間や労力を少しずつやりくりして差し出し、受け取り、また遠慮がちに差し出し、そして自分には多すぎる部分は辞退し、つつましく、自分のできる範囲のことを、十分に楽しみながら、誠実に生きている。
川の流れが絶えず聞こえる町では、刹那的になる必要なんてないってことを、みんな知らずらずのうちに体得してしまうのかもしれない。

津村記久子さんの文章が素敵で

小説なのに、思わずドッグイヤーしてしまうところがたくさんありました。
特に気に入っているのが、聡が理佐にプロポーズ?するところの言葉

「何でもどうにでもなったらいいと思っていた。でも、きみの就職が決まった時に、一年後もうまくやれてるだろうか、そうだったらいいなと思ったんだ。自分のことでも他人のことでも、一年後のことなんて考えたのは二十歳の時以来だ。」「そういうふうに思えるってことは、まだ終わりじゃないからだと気がついた。きみが近くにいると、自分は勇気を持つことができる。報われないことを恐れなくて済んで、自分がそうしていたいだけ誠実でいられるんじゃないかと思う。…」

『水車小屋のネネ』

黄美子さんもヨンスさんも琴美さんもみんないい人だったのに、花は真面目だったのに大変なことをしてしまった。でも、『黄色い家』の終わり(現在から始まって現在で終わる小説ですが)には希望を感じました。
花は間違いなく、差し出す人だ。

人生は長い。わたし自身は平凡な人生を送っていてなんの不自由もないけれど、あまり差し出すことしてないな。『ネネ』の帯に取り上げられた言葉

「誰かに親切にしなきゃ、人生は長く退屈なものですよ」

やっぱり2024年のキーワード、いや、ラッキーワードは「ギバーを目指す」で決まりみたいだ。

みなさま、どうかよいお年をお迎えください。



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