同性婚法整備に向けて何を議論するべきなのか ヒントは裁判の中に

1 「家族になる法制度がないことは違憲状態だ」

画像:写真AC

つい数週間前、「LGBT理解増進法」が成立しました

性的マイノリティの権利を守るための動きが活発になる一方で、日本では法律的には同性間で結婚することができません。そこで同性婚法整備を求める声が上がっています。

法律は国民が話し合って作るのが民主主義の基本ですから、法整備には国民的な議論が必要です。しかし、自分を含めて「何を」議論しなければならないのかわかっていない人が多いのではないかと思い、法律の視点から考えを巡らせてみました。

同性婚をめぐっては各地で裁判が起こされていて、去年11月には東京地方裁判所で現状の法制度について「違憲状態」という判決が示されました。(東京地裁令和4年11月30日

この裁判では、「同性カップルが家族になるための法制度が存在しないことは違憲状態だ」とした上で、今後国会でどのような議論が必要かということが示されています。

しかし、一言に「同性婚を導入する」といってもやり方は様々です。

具体的にどのような制度にするかは国会で議論が必要だということが、この裁判で示されています。


2 鍵となったのはパートナーシップ条例

裁判所は、同性カップルが家族になることは「個人の尊厳に関わる重要な人格的利益」であるとして、法律上同性カップルが家族となれる制度が全くない日本の現状は憲法違反の状態であるとしました。

判決に大きな影響を与えたのが、多くの自治体で制定されているパートーナーシップ条例です。

パートナーシップ条例は、自治体独自のもので、国の法律の婚姻とは異なりますが、自治体が同性カップルを公的に家族と認める制度です。2015年、東京の渋谷区と世田谷区に始まり、全国の市町村で条例として制定されてきました。

裁判では、このように自治体の条例としてパートナーシップが導入されて特に問題があるわけではないのだから、国の法律として導入しない理由はないとされました。


3 同性婚導入に向けた憲法上、法律上の議論

一方で、同性婚を男女間の婚姻と全く同じ制度にするべきかどうかということについては、裁判所は国会での議論が必要であると判断しました。

法律の改正にあたって、憲法24条が「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」としているので、「憲法上、結婚は男女間でしかできない」という風に考える人がたまにいます。

しかし、憲法24条が「両性の合意のみによって」と定めた目的は、例えば親の都合で結婚させられるなど、当事者の意に反する結婚を防ぎ、本人たちの意思を尊重することにあります。そもそも憲法制定当時は性的マイノリティについて認知はなく、同性婚については議論すらされていませんでした。

画像:本人提供(憲法24条 ポケット六法令和5年版)


憲法の条文を文言通り見ると同性婚は許されないように見えますが、憲法の目的というところまで考えると憲法は同性婚を禁止しているわけではなく、法律を変えれば同性婚を導入することは憲法上可能です。

しかし、法律を変えるとしても国会で議論しなければならないことはたくさんあります。

「婚姻」と一言に言っても婚姻に関しては法律上扶養義務、嫡出推定などさまざまな規定が存在し、そのパッケージが婚姻といえます。婚姻に関する規定は全て男女間の婚姻を想定して作られたものですから、その全てを同性婚でも適用するべきかどうかは個別に検討が必要で、簡単に決められるものではありません。


4  導入を実現した諸外国では

実際に同性婚を認めている諸外国でも、導入にあたって議論がされました。

また、諸外国の多くはいきなり同性婚を認めたのではなく、まずは婚姻と似た制度であるパートナーシップを導入してから同性婚を認めた例があります。例えば世界で初めて同性婚を認めたオランダも、国がパートナーシップ制度を先に導入(平成10年)してから同性婚を導入しました(平成13年)。

このように、同性婚導入に向けて、具体的にどのような制度を設けるか、日本でも国会における議論が必要です。さまざまな方法がある中で、いきなり民法を改正して同性婚を導入するという方法が最適だとは限りません。

諸外国でもパートナーシップを導入して社会的承認を得たことが同性婚の実現につながったという指摘もされています。

日本でも自治体の条例で進んでいるパートナーシップを国の法律としても制定して、それを徐々に婚姻と同じ制度に近づけていくということも考えられます。


5 「何を」議論するか 裁判所からのメッセージ

画像:写真AC

同性婚の法整備を求める声が上がる中、「議論が必要」とよく言われます。

そして「何を」議論するべきかヒントをくれるのが裁判です。

東京地裁の判決から分かるのは、同性婚の実現の方法は1つではないということ、そして、どういう手段を取るかは国会の議論が必要だということです。

今回の記事では去年の東京地裁の判決について取り上げましたが、他にも各地の地裁で同じような裁判が起こされていて、私がちょうど記事を執筆している最中にも名古屋地裁で新たな違憲判決が出されました。

裁判とは当事者が徹底的に議論を戦わせる場所ですから、法律の制定に向けて学ぶべきことがたくさんあります。

各地で進む議論を注視しながら、どのように同性婚を実現するのか考えていくべきだと思います。

執筆者:中塚悠 / Yu Nakatsuka
編集者:石田高大/ Ishida Takahiro


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?