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守護の熱 第二章                      第三十話 それぞれが②

 今年の夏休みは、免許も取れて、嬉しかった。由紀ちゃんが、進路を決めて、パティシエになる為に、お菓子の専門学校に行くと言っていた。僕も、水沢大の食品関係のコースで、経営を含んだ勉強ができるのに進むことにした。今年は、僕が受験で、由紀ちゃんは、一個下だから、来年受験になるかな。由紀ちゃんは頭がいいから、多分、そんなに頑張らなくても、入れそうだけど、僕は国立大学だし、頑張らないと、と思ってる。車の免許が取れたけど、合格してから、店の車に乗ってみようと思う。
 家は、姉ちゃんが、婿さんとやってるから、僕が継ぐとかはできないけど、だったら、二号店を出せないかなと思ってる。薹部開発が、新しい商業施設を5年後とかに建てるっていうのが気になった。そこに出店できないかなって。まあ、それも、今、揉めてるらしくて、わかんないけど・・・。でも、うちの家は、それに反対してる・・・。地元の皆が守って来た、リンゴジュースの果樹園とかが範疇に入ってるらしくて・・・そうだ、雅弥の家の果樹園だって、結構な広さだと思う。雅弥んちは、直接、経営してなくて、農家に貸してるらしいけど、名前は「辻農園」だから。でも、最近、心無い連中が、色々と荒らしてるって噂だ。なんで、捕まらないのかな?不思議なんだけど・・・。
 まあ、二号店は出したいから、大学行ってる間に、色々と候補の場所が、他に出てくるかもしれないしなぁ。親爺に話したら「お前にしては、よく考えてるなあ」って、頭をこずかれた。あんな風な嬉しそうに感じ、初めて見たけど、僕も嬉しかった。

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 学部は違うけど、坂城と同じ、水沢大に進路を決めた。何か、人の為になることをしたいと思った。もう、安季美ちゃんは、お母さんと同じ、看護師になるって、決めていて。話していて、気になったのが、保健学部。やはり、安季美ちゃんとの話で、興味が出たのは、理学療法士だった。リハビリをする人だ。怪我や病気で、動かせなくなった身体の部分を動かせるようにする。応援しながら、助けていくのが、なんか、俺に向いてるような気がした。理系だから、難しいから、こないだみたいに、八倉と雅弥に勉強見てもらおうと思ったんだけど・・・難しいみたいだな・・・。
 雅弥、元気でいるといいんだけど。俺が聞いた話から、推測すると、勿論、雅弥は事件には関わってはいない。通報した人と一緒に居たって話を聞いたけど、それはきっと・・・で、問題はさ、その人が、雅弥の・・・、まあ、色々な噂があるから、俺は、雅弥が話してくれるまでは、何も信じたくはないけど・・・。
 雅弥は、ああいうやつだから、自分の辛い話とか、人にしないから。ずっと、何か、抱えていたんだったら、話してくれれば、良かったのになと思う。でも、多分、聞くだけになって、何もしてやれなかっただろうけど・・・。

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 痛かったなあ。
 でもさあ、これ、ウチが訴えたら、八倉家、ヤバいんじゃねえ?
 え? あ、お袋が電話で何か、あ、なんか、こっち来た。え?
 親爺が転勤?またかよ・・・って、俺の所為?なんで?

 まあ、いっかあ、なんか、ケチがついちゃったからなあ。
 もう、ここには未練はないなあ。東都に戻れれば、優香ちゃんと・・・
 え? 何、どこ? 左遷って? えー、北睦きたむつみ? 遠いじゃんか、今より田舎だよ・・・親爺、更に出世コースから外れたかあ・・・

 まあ、いっかあ。北睦って、美人が多いとこらしいし・・・。
 でも、受験は東都大の予定だからな、どうしようかな。
 親爺が単身赴任なら、あと少しだから、ここにいてもいいかもしれないけど・・・。

 やっぱ、大当たりじゃんか。
 あいつ、年上と上手くやってたんだよなぁ。
 撥が当たったんじゃね、多分。

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 雅弥が、家を出て、東都の晴彦さんのとこに行って、続いて、鷹彦は海外赴任、まあ、色々と鑑みてね、お父さんは決めたのだと思う。だから、これで良いとしているのだけれども。やっちゃんにもね、やっと、学校で、友達もできたのにね・・・可哀想だけど、東都の明海さんの実家に行ってもらった。この田舎町は、本当に、上手く、皆でやってる内は良いのだけれども、一旦、何かあると、掌を返したように、動く人がいるのでね。いつの間にか、皆の眼鏡が曇って、おかしくなるの、何回も見てきた。その都度、お父さんが、揉め事の仲介に出て行ってたぐらいだから、そんな話はよくね、聞いてはいたけど・・・。

 驚いた。でもね、雅弥らしいとも思ったのよね。困ってる人を見て、見過ごせないとこがあったから。黙って、いつの間にか、自分だけで解決していて、お礼を持って、訪ねて来られた方がいたりね。こちらは、そうなるまで、何も知らなくてね。学校帰りに、小さな子が木に登って、降りれなくなって、お母さんも赤ちゃんを抱えていて、助けられなかった時に、通りかかって、木に登って助けてあげて。自分は枝に腕を引っ掛けて、怪我して帰って来たことがあって。そのお母さんが後日、菓子折りを持って、訪ねてきて「雅弥さんが通らなかったら、どうなっていたかと思って」と涙ながらに言われたのね。いくつか、そんなことがあったわね。そんな噂も、次の日は商店街で、皆が知っていて。良い時はいいんだけどね・・・。

 しかし・・・、明海さん、たまたま、忙しくしていて、この件が起こってから、あの紙袋を開いてみたらしいんだけどね。

「髪の長い女の方が、ポストに入らないからって、渡して来られて。雅弥くんに渡してほしいって、ああ、すぐ帰られてしまって」

 封筒が3つ。50万、20万、30万と、封筒に分かれていて。まあ、通帳は、晴彦さんに預けてあるから、何かあった時は、ここから使ってやってとは言ってあるのだけれども、100万、こちらにあるんじゃ、残りはその半分以下じゃないのかしらね。時期を見て、何等かの形で、雅弥に返そうと思うけどね・・・多分、今はね。無理かな。

 鷹彦より、雅弥、お前の方が、お父さんに似てるんだね。
 だから、恐らくね、今回の件はこれで良かったんだと思う。
 お前も、逆境に強い筈だからね。お父さんの子なんだから。

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 ・・・ごめんね・・・雅弥君。
 こんなことになるとは、思わなかったの。

 実紅は、ただ、雅弥君に、普通に戻ってきてほしかったの。

 だから、こないだ、勇気だして、秘密の場所に行って、星を見せてもらったの。あの時の雅弥君は優しかったよね。

 でも、本当に好きだったのは、やっぱり、あのひとだった。信じられなかった。

 ・・・でも、実紅があんなことしなければ。
 ・・・八倉君も巻き込んでしまったし・・・。

 ・・・実紅が、あんなことしなければ、雅弥君だって、逃げなくて良かったんだよね。

 撥が当たったと思ってるの。今、八倉君の所にね、お兄ちゃんと匿ってもらってるの。実紅ももう、怖くて、しばらく、外には出られない・・・。

 本当に、ごめんなさい。実紅が全部悪いの。お父さんとお母さんのことは、いずれ、解ったことかもしれないけど・・・。

                            ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 守護の熱 第二章 第二十九話 それぞれが②

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 長箕沢で起こっていることとは別に、雅弥には、別の運命の流れが起こり始めています。雅弥は、これまでの事と、一切、繋がりを絶つ程の生き方を選んでいくことになります。彼はその「守護の熱」を、自分の大きな使命として、生涯背負ってゆくのです。
 今後の「守護の熱」第二章を、お楽しみになさってください。

 このお話の前段、第一章はこちらから

 そして、今、連載中、第二章はこちらからです


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