第四十三話　憧れの君①「二の姫とカメリア」　

　この話は、約２年前、まだ、二の姫　美加璃ミカリが、スメラギで皇華高校在籍中の話です。数馬や慈朗が、皇宮すめらみやに連れて来られる、少し前の話です。

🌟🌟🌟

「今日は、皇宮に呼ばれているので、お父様も、お母様も、遅くなりますから。学校から帰ったら、きちんと、ピアノのお稽古に行くのよ、南海ナミ、運転手が迎えに行きますからね」

「はーい」

　私の家は「カメリア」という、皇宮御用達の服飾店をしている。月に何回か、お声が掛かり、両親は、お仕立ても含めた、お姫様たちの洋服の販売に行っている。スメラギの中では、我が家は、上流階級の中ぐらいなのだ、と、両親は、誇らしそうにしている。なので、私も、ハイスクールは、貴族階級の子どもが通う、二つの内の一つ、皇帝一族や、その側近の方も通う、皇立の高校に、通っているのだけど。

　この国、スメラギでは、子どもが進学する時に、自分の階級エリアの学校にしか、通えないことになっている。最下層のスラムには、学校すら、置かれていないみたい。

「恵まれているのだよ。我が椿家は。皇宮のお姫様たちとご一緒の学校で、お前も、お勉強できるし」

「そうよ。それにね、お父様と、お母様は、第二皇妃様や、三人の姫様とも、面識がありますからね」

　それが、両親の自慢みたい。自分たちの店の服を、皇帝一族の方がお召しになっていらっしゃる。明確に、誰もが見て解る商売だから、その家の子だって、たまに、一目置かれることがある。でも、私は、そういうのは、あまり、居心地が良い・・・とは思えなくて。

　軍族の家の子以外で、この学校に行けるのは、私と、菓子鋪の「ハニープラネット」の社長の子と、石油コンビナートで働く家の子だけ。だから、クラスの殆どが、軍族の子が占めていて、商業組の子は少ない。何にしても、優先は、軍族の子になる。「商売人」と時々、嫌な感じで、言われることもあって・・・。

　学校の生徒会の役員も、軍族の子で仕切られていて、形の上では、商業組も、役員に立候補できても、結局は、自動で落選しちゃうから、・・・というか、逆らってまでする子は、当然いない。今は、軍部総帥の亥虞流イグル家の総領が、生徒会長をしていて、比較的、穏やかな時期だって、先輩が言っていたけど。

　皇帝一族のお姫様が、時々、学校に来られることがあるのだけど。先日、私と同じ、二年生のクラスに、第二皇女、美加璃様が編入されてきた。そもそも、ジュニアハイスクールの頃から、ウインタースポーツの英才教育を受けられていて、ランサムのクランツァで、スキーやスケートの合宿をされていることが多くて、スメラギ自体に、あまり、いらっしゃらないことが多いそう。姫様が、登校される日は、皆が大騒ぎになる。前回の世界選手権で、スメラギ代表で、金メダルをいくつか、お取りになったそうで。シーズンオフだけ、こちらに戻ってきて、該当の学年に通ってらっしゃるみたいだけど・・・。テレビで見た時は、フィギュアスケートをされていた。その衣装も、実は、うちで仕立てているもので、皇妃様と、第二皇女様ご本人と、綿密に打ち合わせをするらしい。そんな時は、お母様は、大張り切りで。鼻高々にしているのよね。

🌺🌺🌺

「椿、これ、外して、持ってってよ」
「ああ、これ、暗幕？」
「お前、服屋だから、こういうの、得意だろ？」
「待って、私一人じゃ、無理だよ」
「俺たち、これから、教練に行かされるんだよ。嫌でも、軍族だから、それをサボるわけにはいかないんだよね」
「その点、服屋のお前なら、適任。つまりは、これは、お前の仕事だから」
「えー、無理だよ」
「悪いけど、やっといて、じゃあな」

　え？頼まれていたの、男子じゃないの？なんで、私が・・・。なんか、視聴覚室の暗幕を外して、職員室まで持っていかなきゃいけない羽目になってしまった。私だって、今日は、ピアノがあるのに・・・。

　ピアノは好きだから、お稽古させて貰えて、お母様に感謝してる。お洋服も嫌いではないけど、ピアノの方がいいかな。私は。

　それにしても、どうしよう。外すのも、手が届かない。だから、男子に、先生が頼んだのに・・・。もうちょっと、なんだけど。

「これを外せば、いいのかな？」

　その時に、スッと、私の頭越しに、ブレザーの手が伸びてきた。誰？会ったことのない男子、制服のエンブレムの色からみたら、一年生だ。その男子は、私が応えるまでもなく、暗幕をフックから、外し始めた。何だか、腕の動きが滑らかで、作業が早い、あっと言う間に全部を外してくれた。