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天使と悪魔~二杯目のコーヒー      その手をとって 第四話

「落ち着きますね。やっぱり、美味しい。二杯目も、ご馳走になってしまって、喫茶店だったら、お代わり考えてしまいますね」
「眠れなくなりそうですか?」
「いいえ、美味しいですから、きっと、お値段も、お高い筈です」
「そんな、大したものじゃあないです」
「すみません。変な話までしちゃって」
「ああ、それは・・・今日、なんとなく、ご一緒して頂いたのも、その辺りだったのかな、って、感じたんですけど」
「・・・なんか、すみません。いつもだったら、こんなの、ないんですけど」
「こんなの?」
「飲みに行ったり、人のお宅に泊まるような真似・・・」
「ああ、雪だから、タイミングで・・・それは、気にしないでください。それより、その話については、もう、大丈夫ですか?」
「・・・まあ、あまり、気にしないようにします」
「また、何かあったら、俺で良ければ、言ってください。・・・そうですよね。他の女子職員に言うわけにもいかないし・・・なんか、言いやすい感じだったのかな?」
「え?」
「俺って」
「・・・あああ、なんか、ごめんなさい。なんていうか。・・・はい」

 あ、目が合った。少し、ホッとしてるの、伝わってきた。

「俺も噂されたことあって、嫌な思いしたから。でも、周囲は解っていますよ。あんなの。ガセだって。だから、聞き流してる人が、殆どですから。あんまり、心配しない方がいいですよ」
「不思議ですね。一人一人は、悪い子じゃないのに」
「徒党を組むとね。・・・まあ、あと、やっかみなんでしょう?自分達より、貴女が話題になってて、・・・なんていうか、ちやほやされていたのが、気に入らなかったんでしょうね」
「・・・さあ、ちやほや、とか、そんな感じではないと思いますが・・・」

 ご本人から見たら、そんな感じなのかな?でもね、確かに、周りの浮き立ち方は、半端じゃなかった。俺だって、あの上司と、後輩の浮き方で、もうてっきり、そういうことだと思ってたからな。そうだ。

「ああ、今日の件って、この辺り、そういう人達に知られてるとかは・・・?」
「え?・・・ああ、多分、ご存知ないと思いますよ。だって、穂村さんが声かけてくださったの、帰りがけ、たまたま、片づけの時、二人だった時でしょう?だから、誰も聞いていなかったと思います」

 え、なんか、解ってたのかな?まあ、そうなんだが。そこを狙ったんだ。周りが見えてたってことだよな。

「じゃあ、誰かいたら、断られてたとか?」
「あ、それは、どうかしら?・・・でも、これ以上、言われるのが嫌だから、多分・・・」

 そうしたかもしれないと・・・いうことだよな?・・・でも、実際は、こうなっていて。

 うーん、つまりは、上司とも、後輩とも、何もない。白だってことだよな?あの情報通の渡会ですら、固有名詞は出なかったからな。やっぱり、ガセで・・・、そんな感じないと思ってたから、噂を聞いた時、信じられなかった。だからこそ、セカンドでも、サードでも、とか、って、こっちの発想まで、ゲスい感じになってしまった、という感じで。

 どうして、本来のイメージ通りのこと、信じられなかったんだろうな。まず、どう見たって、器用そうじゃないし。何よりも、真面目で、今だって、お嬢さんと、家を護ってる感じがする。誰よりも、そんなことしない感じがする。・・・まあ、だから、なんだろうな。だがらこそのギャップが、皆を狂わせて、アクションを起こさせた。耳に吹き込んだのがいて。それで、脂下がってたんだ、あの後輩も。なかなか、彼女の実像と解離していたからな・・・、で、同じように、俺も、今夜、動いて・・・、本当に今、彼女と二人きりになれてる。

 つまりは・・・?

「ああ、じゃあ、誰もいなくて、良かったのかな、あの時」
「え?」
「いやあ、なんとなく、元気が無さそうで、何か、悩んでるのかな、とは思ってたんで、つい、声を掛けてしまったんです」

 嘘つけ。

「・・・そうなんですね。でも、意外でした。穂村さんからって」
「あ、そう、でしたか?」

 『意外』・・・なのか。つまりは、噂の二人とは違うってことだよな。そして、その噂は真っ向否定で、彼女からみたら、とんだ迷惑で、ということなのか?

「なんかね、つい。いつもなら、誰とも夜、行かないんです。雪の予報も来てたし、ただ、こんなに早く積もるなんて、思いも拠りませんでしたから」
「・・・ああ、そうだったんですね。雪もね。・・・実は、ちょっと、びっくりしたんですよ。あの場で、感情を崩されたからね。言えないことが、やっぱり、あったのかなって」
「何か、ダメですよね。齢なんですよ。気が弱くなってしまって」

 ご主人を亡くした後、女手一つで、家を護って、娘さんを育てて、って、いうことかな?

「ごめんなさい。お気遣い頂いて、甘えてしまったようで・・・」

 すみません。発動したのは、そんな上等なもんじゃありませんよ。「お気遣い」なんて・・・俺も、きっと、彼らと同じですけどね。それに、「甘えて」頂いて、大変、結構な所なんですよね・・・。

「ありがとうございます」

 ああ、また、涙目だ。・・・まさか、今頃になって、薬が?・・・あああ、俺も、相当な悪だ。忘れてたよ。多分、他の奴等より、本当にゲスいかもしれない。・・・なんか、ヤバい。複雑だ。そんなに評価上げられたら、動けなくなるし、このタイミングで、それ・・・。

「体調は、大丈夫ですか?さっき、すごく、眠そうでしたよね?」
「ああ、あのくらいの時間、いつも、そうなんですよ。すみません。やはり、感情的になって、泣いてしまった後、ホッとしたんでしょうね。人前でこんな感じ、ないですね」
「いいですよ。そういう時って、ありますから」
「良かった。やっぱり、穂村さんで」

 え・・・、良かったのか。・・・うーん、微妙に違うけど、良かったなら、いいのかもしれない。やっぱり、安パイの穂村さんだったのか?・・・よく考えて、動かないと・・・。

 さっき、時計みたら、もうすぐ12時になる。コーヒーも干して。これ以上、このままだと湯覚め必至だな。・・・って、表の俺が、理由を作る。

「そろそろ、休んだ方がいいんじゃないですか?」
「これ、あったかいので、今度は、私がこちらに寝ますから」
「スウェット、裏がボアですから、それはさっきよりもそうかもしれませんが・・・でも、ベッド使ってください」
「私の方が、身体が小さいですから、大丈夫。ここじゃ、穂村さんが可哀想だわ」

 馬鹿だな。本当に。振り出しに戻る。嫌、ここは、これでいいんじゃないですか?安パイの穂村さんで。今夜の所は。天使と悪魔が、交互に囁く。

「ここで、いいです」
「いや、それでは・・・」

 押し問答、もう一息。どっちだ。どっちにしたって・・・、安パイは、信頼の証なんだが。『じゃあ、一緒に』って、言ったら・・・言えるか?言えるわけもない。俺は、他の二人とは違う。実質、推しきれば、奴らより、・・・そういうことになる。

「荷物、こっちに取ってきますね」

 あ、寝室に入ろうとしてる。

                                                                                                      ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 
        天使と悪魔~二杯目のコーヒー その手をとって 第四話

 あああ、バレンタインなのに、もう一歩ですね。うーん。
 お読みになって頂き、ありがとうございました。
 このシリーズ、タイトル文字の文字種、なんとなく、昭和初期の喫茶店とか、勝手に思っていて、選んでいます。扉絵作りは、イラスト描きより、簡略な作業で、イメージが叶うので、楽しい💓です。
 彼女の事情が解って、二人の距離は縮まっていくのか?晩熟おくての穂村は、ああでもない、こうでもない、と頭の中で、天使と悪魔が行ったり来たり・・・。次回、イヨイヨなのか・・・?お楽しみにしてください。

 このお話の纏め読みと、恋愛小説風なお話たちは、こちらのマガジンから


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