マガジンのカバー画像

守護の熱 第一章 (第二十三話まで)✒

23
天体写真が趣味。生真面目で、正義漢。将来は、弁護士になるのが夢。 長箕沢という田舎町を舞台に、主人公の雅弥の日常に、様々な出来事が。 あることをきっかけに、雅弥は、その使命『守護…
運営しているクリエイター

#恋愛小説が好き

星空を逃して ~守護の熱 第一話

 今夜も冷えるな。そろそろ、帰るか。もうすぐ、夜が明ける。 「今度、あったかい飲み物とかさ、毛布とか、持って来ようよ」 「そうだなあ、これから、冷えるもんな」 「これ、放置して、帰れないの?」 「カメラが倒れたり、盗まれたりしたら、終わりだからな」 「あああ、寒い、まぁや、ちょっと、ダメだ、もう、歯の根が合わない、ううう」  北極星を中心とした、星の動きを撮影する。この位置がいいんだ。小高い山の中腹に当たる丘の上に当たるのと、天空を遮るものが、何一つない場所。俺は、ここを

親友の秘密② ~守護の熱 第五話

 冬の海の中に、飛び込んだ。必死にもがいた。冷たさのあまり、感覚が無くなりそうになるのに、抗いながら、羽奈賀の身体を捕まえた。荒れる海の中、親友の身体を抱えて、必死に泳いだ。浜がすぐ傍で良かった。でなければ、二人とも、海の中で凍えたまま、助からなかったかもしれない。 「羽奈賀、しっかりしろ」  浜に上がると、急いで、そのまま、意識の無い、羽奈賀を背負って、漁師小屋に急いだ。中に入ると、海女や、漁師たちが、暖を取る為に用意してあった、たき火用の一斗缶があった。火つけの為のマ

傘 ~守護の熱 第七話

 季節が、温かく変わると、星を見られる時間が、短くなる。羽奈賀がランサムに渡って、ひと月経ち、桜の季節になった。星見の丘での、撮影も少し変えてみた。夕暮れの桜を撮影したりしながら、暗くなるのを待ったりした。こんな時、羽奈賀がいたら、一緒に、商店街のコロッケや、あいつの好きな、坂城の和菓子屋のあんころ餅を持ちこんで、花見になる筈だったが、一人なので、あの自販機で、地元のメーカーの小さな缶の、りんごジュースぐらいにした。  星見の丘で、いつものように、カメラを三脚に据え、しっか

約束 ~守護の熱 第八話

 新学期が始まった。高校三年ということで、学校でも、特進コースというクラスに所属することになった。進学に特化する、ということらしい。就職を目指す生徒は、別のクラスになった。かねてからの計画通りに、受験勉強とアルバイトの両立を目指すことにした。それでも、たまに、天体観測は続けていた。その日は、流星群の日だったので、時間を作った。  前回が、羽奈賀の件で、撮影どころではなかったので、それ以来となる。今回ばかりは、自分一人だし、集中できそうで、我ながら、現金なものだが、純粋に、楽

煙草とミルクコーヒー ~守護の熱   第九話

 その次の水曜日の夕方、俺は約束通り、星見の丘に出向いた。桜が少し散り始めた頃だった。桜の花びらが、地面の半分を覆っている。 「お招きありがとう」  彼女は、暗くなり始めた頃、姿を見せた。 「大きなの、わざわざ、持ってきたんだ」  天体望遠鏡を見て、感心した様子で、笑った。 「凄いね」 「観てみますか?」 「いいの?」 「はい」  覗くや否や、彼女は、驚いたような声を上げた。少し、はしゃいだような、嬉しそうな感じに見える。 「綺麗・・・凄いね。こんな、いっぱいな

兄の慧眼 ~守護の熱 第十二話

 帰宅すると、兄貴も丁度、帰った所で、玄関に着いた所だった。 「あ、お帰り」 「遅いな、雅弥」 「うん」 「アルバイト、頑張ってんのよね」  兄嫁は、相変わらず、いい感じに言ってくれている。 「風呂、先に行って、兄貴」 「んー、来い。たまには、背中流せ」 「え?」 「話がある」    明海さんは、ちょっと、びっくりした顔をした。 「ご飯、用意しておきますね」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  兄貴と風呂に入るなんて、何年ぶりか

守護の目覚め③ ~守護の熱 第十三話

「今日は、撮りたかった星の配置になっていて、絶好のチャンスだから、・・・多分、粘って、撮影してくるつもりだから」 「いいじゃない、お誕生日記念ね、お祝いは、次のお休みにするから、鷹彦さんが戻ってる時がいいと、お父さんも仰ってたし」 「ああ、それなら、ありがたい」 「心置きなくね、良い写真、撮ってらっしゃいね」  明海さんに、朝、こう伝えて、出てきた。フェイクというわけでもないが、カメラもバックに忍ばせた。後、例の封筒も、綺麗なやつに変えて、持っていくことにした。  要は、

5月15日 ~守護の熱 第十四話

 清乃が窓を少し開けた。涼しい風が入ってきた。自分の部屋のその感じ、外の匂いがそっくりだった。草や土の感じが入ってくる。好きな瞬間だ。 「あのね」 「ん?」 「ああいう時は」 「何・・・?」 「これ、痛いから、早めに外した方がいいよ、少年」  何のことを、言ってるんだろうか。制服のスラックスをハンガーに掛け乍ら、ベルトを指さしていた。それで、言いたいことが、何気に解った。 「え、ああ・・・ごめん」 「うふふふ・・・」  そういうと、また、煙草を咥えて、火を点ける。先端

星の展示会に向けて         ~守護の熱 第十五話

 毎年、六月末に、恒例の長箕沢地区を上げての文化事業交流会が行われている。町おこし事業の一貫らしい。今年も、その準備の時期に入った。地域の高校も、事業所の一つとして扱われて、参加することになっている。商工業系の学校は、その特出する技能を披露したり、農業なら農作物の販売をしたりするので、必ず参加している。普通科の学校は、数校ずつ、回り持ちで、文化祭的な形でブースを出展する。場合によっては、私立の系列は、数校で一つのものを出す場合があったり、部活動が優秀であれば、そのような形での

彼女の豹変(八倉視点)  ~守護の熱 第十九話

「それで、何かな?個人的なことって・・・」  実紅ちゃんが、改めて、聞いてきた。少し考えた。辻とのこと、言いたくないだろうけど、本当のこと、聞いて、それから・・・。 「ああ、言いづらいかもしれないけど・・・」 「・・・」 「結局、色々、噂を聞いてて、大丈夫なのかな、って。・・・辻とのことは」 「・・・好きだよ」 「あ・・・」 「実紅は、雅弥君が好き」 「付き合ってる、とかって?」 「・・・今、辻君、忙しいから、もう少しして、大学とか決まったら、もう1回、話すの」 「そうな

それぞれの③            ~守護の熱 第二十話

 給料日が来て、すぐの水曜日は、一学期の期末テストの二日目だ。なので、テスト後の次の週辺り、どうだろうか・・・その日は、撮影をしに行く準備をする。私服で動くことにして・・・。その日こそ、清乃の所に行く。行って、どうするかは、その時だ。  最近では、商店街に行くこともなかったので、以来、清乃とバッタリということもなかった。これは幸いだと思った。突然のことに、どんな対応ができるか、俺自身、よく解らなかったし。今後も、妖しきに近寄らず、なのだろうなと、肝に銘じる。二か月、顔を見て

シュークリームと肉じゃがコロッケ    ~守護の熱 第二十一話

 テストが終わった。案の定、昨日、不完全燃焼な二人、梶間と小津が、俺を追いかけてきた。たまたま、今日、バイトもない日だ。 雅弥「解った。ただし、二人、一緒じゃだめか?」 小津「いいよ、俺は」  小津が、意味有り気に、梶間に目配せする。 梶間「おう・・・わかった」 小津「俺んち、どう?シュークリームがあるんだけど」 雅弥「大丈夫か?淳?」 梶間「・・・うん、まあ、いいや」  梶間が、不承不承なのは解ったが・・・。なんというのか、話の質が一緒だし、梶間としては、現実的な話

守護の目覚め④ 守護の熱 第二十二話

 清乃との約束の水曜日になった。試験後は、殆ど、夏休み扱いということで、人によっては、受験の為の講習に行ったり、例えば、坂城は、車の免許の合宿に行ったり、それぞれなんだろう。学校もないから、そういう意味での、人目を気にすることはない。家から、坂下までを、気を付ければいいんだ。  夏の景色の撮影の為にということで、望遠鏡と、カメラを準備した。食事は暑いから、持ち歩いて腐らせるわけにもいかないので、近くの店で、パンなどを買って食べるからと、明海さんに伝えた。昼少し前に、家を出る

逢いに来た 守護の熱 第二十三話   第一章 最終話

 こないだの時・・・、初めて、そうなった日は、帰った後、慌ただしかった。誕生日だったから、泰彦が、玄関で待っていて、プレゼントをくれて、一緒に風呂に入った。余計なこと、考える暇もなくて、良かったような気がしたが、布団に入ると、不思議な感覚になった。  人の家の布団に寝る、・・・というか、あれは、なんだろう。場所を使うっていう感じだから、ちょっと、違ったのかもしれないが・・・。あの晩は、いつもなら、すぐ眠れるのが、やはり、少し時間がかかった。隣に、清乃がいたら、と、つい、考え