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守護の熱 第一章 (第二十三話まで)✒

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天体写真が趣味。生真面目で、正義漢。将来は、弁護士になるのが夢。 長箕沢という田舎町を舞台に、主人公の雅弥の日常に、様々な出来事が。 あることをきっかけに、雅弥は、その使命『守護…
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#星空

星空を逃して ~守護の熱 第一話

 今夜も冷えるな。そろそろ、帰るか。もうすぐ、夜が明ける。 「今度、あったかい飲み物とかさ、毛布とか、持って来ようよ」 「そうだなあ、これから、冷えるもんな」 「これ、放置して、帰れないの?」 「カメラが倒れたり、盗まれたりしたら、終わりだからな」 「あああ、寒い、まぁや、ちょっと、ダメだ、もう、歯の根が合わない、ううう」  北極星を中心とした、星の動きを撮影する。この位置がいいんだ。小高い山の中腹に当たる丘の上に当たるのと、天空を遮るものが、何一つない場所。俺は、ここを

コロッケとラブレター ~守護の熱  第二話

 数日後、学校の帰りに、カメラ屋に寄ろうと、商店街に寄り道をした。今日も、羽奈賀がついてきた。最近、特に、よく一緒にいる。休み時間とか、登下校の時も、なんとなく、そんな風だ。 「フィルム、結局、あれが、最後の在庫でさ。結構、感度のいいのは高いけど、この店は、数を買うと、少し、安くしてくれるから、まあ、あってよかった」 「だから、わざわざ、遠回りしたんだ、・・・ねぇ、まぁや、お腹すかない?」 「ああ、隣だろ、肉屋の、いい匂いだな」  カメラ屋の隣に、精肉店があって、夕方

兄の執念 ~ 守護の熱 第三話

 いつも、天体観測の撮影をしている、例の星見の丘に、また、羽奈賀と行った。そこで、手紙を開いた。  まあ、皆の言う通りの内容のものだった。明日の帰りに、返事を聞きたいから、また、下校時に、うちの学校の正門で待つという。 「なんかなあ・・・で、どうするの?まぁや」  羽奈賀が、呆れ顔をしている。それと、なんというのか、訳知り顔だ。 「ああ、断る。だが、どう言ったら、いいんだ?校門前なんて、場所が悪い。皆が見てる」 「別の所で話せば?」 「ああ、ここに連れてくれば、いいか

親友の秘密① ~守護の熱 第四話

 今夜も冷える。しかし、今夜は、流星群が見える日だ。一層の防寒をし、今回は、水筒に、温かいココアを作って持っていく、と言っていた、羽奈賀を宛てにして、俺は、例の星見の丘で、待っていた。  約束に遅れることのない、羽奈賀が、一時間経っても、一向に来ない。まあ、撮影はもう間もなく、始めたいのだが・・・。そのまま、カメラと三脚を置いていくわけにもいかず、俺は、ひとまず、その荷物を、丘を下った先の、海岸の端にある、漁師小屋に隠して、羽奈賀を迎えに行こうと考えた。坂を下っていくと、ま

親友の秘密② ~守護の熱 第五話

 冬の海の中に、飛び込んだ。必死にもがいた。冷たさのあまり、感覚が無くなりそうになるのに、抗いながら、羽奈賀の身体を捕まえた。荒れる海の中、親友の身体を抱えて、必死に泳いだ。浜がすぐ傍で良かった。でなければ、二人とも、海の中で凍えたまま、助からなかったかもしれない。 「羽奈賀、しっかりしろ」  浜に上がると、急いで、そのまま、意識の無い、羽奈賀を背負って、漁師小屋に急いだ。中に入ると、海女や、漁師たちが、暖を取る為に用意してあった、たき火用の一斗缶があった。火つけの為のマ

彼女の素性 ~守護の熱 第六話

 俺は、将来、弁護士を志望し、東都大法学部を目指していた。東国防衛大に行き、東国義勇軍に入った、兄のしたように、学びながら、学費を稼ぎたいとアルバイトを続けていた。アルバイトのきっかけは、カメラと天体望遠鏡が欲しかったことだった。それ以降は、天体写真を撮る為のフィルムだけは、少し贅沢したが、後、使うこともなく、金は貯まっていった。もうそろそろ、一年分程の学費になるだろうか・・・、その為に、部活などは、頼まれれば、大会に出たりはするが、正式に部員としては、所属してはいなかったの

約束 ~守護の熱 第八話

 新学期が始まった。高校三年ということで、学校でも、特進コースというクラスに所属することになった。進学に特化する、ということらしい。就職を目指す生徒は、別のクラスになった。かねてからの計画通りに、受験勉強とアルバイトの両立を目指すことにした。それでも、たまに、天体観測は続けていた。その日は、流星群の日だったので、時間を作った。  前回が、羽奈賀の件で、撮影どころではなかったので、それ以来となる。今回ばかりは、自分一人だし、集中できそうで、我ながら、現金なものだが、純粋に、楽

煙草とミルクコーヒー ~守護の熱   第九話

 その次の水曜日の夕方、俺は約束通り、星見の丘に出向いた。桜が少し散り始めた頃だった。桜の花びらが、地面の半分を覆っている。 「お招きありがとう」  彼女は、暗くなり始めた頃、姿を見せた。 「大きなの、わざわざ、持ってきたんだ」  天体望遠鏡を見て、感心した様子で、笑った。 「凄いね」 「観てみますか?」 「いいの?」 「はい」  覗くや否や、彼女は、驚いたような声を上げた。少し、はしゃいだような、嬉しそうな感じに見える。 「綺麗・・・凄いね。こんな、いっぱいな

守護の目覚め③ ~守護の熱 第十三話

「今日は、撮りたかった星の配置になっていて、絶好のチャンスだから、・・・多分、粘って、撮影してくるつもりだから」 「いいじゃない、お誕生日記念ね、お祝いは、次のお休みにするから、鷹彦さんが戻ってる時がいいと、お父さんも仰ってたし」 「ああ、それなら、ありがたい」 「心置きなくね、良い写真、撮ってらっしゃいね」  明海さんに、朝、こう伝えて、出てきた。フェイクというわけでもないが、カメラもバックに忍ばせた。後、例の封筒も、綺麗なやつに変えて、持っていくことにした。  要は、

5月15日 ~守護の熱 第十四話

 清乃が窓を少し開けた。涼しい風が入ってきた。自分の部屋のその感じ、外の匂いがそっくりだった。草や土の感じが入ってくる。好きな瞬間だ。 「あのね」 「ん?」 「ああいう時は」 「何・・・?」 「これ、痛いから、早めに外した方がいいよ、少年」  何のことを、言ってるんだろうか。制服のスラックスをハンガーに掛け乍ら、ベルトを指さしていた。それで、言いたいことが、何気に解った。 「え、ああ・・・ごめん」 「うふふふ・・・」  そういうと、また、煙草を咥えて、火を点ける。先端

星の展示会に向けて         ~守護の熱 第十五話

 毎年、六月末に、恒例の長箕沢地区を上げての文化事業交流会が行われている。町おこし事業の一貫らしい。今年も、その準備の時期に入った。地域の高校も、事業所の一つとして扱われて、参加することになっている。商工業系の学校は、その特出する技能を披露したり、農業なら農作物の販売をしたりするので、必ず参加している。普通科の学校は、数校ずつ、回り持ちで、文化祭的な形でブースを出展する。場合によっては、私立の系列は、数校で一つのものを出す場合があったり、部活動が優秀であれば、そのような形での