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生長マインドにとって陽光となる5つの集団的価値観

前回までで、マインドドメインとアクションドメインという、生長マインドの構成要素を理解しました。
<このnoteを読む前に知っておいて欲しいこと>
▶︎生長マインド:定義と概要
▶︎生長マインドのドメイン:(1)マインドドメイン
▶︎生長マインドのドメイン:(2)アクションドメイン

生長マインドは、臨床研究を志す者にとって必須のものであって、その構成要素もわかった。
でも、自分や自分の所属する集団には、圧倒的にそれが欠けている気がする。
そして、それに対してどうしたらいいかが分からない。

なぜ、性善説であるはずの生長マインドは、いつのまにか鳴りを潜めてしまうのでしょうか?
子どものころの疲れを知らない自分には、もうなれないのでしょうか?
今回は、これまでの考え方をもったうえで、どう現実に向きあうべきかを考えてみます。

▶︎生長マインドを阻害する2つのシステム

いきなりズバッと2つの回答を示します。
生長マインドが阻害される理由は、大きく2つあります。

1. 無力感・無価値感 2. 誤った集団的価値観

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無力感・無価値感とは、個人が無意識にもっている「自分」に対するある価値観です。
無力感・無価値感をもっている人は、自分の可能性を信じることができません。
たとえば、「プロ野球選手になりたいな」という向かいたいビジョンに対して、「おれにそんなことができるわけないよ。どうせ無理だよ」という逆行した力を加えます。
「個人が無力感・無価値感をもっているがゆえに、いま現在は存在していない自分の価値を信頼することができない状態」、それが硬直マインドです。
極論すれば、この無力感・無価値感という暗雲が晴れれば、全員が生長マインドを得られると思っています。

しかしながら、厄介なのは、この個人の無力感・無価値感を生み出している元凶が自分自身ではない、ということです。
その元凶こそ、誤った集団的価値観、です。
だってそうでしょう!
子どものころ、日が暮れるまで、夢中でボールを蹴っていたあの日々。(あり得ない状況ですが)そのまま、外からなんの刺激もないまま日々が過ぎていったら、そのままのはずじゃないですか。

「いつまでボールなんか蹴っているんだよ」
「そろそろ、勉強しなよ」
「どうせ、プロサッカー選手なんか、なれないよ。一部の限られた天才だけがなれるんだよ、君には無理だよ」
「ほら、失敗した。辛いだけだから、やめたら?」

たくさんの周囲からの声かけや態度(突き詰めれば、自分自身が自分自身にもつ声かけや態度も含む)が、だんだんと生長マインドを見えなくしてきた。
→ そしてそんな自分も、他人に対してそんな価値観をもった集団の一部となっている。
→ 個人の生長マインドが、集団的価値観が降らせる雨に打たれ続け、しぼんでゆく。代わりに、硬直マインドが全面に出てくるようになる。
そういう経時的なプロセスがあるのではないでしょうか。

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すなわち、大根を叩き切るように思い切って言えば、
集団的価値観が誤っているから、生長マインドが阻害されるのです。
この逆をすればいい、というのが今回の話の趣旨です。
生長マインドを促通するために、集団は、個人に対してどのような価値観を持つべきなのか?
「誤った集団的価値観 → 望ましい集団的価値観」について、5つの陽光としてまとめました。

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▶︎「ハイパー性善説」という陽光

あの人は言った
はじめにことばがあった。ことばは神と共にあり、ことばは神であった。と
さいきん、こう言い直したらしい
はじめに信があった。信は神と共にあり、信は神であった。と
SuperHuman

X理論とY理論という考え方があります。
X理論は、「人間は本来怠け者で、なるべくなら仕事をサボりたいものだ」という価値観で他人を眺めます。
Y理論は、「人間は意欲的で、自発的で、自制心を発揮できる」という価値観で他人を眺めます。

そして、ピグマリオン効果とゴーレム効果という考え方があります。
どちらとも、「眺める側の価値観に寄り添うように、人格が形成されていく」という理論です。
ピグマリオン効果は良い影響を、ゴーレム効果は悪い影響を示します。

以上の大きく2つの考え方が組み合わせて考えてみましょう。

X理論的に子どもを眺める親:「あの子は怠け者で、自分が興味あることに没頭して生長することなどあり得ない」→その子どもには、「自分は怠け者で、何かに没頭して生長することはない」というマインドが形成される
Y理論的に子どもを眺める親:「あの子は、すごく意欲的に物事に取り組んで、没頭して、自分自身を生長させて、どんな自分にもなってゆける子だ!」→その子どもには、「自分の未来はわからない。でも、それこそが楽しみなんだ。目の前のことに没頭して、僕は1つ1つ生長できる!変わっていける!」というマインドが形成される。

Googleには、ハイパー性善説(named by 尾原和啓)という文化があります。
それは、人を疑うことこそ無駄なコストであり、無条件で相手を信頼し、仕事を進めるという文化です。
この文化は、コストを省くということ以上に、人格を形成しているのです、多分。
「この人なら、当然できるよ」「(できる前提で)だったら、こうしてみたら」と眺められた人は、そういうマインドが勝手に形成されていってしまうのです。
ハイパー性善説という陽光で、他人の生長マインドを育てましょう!

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▶︎「失敗の歓喜」という陽光

なにが起こってきても、それは自分を生長させるに過ぎないと思った
武者小路実篤

失敗とは、怖いものですよね。
人は、人生において必ず失敗します。

人間という奴は、何かやると必ず間違いをしないではいられないらしいな
まるで間違いをするために何かをするみたいだ
森本薫

失敗を怖れることは、即、無動につながります、行動への意欲を減衰させます。
それは、自分に対してもそうですし、他人に対してもそうです。
親が子どもを見て、「それは失敗しそうだから、やめておけ」という世話を焼くのはこのためです。
「やめておけ。やめておけ。やめておけ。」
→このような集団的価値観が、生長マインドの減衰につながります。

『ポストイットを思い出せ!』という言葉があります。

1969年、とある研究員は強力な接着剤を開発中に、たまたま非常に弱い接着剤を作り出してしまった。
当初この弱い接着剤は用途が見つからなかった
1974年に同社の異なる研究員が本の栞に応用できないかと思いついた
そしてできた商品が、ポストイットだったのだ

『ポストイットを思い出せ!』という言葉は、僕は、以下のように言い換えることができると思っています。
『成功とか失敗とか、そこに主眼をおいていない。主眼は、生長するか否か。そして、その世界は、結果の次のフェーズである。』と。
他人の失敗を、「生長の種だね」「ポストイットを思い出そう!」と、一緒に歓喜しましょう。それが、生長マインドを育てる陽光となるのです。

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▶︎「絆組織精神」という陽光

よく社内で戦おうとする人間がいるが、勘違いだ。戦うべきは会社の外だ。
箕輪厚介

「心理的安全性」という用語は、1999年にハーバード大学のエイミー・エドモンソン博士が発表した論文の中で提唱され、大きな反響を呼びました。
その研究によれば、チームの成功は主として、メンバー同士の「お互いに対する暗黙の信頼」があるかどうかと、「チームが対人リスクをとっても安全な場所だとメンバーそれぞれが考えている」かどうかに関わってくるということでした。
つまり、「リスクをとっても他のメンバーに非難されずにすむ」チームほど成功を収めやすいことになります。

もう一歩突っ込んで考えてみます。
なぜ、心理的安全性が高いチームほど、成功をおさめやすいのでしょうか?
その答えこそ、生長マインド!、だと思っています。
前回、アクションドメインの1つである『労苦』に関して、「労苦力=個人の全エネルギー量ー自己憐憫による忙殺エネルギー量」という考え方を示しました。

心理的安全性が低いチームは、内部でエネルギーの衝突が起こっている組織です。
「あなたがやっていることは、もっとこうした方がいい、あるいはやめときなさい。私のが優れているのだから!」
→このチームでは、内部でエネルギーが衝突し、消失します。

心理的安全性が高いチームは、内部ではエネルギーを高めあって、外部に最大の威力を発揮する組織です。
「とにかく、外で戦って生長してこい。お前には、俺にはない能力がある、そこを信頼しきっているのだよ。帰ってきたら、良くも悪くも話を聞いてあげるから。」
→このチームでは、内部で練り上げられた最大のエネルギーを外部に発揮します。

戦うべきは外、内は仲間。貢献は外部に対して、全員で一丸となって、する。
そんな「絆組織精神」が、生長マインドを育てる陽光です。

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▶︎「多様性の尊重」という陽光

似ているけれど別々につくられている僕たち仕事もその特性を生かしてすることを考えるべきだ
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー

生長マインドの、主要なマインドドメインに『自変』がありました。
「ぼくは、未知の自分に変わり続けていける!」というものです。
そんな自変マインドを、タコ殴りにする集団的価値観があります。

それが、鋳造的視点です。
これは、上司-部下関係、親-子関係にしばしばみられるものです。
この視点から部下を眺めている上司は、こう言います。
「お前は、俺より全ての点で劣っている存在なんだよ。だから、俺から学ぶ・真似するの一辺倒がお前の仕事だ」と。
この上司は、部下の足りない点を指摘できることが、上司の有能性だと捉えてはばかりません。
嬉々として、部下の不足を指摘しまくります。
まるで、その上司を鋳型にして、おんなじ形の製造物を作ろうとしているようです。
しかも、往々にして、魅力のない鋳型・・・。
とにかくも、決まった鋳型に、個人の持ち物であるはずの価値観を流し込まれるのです。
「おれに、おれ独自の未知などないのだ。決まった価値観の鋳型に流し込まれるだけ。変われやしないさ。」
こうなってしまうのも、当然です。

それに対して、僕たちは、「多様性の尊重」という集団的価値観を持っていきたいものです。
この視点から部下を眺めている上司は、こう言います。
「お前は、俺とは違う良さを有する貴重な人だ。だから俺から基礎は学び、突出は学ばせて欲しい。」と。
この上司は、部下の突出している点を、さらに生かして、全体合計を高めることが、上司の有能性だと捉えます。
嬉々として、部下の突出を見つけて、光を当てます。
まるで、萌芽を愛で、水をあげ、光をあてているかのようです。
この、個人の突出は、個人固有・特異的なものであって、他人が介入できるものではないという、未知の許容・承認こそが、生長マインドにとっての、陽光なのです。
「この人は、おれ独自のものを期待している、いまはまだ、何かはわからないけれど。どこへでも、伸びていっていいんだ!」
この心、この心をこそ愛でたいものです。

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▶︎「正解の共有と遵守」という陽光

どこともわからないところへ行って、なんともわからないものを持ってくるように
トルストイ

予期不安というものがあります。
「これから先に、ひどいことが起こるんじゃないか」という感覚です。
これが、生長マインドにとっての除草剤なのです。
だって、そうでしょう!
これから、何かひどいことが起こりそうなのに、「未知の生長に向かって、リスクのある実行をしよう!」とはなりませんよね。

この予期不安がいかに強烈なものかを示す文章を示します。

不良といじめグループからダブルでいじめを受けているうちに、僕の感覚もおかしくなっていった。
殴られている時、いじめられているときが、いちばん安心するのだ。
なぜなら、いま、やられていれば、もうこれ以上、僕にひどいことは起きないから。
むしろ何もないときの方が、不安でしょうがなかった
次は、どんなことをされるのだろう。いつ、あいつの機嫌が悪くなって、いじめられるんだろう。いつ、不良から呼び出されるのだろう。
内藤大助 『いじめられっ子のチャンピオンベルト』

やばい感覚ですよね。殴られているときが、いちばん安心するのですよ!?あの世界チャンピオンが、予期不安にこれだけ心を蝕まれていたのです。

そして、予期不安を引き起こす強烈なパンチが、「正解が分からないこと」です。

「正解が分からない」
→同じ行動をしても、怒られるときと、怒られないときがある
→上司の機嫌や、結果的なことに影響されているようだった ※後出し的価値づけ
→何をしても失敗するかもしれないという思いが根付く
→それが予期不安を強めていく

親や上司が、「正解の分からない世界」を作り出す仕組みは、めっちゃ深いものがあると思うので、別枠で考えます。
とにかく、事前に正解が分かっていないということは、精神衛生上、除草剤です。

逆をいけばいいのです。
生長マインドを育てるには、「正解がわかる世界」を、集団は積極的に作ってゆくべきです。

最初にみんなで望ましい価値観を合意して、
その後の現実や行動結果に対し、尽くその価値観から価値づけする
その定規を折り曲げては決していけない

どんなに親や上司に、そのとき都合が悪かったとしても、「最初に合意した定規からみて、正解だね、何も気にすることは無い」と笑顔で言えるか。
その正解のある環境が、生長マインドにとっては、陽光なのです。

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▶︎最後に -名言締めくくり-

生長マインドシリーズ、結構力使いました。

臨床研究を志す者、のみならず、世界を少しでも前進させたい、自分を少しでも生長させたい、そう思っている人は、必ずこのマインドを磨く課題に直面します。

そんなとき、このnoteに立ち寄っていただき、少しでも生長マインドに光が当てられたならば、至上の喜びです。

最後に、僕の生長マインドを鼓舞してくれた、いくつかの名言で締めくくります。彼らは全員、超人(SuperHuman)です。

Becoming is better than being
完成品より途上品
学生たちは「まだ」という点を忘れているのである
まだ知らないから、それを学ぶために学校があるのではないか
すでに知り尽くしているからきたわけではない
キャロル・S・ドゥエック
The journey is the reward.
旅そのものが報酬だ。
だから旅そのものを大いに楽しめ!
スティーブ・ジョブズ
Forever alive, forever forward
永遠に生き生きと、永遠に前へ前へ
ホイットマン
人間はより善く、かつ、より悪くならなければならないと、わたしは教える
最悪のものは、超人の最善のために必要である
ニーチェ
なにがしあわせかわからないです
ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから
宮沢賢治
求道すなわち道である
永久の未完成これ完成である
宮沢賢治
これから死につつある人か、
まだ生きていられる人なのか、
これから生きようとしている人なのか
開高健
私たちの本質は「途上にあること」なのです
ヤスパース
それじゃ、時間がないわ
生きる時間が!
息をしているだけじゃ、生きていないわ
ポリアンナ
けっして死を恐れる必要はなく、ただ、善人にとっては生のなかにも死のなかにも
なんら悪は存在しないことを忘れないでいればいい、と思っております。
プラトン
生まれた以上、死ぬまで勇敢に前進しなければならない!
ものになるということは絶えず前進するもので、初めて味わい得ることだ
生きている限り、僕は進歩してやまないつもりだ
その点にだけ僕は自信があるのだよ
武者小路実篤

さ、生長しましょう!!!!!!