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疑問点が多すぎてスカスカ―『竜とそばかすの姫』感想

こんにちは、ダマシと申します。

突然ですがみなさんの好きな映画はなんですか?

私は一つ挙げるのならば、『サマーウォーズ』を選びたいと思います。

金曜ロードショーとかで近いうちにやってくれないかな…夏だし

ヒロイン夏希の親戚がみんなキャラが立っていて印象的ですし、OZという視覚的にわかりやすく見ていてわくわくするネットワーク空間や、なによりネットというデジタルの要素と親戚といった人との繋がりというアナログの要素をうまく混ぜ合わせた物語が大好きです。

その『サマーウォーズ』を作った細田守監督が約12年越しに新たなネットの世界を描いた作品が、今回レビューする『竜とそばかすの姫』です。

完全に夏→『サマーウォーズ』→本作と連想ゲームでレビューを思いついた本作ですが、まあ言いたいことがたくさんあるので、今回も口悪く問題点等を述べていきます。

荒い言葉遣いが苦手な方、もしくはこの作品のネタバレを知りたくないという方がおりましたら申し訳ございませんがブラウザバックしていただけると幸いです。

またキャストにつきましては敬称を一部省略させていただきます。

それでは始めていきましょう。

あらすじ

幼い頃に事故で母親を失いトラウマで歌えなくなった女子高生、すず(中村佳穂)。

ある日友達の手引きで全世界で50億人以上が利用するインターネット空間の仮想世界〈U〉に入ったすずは、この世界では自分が自由に歌うことができると知り、「ベル」というアバターで世界中に歌を届けるようになる。

多くのファンがつき歌姫として認知されるようになった彼女はコンサートを開くものの、突如現れた「竜」と呼ばれる嫌われ者のアバターにより台無しとなってしまう。

「竜」の抱える心の傷を知るため「ベル」は彼に近づいていき、「竜」もまた「ベル」に心を許すようになる。

しかし〈U〉の秩序を乱す者として自警団が「竜」の正体を暴くべく動き出し、「ベル」もまたその争いに巻き込まれていく。

果たして彼女は追い詰められる「竜」を救うことはできるのか?すずの声は、現実にいる「竜」にも届くのか?

感想

「おお…うん…」となる作品でした。

いやまあ私が今まで見てきた邦画史に残る特級呪物と比べると全然マシなんです。比べるのすら失礼だと思いますけど。

でも決して良いとは言えません。なんだったら仮想世界のパートも、現実世界のパートも、10年以上前の『サマーウォーズ』の方が全然いいです。

最初に良かったところを述べると、やっぱり仮想世界やアバターのデザインは素晴らしいです。見ててワクワクしましたもん。

あとなにより歌唱シーンです。中村佳穂さんの素晴らしい歌声と
King Gnuでお馴染みの常田大希さんが率いる「millennium parade」が手がける楽曲が先述の仮想世界の描写と合わさり見てて鳥肌が立ちました。

ここは劇場で見ることでその真の良さがわかるシーンでしょう。

…それ以外?ストーリー?キャラクター?

本来の使い方と違うのはお許しください

まあ、あの、はい。ぶっちゃけ私はそんなに面白くなかったと思います。

批判

というわけでここからは何が個人的に良くなかったか話していきます。
問題点としては大きく分けて2点あります。

①悪意があるのにないネット世界

本作における問題点の1つ目は「ツッコミどころ満載のネット世界」です。

まず〈U〉の世界では治安を守るための自警団「ジャスティス」が存在しているのですが、彼らは"アンベイル"という行為を行う権限を有しています。

で、この"アンベイル"が何かと言いますと、「そのアバターを使っている人の現実世界の姿を強制的にさらすこと」です。

この権限を自警団が有しています。もう一度いいます、自警団です。

警察みたいなオフィシャルな存在ではなく自警団がですよ?ヤバくないですか?

この権限があれば誰も逆らえなくなりますし、気に入らない奴がいればそいつをアンベイルしさらし上げる、なんてこともできちゃいます。
〈U〉の支配者になれる、と言っても過言ではないでしょう。

なんで個人の組織にそんな「全世界に素顔をさらせる」という今の時代では人生を終わらせられるほどの権限を渡してるの?
私利私欲のために使ってくださいと言ってるようなものじゃないですか。

実際作中でも竜をかばったベルに対し「は?なに俺たちに逆らってんの?アンベイルしてやろうか?」と終始高圧的な態度で脅しをかけてますからね。

ジャスティス側の傲慢さも結構描かれてますので、本当にこいつらに治安維持任せて大丈夫なのか?と不安になりました。

もう一度言いますけど、なんでこれ自警団ができる設定にしたの?

「〈U〉は5人の賢人たちがどうたらこうたらして誕生して~」とか冒頭で言ってましたけど、こんな明らかなヤバい事態にも関わらず開発者であろう賢人たちはまったく出てきません。

「仮想世界作ったけど管理だり~、あとのことは誰か適当にやっといて」ってことなんでしょうか。
そのせいでこんな悪意100%みたいな状況ができてるんですけど大丈夫なんです?

アンタたちどんな世界作ろうとしてたの?失楽園?ディストピア?
素晴らしいね、コンセプト通りだよ。

で、こんな感じでアンベイルが脅威として物語が進んでいくんですけど、とんでもない事態が起こります。

場面は終盤。竜の正体が恵(けい)という少年だと知ったすずたちは、父親から虐待を受けている彼とネットで繋がりますが、すずがベルであることを証明できず回線を切られてしまいます。

彼の信頼を得るためどうすればよいか画策している際に、すずの幼なじみの少年であるしのぶベルを自らアンベイルし、すずの素顔をさらけ出すことを提案します。

すずがベルだと証明すれば、恵はきっと心を開いてくれると。

真面目に見ていてこんな気持ちになりました

あのー、世界中のユーザーである50億人の前で素顔をさらけ出すことがどれほど問題かわかってます?

顔が割れればそこから芋づる式に住所や家族構成、通っている学校も分かる時代です。

素顔を知っている人間が50億人もいれば、その中に絶対個人情報を調べたり、住んでいるところに凸する人も出てきます。
そして同時に、そうした人間がいるということは犯罪のリスクも高まります。

もしすずが犯罪に巻き込まれたら責任取れるのかお前はよぉ!?

なにが「ゼロに戻す」だマイナスだよマイナス!明らかにデメリットの方が大きすぎてまともな人間だったら提案すらしないわ!!

こんな現代ネットを使って生活している我々がパッと見ただけで「いやそれは危ないでしょ…」となる展開を持ってくるなや!

そもそもあれだけアンベイルで顔をさらされることのヤバさを描いておきながら、解決策が自分からさらすっていうのもアンサーになってないから!
まさか制作陣はネット犯罪とか知らないんですか?

というような感じで、散々アンベイルという悪意を持って他人の顔をさらしあげる描写を描いておきながら、いざすずが顔をさらす際にはそうした悪意は一切ないものだと考える。
この大きな矛盾が目につき作品にあまりいい印象を抱けませんでした。

ダブスタは良くないからみんなもやめようね!!

②説得力皆無の現実世界パート

そしてさらにヤバいのが現実世界のパートです。

一言で言うと、「とにかくツッコミどころが多すぎてモヤモヤしまくる」って感じです。

まず冒頭ですずがトラウマとなった母親が亡くなる過程が描かれるんですけど、ここからまずツッコミどころがあります。

すずの母はすずが幼い頃に川の氾濫により中州に取り残された子供を助けるため救命胴衣を着け川に入っていき、結果として子供は助かりましたが自分は命を落としてしまいました。
ここからすずは「娘である自分と一緒にいるよりも見ず知らずの子供を助けることを選んだ」と母の行動に納得できず、心に傷を負うと同時にそれを乗り越えていくのが本作のテーマの1つとなっています。

こうして書くと美談のように思えますが、実はこれとんでもない悪手です。

詳しくはこの記事を参考にしてほしいのですが、訓練もしていない人間が川で人を助けることは非常に危険です。

本作では子供は一応陸地にいるので溺れていない、救命胴衣を着けているので浮力はあるなど記事のシチュエーションとは異なる部分はありますが、川は氾濫していますし子供がパニックなのも変わらないため、いずれにせよ危険なことに変わりありません。

みなさんがもし溺れている人や中州に取り残された人を見つけた場合、無理に救助しようとするのではなく、まずは119番通報を行いましょう。

その上で「大丈夫だぞ!」「もう少しの辛抱だ!」などポジティブな声かけを行う、何か浮くものを投げてあげるなどできることをして救助を待ちましょう。
一人一人が正しい知識を持ち合わせれば、水難事故は減らせるのです。

話を戻し上記の記事と照らし合わせてみると、すずの母が一人で子供を助けに行こうとした行為は悪手です。

いくら救命胴衣を着けているとはいえ氾濫している川が危険なことに変わりありません。助けようという気概は素晴らしいと私も思いますが、助けるための知識がなければそれは無謀へと変わってしまいます。

そもそも中州という陸地にいるため「今にも溺れてしまいそう!」っていう状況に比べたらまだ多少余裕があると思いますし、氾濫する川にわざわざ飛び込むリスクを冒し救助する必要は感じられませんでした。

「行かないと、あの子が死んじゃう」じゃないんです。それであなたが死んじゃっても貴重な命が失われることに変わりはないんですから。

この行為を正当化するなら少なくとも「救助隊が来るまで待っていたら絶対に溺れてしまうから急いで助けなくてはならない」という緊迫感が必要なんですが、そんな感じはまったくありません。

描くなら如何ともし難い認識の差をちったあ埋めてからかかって来い!

この母親が示した「自己犠牲」の精神は重要なテーマですが、それを示すシーンで最悪なくてもよかったかもしれない犠牲が出たことを描いて説得力が出ると思ったんですか?

で、すずはベルをアンベイルし自らの姿をさらけ出すことで、母親の自己犠牲の精神を理解したのですが、その代わりに全世界の人間に顔バレするという、得られたリターンに対してリスクがあまりにもデカすぎます。

あれですか?子供の命という大事なものと引き換えに、自分の命の喪失、家族のトラウマ、おそらく助かった子供とその両親が抱えた罪の意識などいう多くのとんでもない爆弾を残していった母親とリンクさせたとか?納得できねーよこんな展開。

続いてのツッコミどころはすずの幼なじみのしのぶ君です。

彼はすずが気になっている男の子であり、クールでミステリアスな一面を持つヒーローという『時をかける少女』の千昭的なキャラクターです。

で、そんな彼のヤバいシーンは先述の「50億人の前で顔出せ」発言が最たるものなんですが、悲しいことにそれ以外にも存在しています。

例えば踏切を挟んで二人で立っているときに、唐突にすずに言うんですよ。「お前、ベルだろ」って。

ちなみにここまでしのぶがすずをベルと疑うシーンや気づくシーンは一切描かれておりません。この先?もちろん描かれないよ。馬鹿にしてんのか?

しかも電車が通り去ったら姿が消えてたのでもしや何か秘密が?と期待して見ていたのですが最後まで特に説明されませんでした。
ふざけるのも大概にsayよこの映画は。
思わず台パンしそうになりました。

それまで物語の本筋に関わってこなかったくせにいきなりしゃしゃり出て意味深なセリフを言ったのに一切掘り下げられないとか制作陣はしのぶくんをどう扱いたいのかわかりません。

というか何でその道のプロがキャラクターをこんな中学生のネット小説みたいに雑に扱ってるんですか?もっと描写盛れよ。

まとめると感情の起伏が乏しく意味深なことを言うくせに描写は少なく、幼なじみを危険にさらすような提案を行う男、それがしのぶ君です。
これでコイツをどう好きになれっていうんだよ えーーーっ

もうお腹いっぱいかもしれませんがまだあります。今度は「竜」こと恵くん一家の描写です。

終盤わけあって広大なネットの世界から竜の正体である恵を見つけたすずたちでしたが、先述したようにそのとき父親が恵とその弟である知(とも)に虐待を行っていることを知り、彼らを助けようとします。
しかし恵は「俺たちのことを覗くな。助けるなんてどうせ口だけだ」的なニュアンスのことを言って回線を切ってしまいました。

ここだけならまあ普通なんですけど、問題はこの虐待の様子が配信されていることなんですよね。

そのため知が勝手にやっていることはいえ全世界に発信されているのに「見るな」という恵、全世界に発信されているのに虐待を続ける父親という謎の状況が発生しています。

さらに恵が助けると言ってもみんな口だけだったと言うシーンで何度も「助ける」と連呼するんですが、ここがマジでしつこかったです。
「うちはラップ聞かされてる?」って思いましたもん。

また幻術なのか!?

ですがこんな問題点はまだ序の口です。ここからこのシーンがかわいく見えるようなカオスが待ち受けています。

それでは本作最後にして最大の問題シーンである「虐待一家突撃編」について語っていきたいと思います。

先述の虐待を目撃したすずたちは児童相談所に電話をかけますが、どうやら何かに48時間がかかる様子なため、そんなに待っていられないとすずは一人で高知を飛び出し、恵のいる東京へ向かいました(住所は割り出し済み)。

…まず本編を見ると誤解を招くので多くの人が指摘するように訂正しておくと、ここでいう48時間は虐待の通報があってから48時間以内に子供の安全を確認する「48時間ルール」のことを指します。

つまり「48時間以内は動くことはできない」ではなく、「48時間以内に安全を確保しなくてはならない」という真逆の意味です。

ここの誤解を招く描写はかなり批判されてますね。当然ですけど。

そして問題なのは高知から東京まで一人で向かっていること。しのぶ君や友人のヒロちゃん、カミシン、ルカちゃんはもちろん、大人であるはずの一緒にいる合唱隊のおばちゃんたちや和解した父親に至るまで誰もついてきません。

お前ら女子高生が一人でDVを行う危ない男のところへ向かうって言ってるんだぞ?心配じゃないのか?
もし仮にすずに何かしらあって亡くなりでもしたら母親のときと同じ悲劇が起こるとこでしたよ?

危機感というものがないのかアンタらには。

こうして東京に着いたすずは兄弟のいる家へと向かうんですが、そのとき「ベル~!」と叫びながらこちらへ駆け寄ってくる恵と出会います。

すずが来ること恵は知らないはずなんですけど制作陣わかってます?アポなしで突撃してるのになんで待っていたといわんばかりに出てくるんですか?

で、怒った恵のお父さんにすずが殴られそうになるんですが、すずのまっすぐこちらを見つめる眼力にひるんだのかビビった様子で殴るのをやめてしまいます。

ネットでワンピースの「覇王色の覇気」って言われてるの面白かったです

もう呆れて何も言えません。こんなしょっぱい決着のどこにカタルシスがあるんですか?
「母親の気持ちを知ってまっすぐな強さを手に入れたすずの強さを見せる」っていう描写?こんな展開で納得できるわけないだろいい加減にしろよ。

しかもここまでやっといて父親が捕まった描写も描かれず恵がすずに「これからは頑張って立ち向かっていくよ」って宣言して物語が終わりますからね。

なんで捕まる描写入れないの?なんで離れるんじゃなくて立ち向かう方向に意識を向かわせたの?兄弟がその後どうなったかなんで描かないの?って頭の中で疑問が止まりませんでした。

このようにとにかくツッコミどころが多いですが、ここに書ききれなかったものもまだまだあるので実際に見てもらえるとありがたいです。

まとめ

とにかくこの映画は映像だったり音楽だったり雰囲気は一級品なんですけど、肝心の内容があまりに粗末なものだったのが問題点と言えるでしょう。

すずに対するしのぶの思い、ギクシャクするすずと父親の関係の改善、顔出ししたことによる周りの環境の変化、恵・知兄弟のその後の様子など描写すべきだったり描写することでより良いものとなる点があまりにも多すぎるため、とにかくストーリーだったりキャラクターの掘り下げだったりいろいろ足りてません。

ですが先述したように映像と音楽は一級品なので、まだ見てない人には是非観てほしい作品です。
冒頭と終盤のライブシーン以外は最悪スキップしてもいいので。

それではまた。

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