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18歳男ふたり、AVを買いに行く

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今日はちょっと、思い出話をします。
もしかしたらシリーズになるかもしれないから、登場人物についての説明をしておきますね。

タクちゃん

タクちゃんは中学の同級生で、付き合いは僕が地元を出るまで続きました。

この歳頃の友情は長く続くよなぁ、と思った方もいることでしょうが、実は学校での関わりはほとんどないのです。彼は吹奏楽部で僕は帰宅部、クラスもずっと違いました。

別々の高校に進んでから、彼が友人とともに僕の家に顔を出すようになったのです。共通の友人が多く、またそれが有無を言わさず人を連れ回すような連中だったからです。

次に外見ですね。地味メガネといいますか、顔の美醜はさておき、田舎ですからメガネそのものが少なく、特徴として目立ちます。
センシティブな意味合いを持つ特徴です。
(上野のケバブ屋が「メガネアニキ、マッテヨ!」と声をかけてきますが、あれは都会だから許されてます。田舎では白人が黒人に「ヘイ、ニガー」と声をかける程度には気まずいですね)

あと中学の頃は坊ちゃん刈りでした。ラサール石井スタイルです。マジで目立ってました。
ラサールスタイルと硬い声、硬い動きに不審な行動……いつもバカにされ……てはいませんでした。彼は常に人気者です。とにかく性格が明るくて人がいいからです。あと学校の成績はトップクラスです。

もう一つ吹奏楽部の話をすると、彼以外の部員は全員女子でした。もうラノベの世界かな、って思いますよね。ハーレムですよ。まあ奥手でムッツリ寄りのタクちゃんにとっては地獄だったそうですが。

大人の買い物したい

さて、今回のお話は高校卒業後のことです。
僕が地元の大学に通い、タクちゃんが浪人していました。

ある日、彼は我が家を訪れ、上がり込むなり真剣な表情で切り出しました。
「あの、中條くん、アダノレ卜ビデオを買いたいからついてきて欲しいんだ」

こういうのを真顔で相談するの、青春映画みたいですよね。

さて困りました。
店でそんなものを買った経験はありません。
田舎に住む健全な男子がエ口映像に触れる手段といえば、現在でいう違法コピー。当時はまさにそんな時代だったのです。

なにせ90年代の終わり頃なので、DVDの普及も進んでおらず、VHSもレンタルビデオ店の奥のノレンをくぐったところにだけおいてありました。
今はGoogleに相応の単語を指定してやれば見放題ですが、その頃は「大人の分け前」にあずかるのが当たり前だったのです。

しかし確かに気持ちはわかる! 我ら今や18歳なり! エ口ビデオの一つや二つ何するものぞ! といった心意気で家を飛び出しました。

なんとしても、俺たちは叡智なビデオを買うのだ!

まずは自販機

今も時折田舎の国道脇に残って、YouTuberが訪れたりしているエ口本・ビデオの自販機
だいたいバラックの小屋に隠れていて、子供が入らないようにとか、買うところを見られないようにとか、気遣いにあふれた施設となっています。
が、なんと当時、しかもドが三つくらい付く田舎である我が故郷では、駅前とかラーメン屋の前にドンと置かれていたのです。

前面が曇りガラスになっていて、昼間は中身を見ることができません。細かいことをいえば薄らと肌色が見えていますが、どんなお姉さんがどんなポーズを取っているかまではわからない程度です。
これが夜になると中のパッケージがハッキリ見え、好みの作品をボタンで選ぶことになるのです。

ラーメン屋の前に置かれたエ口本自販機、さぞ酔った勢いで買う人が多くいたことでしょう。

鼻息を荒くしながら自転車を走らせました。ペダルを踏み込むたびに自販機が近づいてきます。
頭の中はエ口一色……というわけではありません。
不思議に冷静でした。
何千円使うだろうか。いい作品に出会えるだろうか。好みに合わなくても妥協して買うだろうか。人に見られず買いたい。自販機の音が大きかったらどうしよう……

ですがその日、自販機での購入は不可能でした。
どんな理由か、自販機前が、よりによってエ口本自販機前が、奥様方の井戸端会議の場になっていたのです。
さほど広い町ではありません。顔見知りが何人もいます。というか叔母がいます。

タクちゃんは止まりません。こういう時に冷静に立ち止まれないタイプの男です。というか本当に人がいることに気づいていません。

「タクちゃん、待って……俺無理だ」

「どうしたの、着いたよ、買おうよ! ほら!」
やめろ、主婦が集まってるじゃないか。そういうの気にしろよ。

僕は叔母に気づかれる前に逃げることにしました。タクちゃんを見捨てて。

本屋

1キロほど走った頃、タクちゃんが追いついてきました。
僕は叔母がいた事を説明し、別の場所で買おうといいましたが、タクちゃんときたら「せっかく来たんだから買えばいいのに」と、理解していませんでした。とんでもないやつです。

次なる舞台は地元最大の書店です。
レンタルビデオを併設しているから、中古ビデオがあるはず。
そう期待して、広い産業道路をひた走ります。

レンタルビデオの中古なんて何百円、自販機より金がかからなくていいじゃないか。
大量のエ口ビデオを前に、僕は満足していました。

書店では古くなったビデオを販売に回して処分していたのです。パッケージも本来の販売用ビデオのものでなく、ペラペラのソフトケースにジャケットを輪ゴムで留めたものです。

いやいや、これで結構。今までダビングしか観たことがないんだ。家に置いてあるダビングには「東進・数学IIB傾向と対策」と書いてあって、元のタイトルすらわからない、女優の名前もわからない、そんな状態で観ているんだから。

ぼんやり背表紙を眺めていると、タクちゃんがとんでもないセリフを吐きました。

「中條くん、やっぱり中古はやめようよ。人が使ったのって、なんか汚いし」
「は?」

いやビデオだぞ汚いもなにもあるか、いやいや前に誰かが抜いたって思うと萎えるんだ、いやいやいや新品だって誰かが同じ場面で射精を、と押し問答が続き、店主に「騒ぐなら外でやってくれ」と追い出されました。

いや、先に買えばよかった……
何してくれんだよタクちゃん。
18禁コーナーからつまみ出されるところを大勢に見られたよタクちゃん。

いよいよ専門店

こうなったら、もはや"あそこ"に行くしかありません。
生まれて初めての"エ口ビデオ専門店"です。

正直にいえば、怖いというのが本音でした。
得体の知れない場所でもありますし、ガラの悪い人か汚い風貌の人しか出入りしてないからです。
ですが18歳にもなって、エ口ビデオ屋ごときを恐れてはいられません。
行くしかない。
というか書店から100メートルも離れてないんですが……

緊張のビデオ屋

恐る恐る、です。
凍りついた表情のまま暖簾をくぐりました。
このビデオ屋、県道沿いで目立つ店ではあるのですが、入口は裏側という親切設計です。うん、不親切だけど親切、いいですよね。

タクちゃんが息を飲むのが分かります。
僕も圧倒されています。
レンタルビデオとはスケールが違います。
店の奥まで10メートルほど続く棚が何列もあり、これ全てエ口ビデオなんですよね。何万本あるのでしょうか。

端から順に見ていくような落ち着いた行動はとれません。
緊張と昂奮がない交ぜになり、通路左右の棚をキョロキョロと見回します。
なるほどタイトルは読める。パッケージの背に女優の半身が印刷してあったりする。そんなのはレンタルビデオでも見てきました。しかしこうも量が多いと酔ってしまいます。

やがて、棚にジャンル分けの札が刺さっていることに気づきました。
新人、熟女、SM、スカト口、どれも思春期男子にはお馴染みの単語です。
一昔前の邦画や漫画なら、文字を見ただけで鼻血を出す演出が入るところでしょうか。

ですが、僕ははたと気づきました。
「どれを観たいか」と問われると、まるで思い浮かばないのです。

なにせ思春期男子のことですから、エ口ビデオならそこそこ観ています。先に述べたようにタイトルも女優も知らないままに"使用"したものが沢山ありました。それらの中にはいわゆる"ハズレ"も山ほどあり、多少トラウマもあります。

ググっていただくとわかることですが、当時のAVはタイトルから内容を想像できないものばかりでした。
「乱れ腰じゅずつなぎ」とか「ぐしょ濡れマナコ」という文字列で何を知ることができるでしょうか? まあ今でも意味のわからないタイトルの作品は多いんですけど……

しかしここでタクちゃんが先に勇気を見せてくれました。
彼は一本棚から引き出し、ジャケットをじっくり眺め、頷きながらまた棚に戻しました。そして別の一作を手に取り、今度を首を振って棚に戻します。
なるほど、臆せず手に取ってみればいいのか。
真似をして棚から一本引き出し、ジャケットを観察します。うん、内容はわからんが女優は美人だ。

そうだ、価格はどうだろう? 裏面に書いてある気がして、ひっくり返してみます。
うん、8600円か、なるほどなるほど。

買えないよ。

予算3000円だよ。

してやられました。本を買う時の感覚で大した金を持って来ていなかったのです。
ビデオになるとこんなに高いとは、さすがVHS。
4500円という安価なものもあるにはありますが、上は1万超えもザラです。

「タクちゃん、いくら持ってきた?」

タクちゃんは財布を取り出し、中身を数えはじめました。しかも時間がかかっています。2〜3分かけてカチャカチャやっています。期待できるのか……?

「んー、2452円」

いらないよ、その端数数えなくていいよ。


僕は足りないんじゃないか、と手に持ったパッケージの価格表示をトントン、と指で叩いて見せます。
期待を裏切る高価に気づいたタクちゃんは、自分が握っているVHSにも目を落とし、
 「ワー! 高いよこれ! マジか!」

その声の大きさに驚いたのか、棚の陰から店員が顔をのぞかせます。

「うん、わかったわかった、俺も買えない、とりあえずデカい声出さなくていいから、落ち着いて」

僕はタクちゃんをなだめつつ、やはりレンタルビデオの中古を買えばよかった……と落ち込み、出入口に足を向けました。

とりあえず外に出たい。なんならタクちゃんを置いて帰ろう。

その時、入口脇に小さなワゴンが置いてある事に気がつきました。店舗の売り場に置くようなものではなく、キッチンで小物を入れて使うようなワゴンです。
これはセール品だな、と察した僕はすぐにワゴンに手を伸ばし、乱雑に放り込まれたVHSの一本を取りました。

「クリスタル映像サンプル集 98年6月」

これは……売り物なのか?
棚に並んでいるようなハードパッケージではなく、録画用テープと同じソフトケースに入って、タイトル文字もワープロで印字したようなギザギザ文字、価格表示は見当たら……あった、小さな紙ラベルに手書きで、500円!

僕はエ口ビデオ屋には救いの神がいるのだと悟り、タクちゃんにそれを説く……暇はないので、これを買おう、とだけ告げ、2本を手に取ってレジに向かいました。

会計口は一般向け書店と同じといえばわかるでしょうか? 今どきアダノレ卜専門店は店員と客の目が合わない作りの会計台が多いのですが、田舎であり、前世紀のことですから、そんなものは導入していなかったのでしょう。
税込1050円を払い、黒いビニール袋に収まったビデオを受け取る間、自分の鼓動が店中に響き渡っているのではないかと危惧していました。

いま、買っているのだ、エ口ビデオを!
人生で初めてのエ口ビデオを!
俺は取り返しのつかないことをしているんだ!
これでもう、俺は生涯「金を払ってエ口ビデオを買う男」になってしまうんだ!

その"烙印"である黒いビニール袋を胸に抱えて振り返ったところ、タクちゃんがサンプル集ビデオを4本抱えて立っていました。欲張るなぁ。

爽やかな夕暮れ

外に出た頃には日が沈みかけ、西の空が茜色に染まっていました。
これで数時間を費やしたくっそくだらない冒険も終わりです。

自転車のカゴに放り込んだビニール袋が揺れる度、こいつを持って帰ったらもう今までの自分には戻れないんだ、という思いが頭を過ります。

ですがそれにしたって夕焼けのなんと美しいことでしょう。
過去の自分が望んだ姿とは違うかもしれませんが、僕達は一つ大人になったのです。
風が火照った頬を撫で、胸の熱を冷ましてくれます。

辺りが薄暗くなる中、僕達は家路を急ぎました。

これヤバいよ

生まれて初めて買ったエ口ビデオを再生する舞台には我が家が選ばれました。
タクちゃんが家で観られないからと提案し、僕も興奮冷めやらぬまま二つ返事で了承したのです。

テレビの音量は最小に絞り、一本目をビデオデッキに投入します。

最初数秒のノイズが薄れると、黒い画面にタイトルロゴが現れます。タイトルといっても何何社の店舗向けサンプルである旨と、注文の際は作品番号をFAX等で云々という表示だったと思います。
そこからは、作品のタイトルが出て、次に作品のダイジェストが数分間、という形式でした。

さあこのダイジェストがなかなかどうして優秀です。定石であるインタビュー〜ペッティング〜本番の流れをパッパっと繋ぎ、本番は見せ場(抜きどころ?)を順に流していきます。
もっとも興奮したのは、もちろんタクちゃんでした。

「ヤバいよ! これヤバいよ! マジでシコれるよ!」

「声デカい静かにしろ人の家でシコろうとするな立ち上がるなガッツポーズもやめろ」

タクちゃんを押さえつけながらも目は画面に釘付けになります。
ダビングにダビングを重ねた劣化コピーのテープに比べて何倍も美しい画質。
今まで観たビデオとは時代が違うと感じさせる、女優の"今っぽさ"に若々しさ。
これはアタリだ、今日一日は無駄じゃなかった。

タクちゃんが帰ったら目一杯シコろうかなと考えながら畳に寝転がると、疲れが全身に広がってきました。
心地よい微睡みに誘われる僕の横で、タクちゃんはしばらく騒いでいたと思います。

ビデオをちゃんと使ったのは何日も後のことでした。


最後までお付き合いいただきありがとうございます。
またいつか思い出話を書いていこうと思います。

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