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誰かの権利が許せない -表現規制を主張する第一歩-

私はヤタガラス。お酒の飲みすぎは良くないぞ。

昨今表現規制が話題になりつつある。私もあなたもきっと表現規制を推進する立場ではない。かといって、反対の声を強く発する立場の人でもないだろう。
今日はずばり、表現規制を進めていこうと思う。
といってもただのシミュレーションだ。
表現規制のやり方というより、表現規制を推進する立場になってしまう場合を考えていきたい。
規制される対象として、たとえば犯罪描写のようなものはリアルすぎるので、嫌いな動物とかそんなものにしておこう。

数年前からカメ類が流行の兆しを見せている。特にミドリガメとスッポンが群を抜いた人気ぶりだ。ミドリガメはペット向きに昔から親しまれていたし、スッポンも神経質で気が荒いところがなぜか現代人にウケている。

くだらない設定だが、この程度なら真実味があるかもしれない。動物はどこへ行っても人気だ。
ところでこの世の中と対立するあなたの方には以下の設定を与えよう。

・幼少期、頬をスッポンに噛まれた
・迫り来るスッポンが夢に出るほどのトラウマ
・頬の肉がえぐれているため、小中学生時代はいじめのターゲットに
・いじめから登校拒否になり、高校は公立底辺校へ進んで中退

ほどほどにしておこう。あまり盛りすぎると色んな人の傷を開いてしまう。
とにかく、近くで見ると過呼吸におちいり痙攣するレベルで嫌いなものナンバーワンが、世の中で持てはやされるようになっているのだ。
テレビや雑誌で特集が組まれたりするし、SNSで「スッポンかわいい」といい出す人がでてくるのだ。
人によってはこの段階で動くかもしれない。
まずはネットで呼びかけよう。スッポンは有害な動物であり、マスコミ等が現実と相反するイメージを流布する行為に反対する、と。
一笑に付されるだろう。私は笑わないぞ。多分笑わないと思う。笑わないんじゃないかな。まちょっと覚悟はしておけ。
あなたはわかっていたので特に動かなかった。
スッポン害を訴えたところで世の中が変わるわけじゃない。もちろんスッポンもいなくなるわけじゃない。

だが事態は悪化の一途をたどる。

スッポンが重要な役割を果たす映画が公開されることになった。
これまでも動物がテーマの映画なら腐るほどあったから、スッポンが題材として取り上げられることに違和感を覚える人はいなかった。たぶん。
だがスッポン被害者であるあなたは、黙って受け入れることができない。意を決して、SNSで過去の体験と自分の思いを書き綴ることにした。
スッポンに顔面を噛まれ、一生残る傷を負った人物、というインパクトにTwitterはバズり、LINEで拡散する人も出始めた。しかも同情的な反応が多い。

スッポンを見たくない、というのは個人の願望でしかない。主張する人だけが当事者であり、同情する人や理解を示す人はいても、広く支持を集めることは難しいだろう。
もう一押しほしいところだ。

憎き「スッポン推進派」は増える一方で、ついにゼニの匂いを嗅ぎつけた某キャラクター商品メーカーが食らいついてきた。まるでスッポンのように。
その会社は犬猫や猿、カエルなどのキャラクターを次々生み出しヒットさせてきた実績がある。特に女性人気は確固たるものがあり、商品化されると数百億の利益を上げることになる。
新たなキャラクター、スッポンの「まるべえ」は登場するなり大当たりだった。
文房具に家具に絵本と、まるべえの絵はいたる所で普及していった。
我慢の限界に達したあなたは、ネット上にとどまらず広く賛同者を募ることにした。
そしてある日、悲劇は起こった。
子供がスッポンに噛まれ、危うく指を失う寸前におちいったのだ。

あ、もう少し続くけど、どうかブラウザを閉じないでほしい。バカバカしいのはわかってる。

ネットで知り合った自称大学教授(社会学)があなたにアドバイスをよこしてきた。
「先日の子供の負傷と、できればあなたの昔の怪我もあわせて、スッポン被害を増やさないように、規制を求める運動を行うべきだ。子供の怪我を防ぐ名目なら、きっとみんなわかってくれる」

なんと素晴らしい提案だろうか。
あなたは今までにできた仲間も連れて、大規模な運動に身を投じることとなった――
今や敵はスッポンではない。キャラクターを生み出す大企業に、それを求める愚かな大衆だ。

たが次第に、反対意見も増えはじめる。
「スッポン悪くなくない? 人間が余計なことしたら犬だって噛むでしょ」
「一部のスッポンが人を傷つけたからといって、スッポン全体が加害者であるかのように喧伝するのはおかしい」
「体のいい表現規制。スッポンを禁止したら次は犬猫を禁止しろといいだす」
規制反対派は日に日に層を厚くしていく。
最初は学生やオタクだった。今は主婦やギャル、よく知らない特撮番組に出てた俳優も意見を述べていく。ついには大田区議会議員とかいう人物まで現れた。
自分は弱者が痛い目にあわないために、かなしい思いをしないために運動を行っているのに!
ひどい日は殺害予告も届いた。
ネットに強いと評判の弁護士に相談したところ、刑事罰を求めると同時に損害賠償請求も可能らしい。
殺害予告を送ってきたキモオタと、反対意見を募るギャルやアホ俳優、区議らは同じ集団だ。スッポンだけでなく奴らも一緒に規制してやる。
あなたの戦いはまだ始まったばかりだ!

さすがにアホらしく思えてきたが、こらは題材がスッポンだからだ。
これが犯罪被害なら?
特に性犯罪であったら?
特に年少女児を狙った強姦被害などであったら?
被害を防ぐためにキモオタやロリコンが苦痛を受けるのは仕方ないと、あなたも思ってしまうのではないだろうか?

今月も皆様のサポートのおかげで生活保護申請せずにすみました。心より御礼申し上げます。