集団ストーカーじゃなくてもあなたの行動や嗜好は筒抜け
気の利いたタイトルが浮かばないのでこのままで上げておきます。
事件発生編
会社員の藤田氏(仮名)は45歳、妻と娘2人、それにチワワのフクちゃん13歳とともに、千葉県船橋市に暮らしています。
ある日の藤田家では、家族旅行の打ち合わせが進められていました。
藤田氏は名古屋に行こうと提案しましたが、妻は日光に行きたいといいます。彼女は三重県の出身なので、名古屋より日光の方が珍しいのです。
子どもたちは旅行先など興味なし。有名テーマパークに行きたかったようで、それ以外ならどこへ行っても変わらないとばかりの塩対応です。
藤田氏としては予算が少ない日光に異論はないので、多少食い下がってはみたものの、妻に同意することにしました。
翌朝スマホで日光の観光ルートを検索していると、広告がやたらと藤田家の行動にコミットしているような気がします。
具体的には、家族向けの旅館や、駐車場マップアプリ、さらに「高齢のワンちゃんも安心」とペットホテルのウェブ広告が表示されるのです。
旅行シーズンだからそういうこともあるのかな、と通勤中の電車内はそれで納得したのですが、昼休みに再度スマホを開いた時ビックリ。
駐車場マップアプリの広告に「北関東ドライブルート」の文字が加わり、旅館・ホテル予約サイトの案内とともに「日光のホテル早割プラン」と表示されているのです。
藤田氏はここまで、日光に行くことを家族同士の会話でしか口にしていません。
予約だって数日以内に済ませたらいいだろうと思っていたほどです。
気味の悪い思いをしつつも、まさか盗聴などされてはいないはずだと、気分を切りかえて仕事に戻った藤田氏。
午後は得意先を訪問する予定になっていたので、手早く荷物をまとめて支度します。
出る直前になってふと、月末の宴会の予定が決まっていなかったことを思い出しました。
幹事は藤田氏一人という訳ではなく、この会社では店の選定と予約、会の仕切り、会計を分担するのが日常になっています。相互確認で抜けがないようにするのが目的だとか。
時間がないため彼は後輩を呼び寄せ、店の候補を何軒か調べておくように頼みました。俺のパソコンを使っていいから、と付け加えて。
得意先訪問も無事に終わり、気がつくと終業時刻も過ぎています。
藤田氏は会社に電話をかけ、残業中の上司に許可をとって直帰することにしました。
帰りの電車でスマホを取り出して、再び日光の渋滞回避ルートでも調べようかとウェブブラウザを開いた時、彼は余りの衝撃にスマホを取り落としてしまいました。
今日後輩に任せたはずの宴会プランが、広告として表示されているのです。
満員電車でスマホを拾い上げつつ、周囲をキョロキョロと見渡してしまいました。誰かが俺の行動を見張っているのか? もはやそう疑うほかありません。
そして次に見た時、旅行会社の広告が表示されていることに気づきました。
「休日は名古屋メシでグルメ旅」
家に帰っても落ち着かず、部屋の隅やコンセントなどを見てまわりました。
あのどこかに盗聴器が仕掛けてあるのではないか。
ですが部屋に不審物はなく、コンセントも古びてうっすら綿埃がかかっています。思わず掃除してしまい、それどころではないと我に返ることの繰り返しでした。
藤田氏は夜中にスマホで「ヤフー知恵袋」を開き、似たような例がないか検索してみました。
出てくるのは「集団ストーカー」や「盗聴器発見」など、少しばかり妄想が過ぎると言わざるをえない文章です。弱気になっているとはいえ、集団ストーカー被害を訴える文章の支離滅裂さに「これはない」と即断できるレベルでした。
では質問を投げかけてみるか、と入力ページを開くも、程よい文章が浮かびません。妄想を疑われてもつまらないと思ってしまうと、指が動かないのです。
そうこうしているうちにひと時の眠りにつき、いつものように朝を迎えました。
減るものではないし、一応質問だけは書いておこうと、通勤中に以下の要旨で質問文を投稿しました。
全て打ち込み終わったあと、投稿完了画面に「集団ストーカー対策」「調査依頼は当探偵社へ」と表示されていたのを目にした時、もはや藤田氏の精神力は限界を迎えていました。
電車内でへたりこんだ彼は駅員室で休ませてもらい、かなり遅くなってから会社にたどり着きました。
事情を話すと上司は「疲れてるんだな」と案の定の反応。後輩にも気にしすぎと一笑に付される始末です。
事件解決編
昼休みに入った藤田氏は恐る恐るスマホを取り出し、再度「ヤフー知恵袋」を開いてみました。
思ったより多くの回答が付いているようです。
ですが内容は短文で、しかも予想通りのものばかりです。
そんなくだらない言葉を受け流し頭が痛くなりそうな中、気になる回答があることに気づきました。
しかも長文です。
藤田氏が最も気にした点を突いてきました。
そういえば、と彼は思い出しました。
日光に行くつもりで観光ルートを調べてから広告が表示されるようになったのです。
なんと「自分の手で」検索したのではない宴会についても解決してしまいました。
ペットホテルはそういう事だったのか、と藤田氏は安心しました。確かに高齢犬用のフードをネット注文したことがあります。
車種を指定してフロアマットを購入したこともあります。
名古屋のグルメ案内はもしかすると妻が検索したのかもしれない、後で聞いてみようと手元のメモ用紙に記入しました。
スマホの画面をスクロールする手が震えているのが自分でもわかります。
現代社会とはここまで恐ろしい境地にたどり着いてしまったのでしょうか。
さてさて、藤田氏はオンラインサロンに登録したのでしょうか?
テクノロジー社会では何を信じたらいいのかわからなくなってしまいますね。
今月も皆様のサポートのおかげで生活保護申請せずにすみました。心より御礼申し上げます。