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母の精神疾患と変な精神科医

母の精神病発病と精神科へのお導き


私の母は80歳、現在精神科に通っています。通い始めて約1年ほど経ったかと思います。病名は”高齢期妄想性障がい”。症状はその名の通り妄想です。これは認知症によって引き起こされる妄想とは異なりますので鑑別が必要です。統合失調症のようにもみえるかと思いきや、違います。こんな病気があるなんて知らなくて、最初は対応に難儀しました。

この病気は妄想だけが主な症状で、他には特に困ったことはありません(うちの母の場合ですが)。認知もしっかりしていますし、社会生活もしっかり営めています。身なりもきれいで会話も人付き合いも問題なくこれまで通りこなせていますし、きちんとしていて人には気づかれにくい病気なのです。

妄想というのは、家の中に人が住んでいるというものです。特に天井に人がいるようです。歩く音が聞こえる、話し声が聞こえる、物がなくなる、誰かが見張っている、天井から電磁波がビリビリと来る、これも誰かの仕業だと言います。そういうことを頻繁に訴えられたり、一緒に確認させられたり、家中のあちこちに鍵を取り付けたりしだして、家族はイライラして「いい加減にして」と喧嘩になったりするのですが、本人は頑なに自分の妄想を疑わずむしろ積極的に信じるようになります。

これまでそういうことがなく平和だったのに、急に妄想による問題が出てくるので、家族は困惑します。(まぁ母の場合は60代ごろから兆候はありました。特に浮気妄想などの被害妄想は時々ありました。)

基本的な対応としては否定も肯定もしない。冷静に対応です。

主にパートナーがなくなったりして一人暮らしになると、孤独から高齢者がこういった妄想に囚われるようになり、発症する事が多いようです。この病気への認識はまだまだ浅く、知られていないため、普段からかかりつけの内科で、母の主治医の先生すら気がつきませんでした。

妄想の話をすると「う〜ん、こんなにしっかりしてるしなぁ、認知症ではなさそうだけどな」「認知症検査でもまだまだ大丈夫ですし」と言われます。妄想性障害(パラプレニーともいう)への認識不足なのです。

そんなわけで母が精神科につながったのは奇跡とも言えます。まず本人は精神科全否定ですし(だって妄想ではなく、本人にとっては現実のことなので)周りの人間も気が付きにくい。母は頭皮がビリビリする、という電磁波(?)に本当に苦しんで自ら病院へ行き、脳神経外科などあちこち科を回されて精神科に導かれるようにして辿り着きました。

精神科のドクターは
「よく来てくれましたね。ここに来るのはイヤだったでしょう?本当によく来てくれました。あなたが来るべきところは精神科で間違い無いですよ。」
と優しい声をかけてくれたとのことでした。

その適切な声掛けと対応のおかげで警戒心の強い母も安心して精神科の先生を一旦信じることにしたようです。

興味津々の通院付き添い


その話を聞いた私は、母が自主的に総合病院を訪ねて行き、運命的に精神科に導かれていったことに感銘を受けました。さらにドクターの声かけにも感動し、母が安心して通院が続けられるように今後は必ず付き添う、という約束をして、その後二回目からは私が必ず付き添うようにしました。

服薬についても、母がどんな薬を飲んでちゃんと服薬を続けているかも見守らないといけないし、第一これまでの経緯についてきちんと伝えて連携したかったのです。

そして二回目の通院、初めての付き添い。どんな優しい先生が待っているかと期待して診察室のドアを開けた私は・・・

え?

そこにいたのは熊みたいに野暮ったくて見るからにモサッとした風貌のおじさん。髭はボサボサらしく、昔よく見た布のマスクの下から乱れた髭が・・・ウソやろ。

精神科の先生のじわる面白さ

白衣を着ていなくてアウトドアブランドの袖なしフリースを着ている。メガネも曇って、汚い。どんよりした感じで笑顔もなく、ヌボーっとこっちを見て、
「あどうもこんにちは。」

私は気合を入れて自己紹介をしました。こんにちは、娘です。今後は一緒に診察に付き添います。

私のその言葉に先生は大して興味もなさそうに、はぁそうですか、そりゃあいいですね。来られたら一緒に診察室に入ってください。

「・・・・・・・・・」言葉を失う。

精神科に迷い込んだ母に気の利いた適切な言葉がけや受容的な態度で接した素敵なドクターには、悪いけど全く見えません。『素敵な』とか『受容的な』とかいうイメージの容姿は私の勝手な考えであり、ついでに言うとその先生が男性か女性かも知らなかったので、勝手に老人に優しい女性のドクター??なんて思い込んでいたのです。そのイメージと現実目の前にいるおじさんとのギャップに拍子抜けした私は、その先生に俄然興味が湧き、観察を行いました。

目が合わないし、話も一本調子、表情筋がほとんど動かない。けど声は高めのトーンでやたらデカい。聞いていないのに結構自分のことを話す。それもしょうもないことを。

「私もよくお酒は飲みますけどね、次の日なんかは脱水でだるいんですよね、だから暑くなってきたんで脱水は気をつけてください、お薬でだるいのか精神的にだるいのか、脱水でだるいのか、とにかく脱水には気をつけましょう。」

身体がだるい、しんどいと訴える母に、気温が上がってきたら水分をしっかりとってくださいと言いたいみたいですが・・・解釈に少し時間がかかる。何言ってんだろう。摩訶不思議です。

ウチの母は疑い深くて警戒心が強い。いつでも被害妄想があって人を信用しない。そんな母が結構良い印象を言うもんだから、私はすっかり見た目から良いイメージを抱いていたのですが、その期待を激しく裏切るだけでなく、想定外にちょっと変だ。

しかし「変だなぁ」と思わせていても悪い印象は全くなく、見立ても納得だし、お薬の処方についてのコンセンサスもソツなく得て、まったり診察室を出る時には私の気持ちも整い「あの先生の言うことを聞いておけば間違い無いのでは?」みたいな空気感が私と母の間には漂っていました。変だけどまともな先生で、よかった。安心と同時に先生の強烈な個性がじわる・・・

治療との出会いはドクターとの出会い

現在その先生のもとに母と一緒にもう1年ほど通っています。母の妄想は改善したり消失したりするわけでは無いので症状として大きな変化はありませんが、家族を呼んで大騒ぎしたりするようなことは随分減って落ち着きました。お薬で日常の症状をコントロールし、症状が強く出る夜は、お薬の力を借りてもとにかく早く眠ることが大事なのです。

まだきっとこの先生に末長くお世話になるでしょうが、この先生のユニークさも相変わらずで、毎回の診察時に新しい発見でじわらせてくれます。その個性とおもしろさは筆舌に尽くし難いものがあります。必ず診察の後にはこの先生の今日の面白ポイントを家族でシェアしています。治療との出会いはドクターとの出会いでもあります。精神科をおもろい場所にして診察をエンターテイメントにしてくれるドクターのユニークさって素晴らしいですね。本人を含め家族も楽しんで精神科治療が継続できるって斬新で素敵ですよね。知らんけど。


※ここに書いた母の病気についての症状などの情報は、あくまで個別の事案です。同じ病気でも人により症状や対応は様々ですので、共通することがあるかもしれないし、そうでないかもしれない。皆同じではないということを踏まえてお読みください。


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