見出し画像

稼げる農業への転換で次世代を創造する〜ココカラが描くビジョンと産業革命

農業で産業革命を


 世界中で危惧されているこの先の食料問題について、身近な問題として捉えられている人は、日本にどのくらいいるでしょうか。飽食の時代を生きている自分たちですから、耳にしたことはあってもそれを自分ごとと捉えるのには無理があるのかもしれません。

 この記事では、2012年からココピート(ヤシガラ培土)の製造販売を手がけ、持続可能な農業への変革を啓蒙推進している弊社:ココカラ合同会社の代表の2人、日本にいる大原秀基とインドにいるアルール・ムルガンの視点から、フードセキュリティーを脅かすトラディッショナルな農業について言及していきます。

語り手は前半は大原(日本在住)、後半はムルガン(現在はインド在住)からの発信です。

高品質のココピートで、世界の農業を変える


代表の大原秀基


 ココカラ合同会社・代表の大原秀基です。弊社は、南インドの自社工場で開発製造した高品質なココピート(ヤシガラ培土)製品を、施設栽培農家に提供しています。

2012年に日本のマーケットに参入し、その流れから2016年にはココカラ合同会社を設立。これを足掛かりに日本の農業変革へとつなげたいとビジネス展開を進めてまいりました。今後は世界での展開も視野に入れ、明年2025年にはECでも施設栽培農業で盛り上がっているスペインでの展示会の出展を決め、地球上の農業に貢献する道をひた走っているところです。

 弊社のもう1人の創業者であるインド人の物理学者・ムルガンと知り合ったのは、2012年でした。当時、僕は雇用を作り出すのが得意な人材育成を手がける企業にいて、彼は日本の企業で磁性流体に関する研究開発を行う職に就いていました。友人を介して出会った僕らは、それ以降、毎週土曜日といえば千葉の妙典にあるカフェでコーヒーをすすりながら、持ち合わせている知識や知恵、想いや意見を交換し、互いが気になることなどを語り合うなかで、話題は気候変動から地球を取り巻く環境問題にまで及びました。彼の故郷・インドでは、人口の70%を占める人たちが農業に従事していて、その多くが貧困層であることや、彼らの雇用状況についてなども知ることになり、世界の食料不足にまつわる諸問題についても考察するようになったのです。

ココピートを産業革命の火種に

ココピートの原料となるヤシガラ(インドの自社工場にて)


 僕らはこの対話を続けていくなかで、このような現状を打破するための最短距離は、農業改革にあるのではないか、と気づきました。自分たちのできることでまずは小さく火種を起こし、それを第4次産業革命につなげて、やがて世界にイノベーションを起こすまでになるのではと希望的観測が見えてきたのです。

 世界の国々がそれぞれが国策として産業革命に取り組んでいかなければ、地球に差し迫る諸問題の解決やSDGsなど実現できるはずもありません。スピード感を持って農業変革の大きな火種になるものは何か、と模索していくうちに、僕らはココピートにたどり着いたのです。

 ムルガンの故郷であるインドでいえば、ココナッツやカシューナッツの木も多く、農業人口も多いです。GDP(国内総生産)の15%を占めるのが農業だといわれます。だから雇用問題で揺れるインドも、変革の上に取り組んでいく農業となれば、家族一緒に安心して仕事ができますし、雇用が生まれてお金にもなる。それにフードセキュリティの問題を解決する環境制御型農業(CEA)を考えるとき、ココピートは有用ですから、ビジネスに向いていると確信しました。

いまだトラディショナルな農業に準じている日本
 日本の農業の問題点は、伝統的な農業にいまだ準じていることです。弥生時代に始まった農業スタイルは、時代にともない徐々に転換してはいるものの、その製法には父から子へと代々引き継がれる「経験に基づく農業技術」が核心にあります。それがあるからこそ、美味しい作物を作る日本の農業環境と技術を維持できたのです。しかし残念なことに、先代から受け継ぐ「勘」や「経験」に頼る農業はマニュアル化できるものではなく、その年の気候によって収量に増減が生じてしまえば、農作物の価格を安定もままなりません。日本は農協(JA)を通すことで価格の安定を図ってきましたが、その苦労に伴った利益が得られないことなどから生じる不安定さは、農業から若者が離れてしまう理由の一つにもなっています。特に近年に見る気候変動による豪雨や洪水、温暖化による影響は否めません。家庭の食卓に上がる米の価格も、2024年でいえば前年度が不作だったことから明らかに価格が上昇し、受け取る側の消費者にとっても生活に響く痛手となっています。


テクノロジーで次世代に続く農業を

ココカラ製品が導入されている農業の現場

 これからは未来のために、日本に続くトラディッショナルな農業を土台に次世代に残せるものへと変革していかなくてはなりません。それにはテクノロジーを駆使した農業サポートがカギになります。農業を少しだけラクにして、これまで同様もしくはそれ以上に美味しい作物の収量をあげていくテクノロジーです。

 この先に残すべき農法として、化学的に合成された肥料や農薬は使用せず、有機肥料や天然由来の農薬を使用した有機栽培の道があることもわかっていますが、農家の立場に立ってみると非常に悩ましい。それだけ手間も費用も時間もかかりますから一筋縄ではいかないからです。それよりも最新のテクノロジーで農業をサポートした方が、次世代に残せる農業にすぐに転換できる可能性があるし、これまで培った日本の伝統的農業のノウハウが活かされていくのではないか、と考えています。


ココピートで農作業を進化させた「震災の翌年に一粒1000円のイチゴ」

ココカラ製品を導入いただいている株式会社GRA様


 2011年に日本で起きた東日本大震災のとき、宮城県仙台市から沿岸で続くいちごの産地・山元町の農家は、津波による塩害に遭いました。これを聞いて故郷名産のイチゴで復興を支援をしたいと考えた山元町出身の岩佐さんは、農業法人「株式会社GRA」を設立、弊社でこのときすでに研究開発を進めていたココピートのサンプルを提供したところ、彼らの手がける復興プロジェクトに採用されました。株式会社GRAでは、ココピートを活用した高設式養液栽培システムを構築してITを活用した管理システムを導入に成功し、イチゴ生産の効率化、品質の安定化を実現。震災から1年で山元町のイチゴ農家は震災前よりも大きな復興を遂げることができたのです。翌年の12月には東京の百貨店で1粒1000円のイチゴを出荷したことでも話題になり、大きくメディアでも取り上げられました。

 イチゴ農家の復興で、山元町の人々の平均年収は、震災前の190万円から270万円にあがったのです。その後、山元町には株式会社GRAの他にも農業法人がいくつもできたことによって、働く場所を創出することにも成功、雇用も上積みされていきます。町に働き口があれば、若者たちが町に戻ってきて就職してくれますから、就農者の年齢層は若返りました。日本の農業従事者の平均年齢は70代と言われますが、「株式会社GRA」の正社員の多くは20〜40代と聞いています。

参考:https://swri.jp/article/964 「最先端技術で栽培したイチゴを宮城から世界へ」


 この事例から見てもわかるように、トラディッショナルな農業からの転換は、農業を持続可能なものにする可能性はすでに見出されています。農業経験がある人であれば、作物栽培についてすでに知っていることばかりですし、システム化するのにも無理がありません。これまでやっていた農業を土台に、それを使って少し農業をラクにできるようによりよく変革していくわけですから取りかかりやすいわけです。それに加えて、収量を安定的に確実なものとしていけるのですから、うまくいけば僕らが付けた火種が大きく育っていく可能性は大いにあります。インドでも、そして世界でも、この事例同様にココピートを火種にして農業にイノベーションを起こせる可能性は十分にあるのです。
 

フードセキュリティはリスクにさらされている


インド法人代表のムルガン


 ココカラ・インド法人、代表のムルガンです。

   今、リスクにさらされているフードセキュリティですが、未来にはこのリスクが、ハイリスクになる可能性が極めて高いことをご存知でしょうか。

 フードセキュリティとは、国連食糧農業機関(FAO)の定義から引用すると「すべての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的に入手可能である状態」を指します。この定義は、食料の行き渡る量が十分であれば良い、というだけの定義にとどまらず、食料そのものの質や安全性、そしてそれを継続的に確保できる物理的、経済的な側面も含まれ、持続できる可能性も示唆されています。

 お分かりのように、現時点にあっても気候変動からくる豪雨や洪水、干魃(かんばつ)温暖化の影響のほかにもフードセキュリティが脅かされている要因はあります。水の不足もその一つです。インドやパキスタン、アメリカ西部では、地下水が灌漑用水として過剰に利用されてきたために、それが枯渇しつつある。また産業の発達によって工場用水や化学肥料が流出し、河川や湖沼の水質が悪化して農業用水として使えなくなるような事態も起きています。
 また、日本は少子高齢化ですが、ご存知のように世界人口は統計でこの先60億~100億人に膨れ上がることがわかっています。暮らしのために今も農業用地や水資源が転用されて都市化が進められていますが、今後はますますこれが激化することも想定されるわけです。人口が増加すれば、必然的に食料も確保しなければなりません。けれどここでも皮肉なことに、これまで収量を上げるための工夫として農薬を使っていた土地が痩せてしまったり、農薬に対して抵抗力をつけた虫やバクテリアが進化してしまったりして、太刀打ちできないという現象も起きています。


フードセキュリティこそ、サスティナブルに


 戦争や紛争など政治的不安定さも、世界が食糧難に陥る要因です。近年では、ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナの紛争、2021年の軍事侵攻以来のミヤンマーの内戦、エチオピアのティグレ紛争などは食料生産や流通、難民の飢餓の問題など、人道的にも重要な問題をはらんでいます。

 このような現状を知ると今のリスクは今後どんどんハイリスクになり、フードセキュリティの持続どころか、持続不可能にならざる得ない。これが現状です。こうしたことは、次世代のために私たちが意識を持って立ち向かっていくべき大きな課題であることを自覚しなければなりません。

 フードセキュリティこそ、サスティナブルでなければならない。弊社では、地球上の人々が、食べることに不安を感じない世の中になる日を目指し、歩みを進めています。
 

参考記事1:https://rief-jp.org/ct12/66837 「地下水が危機、今世紀半ば18億人に打撃。過剰な地下水利用が水資源の危機を招く」
参考記事2:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7287/ 「地下水の枯渇、次世代に水は残せるか」
参考記事3:https://toda.org/jp/global-outlook/five-conflicts-to-keep-an-eye-on-in-2024.html  「2024年に注視するべき五つの紛争」


地球上のすべての人々のために”ココカラ”ができること


 私が研究職から転じ、2016年に大原と一緒にココカラ合同会社を立ち上げたのは、大切な人たちのために、自分のできることで貢献できることがもしあるのであれば、それをやってみたいと思ったからです。

 今の日本では、食物が行き届かないようなことなどほぼありませんから、食料不足のなかで暮らす自分を想像できないのも無理もありません。しかし、日本は災害の多い国です。もし仮に今、災害が起きて、手元にある食べ物だけで数日を過ごすことになるとしたら、どうでしょうか。そのコトの重大さに気がつくはずです。おそらく私たちは食べるものがなくなる不安から、手元にある食べ物を数日に分けて少量づつ食べようとしたり、近くのコンビニで今手に入るものはすべて買い込んでおこうと考えたりするに違いありません。 

 災害によって掛かる究極のストレスも、温かいおにぎりを口にできたそのひとときだけはホッとして氷解すると聞いたことがあります。私が農業や食料について考えるようになり、研究・開発を続けているのは、何ごとにも負けずに生きぬく人間の強さと、それを感じて互いを励まし合っていける生命の豊かさを、これからも地球上のあらゆる人たちの間で保持し続けていきたいからです。

 たしかに災害時は、iPhoneは心強い助けになります。でもその充電がなくなりiPhoneが使えなくなっても、食物が不足した時の影響と比較したら、その比になりません。それが長期に及べば、私たちの命も存えることはできない。だからフードセキュリティこそ、最新のテクノロジーで臨むべき課題なのです。

 
ココカラが実現する「すべての人々にとって住みやすい世界」とは

南インドにあるココカラの自社工場


 弊社インド法人で生産しているココピートは、南インド産ヤシガラを原料に生産しています。これにより弊社インド法人では、現地雇用を創出できるようになりました。インド人にとってヤシガラはとても身近なもので、仕事としても人々は受け入れやすい職種なのだと思います。インド工場での採用は最初は3人からのスタートでしたが、現在(2024年)は15人。工場以外のところでココピートに関わる仕事に従事する人は、すでに100人程になっています。これまで1日1食しか食べられなかったのが1日2食食べられるまでになったと聞いたときには、本気で嬉しく思いました。

 このように弊社はココピートの開発販売を手掛けることで、持続可能な農業の一翼を担うべく、インドでは雇用の創出を実現し、日本では最新技術を取り入れた農業転換への布石を打ってきました。これからも環境に配慮しながら、実直に実務を進めて組織を成長させていきます。社会から疎外された人たちまでも生活に変化をもたらし、地球上のすべての人々にとって住みやすい世界を実現するビジネスモデルの構築に力を注いでいきます。

【取材執筆/遠藤美華 】

遠藤 美華(えんどう みか) 2014年よりプロフィールライターとしてライター業をスタート。2021年から書籍のライティング。ブックライティング実績は8冊(2024年7月現在)。取材に基づいたライティングが得意。
https://endomika.com



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?