書評/『人類の深奥に秘められた記憶』
激情と冷徹のあいだで巧みにバランスを取る作家、という輪郭が、より鮮明になった作品だ。
本書以外で唯一邦訳の出ている『純粋な人間たち』を読んだときにも、明晰な〈眼〉と恐れを知らない〈声〉に驚かされたが、主題が〈文学〉そのものにシフトされた分、より作者の資質が直截に伝わる小説だった。資質、というより、執念といった方が近いかもしれない。
「おまえ自身の伝統を作り出せ、おまえの文学史を創設しろ、おまえに固有の形式を発見しろ、それをおまえのいる空間で試してみろ、おまえの深い想像力を