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リンクスランドをめぐる冒険 Vol.71 これが最後のリンクスコース Lundin Golf Club

前回のあらすじ
黄金色に輝く早朝のオールド・コースが私に見せたのは、私のゴルフの膨大な記憶。それらが散らばったピースのように頭の中に残った…。

スコットランドらしいゴルフ日和

無性にゴルフがしたくなった。
それもリンクス・コースで。

今日中にエジンバラへ戻り、明日の朝には空港へ行かなければならない。普段の海外出張だったら前日は余裕を持って何もしないのが私の慣習だった。
それでも、ゴルフがしたかった。

とくにセント・アンドリュース・リンクスでしたいとは思わなかった。
私はバスローブのままPCを開き、近隣のリンクス・コースを探した。
ファイフ地方にはゴルフクラブがいくつもある。
その中で、比較的リーズナブルなリンクス・コースを調べていたらLundin Golf Club(ランディン・ゴルフ・クラブ)が目に止まった。
ビジターの通常料金は£150だが、13:30を過ぎると£120まで下がる(なお、2025年はやや値上がりしており、通常£160、13:30以降は£140になっていた)。
これまでのローカルコースに比べるとやや高いが、ファイフ地方のゴルフコースは押し並べて高め。ここから13マイル弱(20km強)、約30分程度で着くことを考えたら許容範囲だろう。
午後のティータイムには空きがあったので、すぐに予約した。
ゆっくりチェックアウトしても十分、間に合う。
予約を完了させると、妙に急いていたゴルフへの気持ちが空腹に向かった。
昨夜、インスタント麺しか喰っていない。
食欲よりゴルフのプレー欲が勝っていた自分を、ちょっとだけ褒めた。

ランディン・ゴルフ・クラブは海岸まで続くリンクスの傾斜地を利用してデザインされたコース。全長はイエローティで6,138ヤードPar71。ティーマークは合計4つもあるので、自分の飛距離に合わせて細かく選べる。

天気は前日と変わって晴れ。
綿を千切ったような白い雲が浮かんでいるが、空を覆うようなことはなく、青空が垣間見える。
青天白日の空も好きだが、ここスコットランドでは空に漂う雲があった方が広さや高さが感じられる。
何度も、スコットランドで体感した空。
ふと、雲外蒼空、なんて言葉が浮かんだ。

1番ホールのティーイングエリアから望むリンクス・コース特有の天気と光景

旅、まだ終わらず

ランディン・ゴルフ・クラブの創設は1868年。
スコットランド全体でゴルフコースが多く作られた時期だが、その中では比較的古い方だ。創設当時の古い写真を見ると、コースを横切るように線路があり、レンガ作りの鉄道橋もある。現在、鉄道は廃線となったが追加された9ホールとの間に線路が残っており、当時の面影を感じることができる。
コースのメンテナンスはしっかり行われているが、その地形は開設当時とほとんど変わっていないという。
確かに、マフリハニッシュほどではないが砂丘のコブが多く、深いフェスキューやハリエニシダのラフ、小川もホールをまたいで流れている。オールド・コースで行われる全英オープンの最終予選会場に選ばれるというのも、納得の話。

プロショップに行って予約していたことを告げると、愛想の良いスタッフがすぐにスタートできることを教えてくれた。それから、タグやティーペグ(その中には、
頭に消しゴムがついた本当の鉛筆も入っていた!)などいろいろなスーベニアをくれた。
この価格帯になるとヤーデージブックを用意してあるところが多いが、ここのヤーデージブックは他のコースよりも使いやすそうだ。

ノベルティ・グッズってなんでこう、ワクワクさせるんだろう?


もちろん、ディボットツールも購入。栓抜きがついていたのはここだけ。問題は王冠の着いたボトルがどれだけあるのか、ということ。


1番ホール403ヤードPar4はかなり左寄りのティーイングエリアからファーストショットを打つホール。フェアウェイは広く見えるが右に傾斜しているので、センターに打つと転がって右のポットバンカーの餌食になる。
かといって、あまり左を狙うと砂浜との堺にあるブッシュにつかまる。
このブッシュが意外と浅く、私は第1打目からロストボールの憂き目に遭った。

基本的な地形は開設当時のまま、と言うだけあってハザードが予期せぬところにある。最初からホールをデザインするコースでは考えられないことだ。たぶん、コブや小川の位置から逆算してティーイングエリアやグリーンの位置を決めたのだろう。
ホールが進むごとに段々と高くなり、コース全体とフォース湾がよく見える。
対岸との間に小さく見えるのは北海油田のプラットフォームだ。
映像では何度も見たことはあるが、実際に見るのは初めて。
ちょっと感動した。

海に浮かぶ小さな黒い点がプラットフォーム

スコットランドのゴルフコースをめぐる1人旅、最後にこのコースを選んで本当に良かった。
雨は降らず、風も吹かず、汗をかくほど暑くはないし、肌を焦がすほどの日差しもない。
日本にいた時でさえ、年に数回あるか、というほどのゴルフ日和だ。
加えて、スコットランド特有の、本格的なリンクス・コース。
私は夢中になってプレーした。

いったい、セント・アンドリュースの3日間はなんだったんだろう。
時折、今日とのあまりの違いに疑問を感じる。
もちろん、これも今までと同じように、その3日間と今日の違いも、ただの偶然に過ぎない。
違っているのは、今朝、強烈な光とともに頭の中に入ってきた大量の記憶のピースがあること。
まだ散らばったままだが、1つも欠けていない。

ここが、今回の旅の、最後のゴルフコース。
けれど、旅が本当に終わるのは散らばったピースをはめ込んで絵を完成させた時だ。

まだ、旅は終わらない。
リンクスランドをめぐる冒険は続く。

最終18番ホール、クラブハウスに向かって打ち上げるショットを放ちながら、私は
思った。

Play Will Continue!





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