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リンクスランドをめぐる冒険 Vol.58 たまには観光 【ファルカーク・ホイール】

前回のあらすじ
スコットランドのローカルコースを回る65歳ライターの1人旅、終盤に差し掛かるとどこかマンネリ化を感じ、ゴルフから離れて観光をしてみることにした。最初に行ったのはストーンヘブン・ゴルフ・クラブからわずかの距離のダノター城。次に向かうのは…。

落差25mの運河をつなぐ巨大装置

スコットランドで観光するなら、ぜひ行ってみたいところがあった。

ファルカーク・ホイールだ。

場所はグラスゴーの北東、5kmほどのところにある。

説明がいささか難しい。
カンタンに言うと回転型ボートリフト(Rotating boat Lift)。
落差のある運河と運河の間を關(せき)門で水を止めるのではなく、水面にあるボートを水の入ったゴンドラに乗せ、水平を保ちながら回転させて次の運河に下ろす装置。
その落差、なんと24m。
およそビルの8階分に相当するという。

この装置はフォース・アンド・クライド運河とユニオン運河をつないでいる。完成する前までは11の關門があったという。

説明するより見た方が早い。
動画だと5分ほどかかるので画像でダイジェスト。

これがデフォルト状態。左奥が運河でコンクリート精の橋脚に支えられた人工運河を船が通り、ケーソン(船と水を入れるゴンドラ部分)まで行くと…。


ケーソンがゆっくりと回転する。


船が乗っているのは右側。ここまでで約2分。


着水。ここまで約3分。


これで一連の稼働が終了。約5分。上のケーソンには次の船が入る準備ができている。


着水後はこんな感じで出航。

斬新な発想と芸術的視点のデザイン

水と船が入った状態のケーソンの重量は約600トン。
反対側の水だけ入ったケーソンも同重量。
これはアルキメデスの原理を思い出していただきたい。
水中にある物体は、その物体が押しのけた重量分だけ軽くなる、という定義。
船が入った分だけ水が押し出されるので同じ重量を維持するというわけ。
回転運動機関で左右が同じ重量であることはとても重要なこと。
重量バランスが崩れると機械に大きな負担がかかり、故障や事故につながりやすい。
じつに単純な理論だが、これだけで2つのケーソンの重量、水位を同じにできるという発想がすごい。
ケーソンを動かすモーターは22.5キロワットの電気モーター、10基の水力モーター。電力は1.5Kw/hだけ。
やかんの水8個分を沸かすほどのエネルギーしか必要としていない。
遊星歯車機構(車のオートマチックギアみたいなもの)を使っているが、工科系ってわけではないので興味を持たれた方はネットで調べていただきたい。日本語でも詳しく解説しているサイトがある。

橋脚に遊星歯車機構の一部が見えている。

ちなみにホイール前後の形状はケルトの双頭斧からインスピレーションを得たという。機能性だけでなく芸術的形状も取り入れているのが特徴だ。

ファルカーク・ホイールを最初に見たのはナショジオだかディスカバリーだかのTV番組。巨大建築物のシリーズの1本だったと思う。
すでにスコットランド行きが決まっていたので、スコットランドのキーワードが含まれている番組を片っ端から見ていた時だ。

その巨大さと発想、そして機械部分のシンプルだけれど理に適った構造がとても面白いと感じた。
とはいえ、ファルカークの町がどこにあるかも分からず、実際に見られるとはあまり思っていなかっただけに、実物を見た時には感慨深いものがあった。

正直、城よりこっちの方が興味深いのだ、私は。

…スコットランドに来て見たがるのって、橋だの運河だの、水回りばっかりだな。

これも観光写真っぽい。左側の建物はビジターセンター。

日本へ帰ってきて、ファルカーク・ホイールを調べていたら、半径5km以内に4つもゴルフコースがあった。
なぜ立ち寄らなかったんだろう?…よっぽどゴルフと離れたかったのか?

そろそろゴルフに戻りたくなってきた。
さあ、冒険の最終目的地、セント・アンドリュースに行こう。

Play Will Continue!





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