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リンクスランドをめぐる冒険Vol.41 £75万のリンクスコース スペイベイ・ゴルフ・クラブ Part.1

前回の続き
65歳ライターのスコットランド・ゴルフ1人旅、前回は英国メインランドの最北端、サーソー・ゴルフ・クラブでプレー。最初こそパークランド・スタイルのコースに拍子抜けしたものの、ここが地元を大切にした地元民密着型のコースと分かって、130年以上も続いていることが理解できた。メンバーとの交流がなかったことは残念だったが、北端地域を後にして次に向かったのはスペイベイ・ゴルフ・クラブ。

トーナメントコースに必要な条件


ゴルフのトーナメントを開催するためにはコースにどのような条件が求められるだろうか?

距離?
もちろん最低でも6,500ヤードは必要だろう。
Parの数?
それはコースレイアウトにも関係してくるので70とか71でも構わない。72である必要はない。
コースの難易度?
基本的な設計さえトーナメントに向いていれば、難易度はトーナメントの規模に合わせていくらでも難しくできる。
セント・アンドリュースのオールドコースは普段、H.C.36のプレーヤーでも回れるセッティングにしてあるし、他の名コースと呼ばれるところも概ね、普段から難しくしているわけではない(トーナメント仕様にしたらプレーが詰まって時間ばかりかかって効率が悪くなってしまうだろう)。

コース自体のことを言えば、いわゆるチャンピオンコースならトーナメントは開催できるのだ。
むしろ、開催に必要なのはコース以外の条件。
もっとも優先されるのは集客への対応だ。
これはトーナメントの規模が大きくなるほど重要になる。
全英オープン・クラスになると世界中から人が集まってくるので空港から遠い場所では開催できない。
その大勢に対応する宿泊施設も必要だろう。
またコースへのアクセスが良いことも必須条件。
さらに広大な駐車場、来客のための飲食施設の設置場所、それから観客スタンドのスペースにTV中継用の重機確保…。
これ以外にも開催するための条件が山ほどある。
ロイヤル・ドーノッホ(Royal Dornch:日本語表記はドーノックの方が一般的)が北の聖地とか北の至宝、などと呼ばれながらも全英オープン開催地とならないのは、コースが原因ではなく、それ以外の要因のためだ。

スペイベイに向かう途中、立ち寄ったロイヤル・ドーノッホ。1番ホールでプレーを待つ人達。もちろん、キャディ付き。確かにドーノッホの町は小さく、道も狭い。

長々とトーナメント開催におけるコースの条件を書いたのは、次に向かうスペイベイ・ゴルフ・クラブがもしかしたら将来、一流のトーナメントが開催できるチャンピオン・コースに変貌する可能性があるからだ。

海岸線沿いに広がるバック9

行程のちょうど中間地点にあるのがロイヤル・ドーノッホ(地図表記はドーノック)

サーソーの町を南下、以前プレーしたホープマン・ゴルフ・クラブの経路を通り過ぎ(この時は本当に立ち寄ってもう1ラウンドしようかと迷った)、スペイ湾に到着。
濃い茶色と白をアクセントとした木造のクラブハウスの前には、プレーを終えた人たちのキャディバッグとトロリーが連なっていた。
クラブハウスの中は薄暗く、人のいる気配がなかった。
グリーンフィは例によって投函システム。
ただし、今回はある程度予測していたので、ATMで現金を下ろしておいた。£55を入れ、名前をノートとタグに記入、キャディバッグにタグをくくりつけてトロリーに乗せた。

煙突があるクラブハウス。中を覗いたわけではないが、きっとロビーに暖炉があって、そこを囲むようにしてスコッチを飲みながらメンバー同士が談笑している光景が目に浮かぶ。

公式HPによると、スペイベイ・ゴルフ・クラブは世界で247しかない本当のリンクスコースの1つだという。
本当のリンクスコースだからってなんなのよ?と思いたくなるが、確かにマレー海岸沿いのバック9のいくつかのホールはリンクスらしい雰囲気を味わえる。
公式HPで見た時、かなり本格的なリンクスコースに思えたので、スコットランド1人旅の後半戦をスタートさせるコースに選んだ。

全長はイエローティで5,726ヤード、Par70。スロープレーティング118(イエローティ)。リンクスコースとしては比較的易しい方だろう。

私がプレーした日は気候が穏やかで風は幾分吹いていたものの、薄く掃いたような雲の間から青空も見えていた。
長く続く海岸線は引き潮の時に遠浅の砂地が姿を見せるが、浜はほとんど大小の石で埋め尽くされている。満潮の時に砂が洗い流され、石が露出したのだろう。
遥か遠くから打ち寄せる小さな波高は規則的な幅を保って幾重にも続き、やがて浜で静かな飛沫を立てて形を失う。

もし、ゴルフをしていなかったら、この浜に座ってずっと眺めていたい。
そんな光景だ。

地形は海に向かってやや傾斜しているのでフロント9はバック9より高い位置にある。したがって内陸部とはいえフロント9からも海を望めるホールがある。
固い砂丘とコブだらけの難しいホールがあるかと思えば、ずっと真っ直ぐ、しかもフラットなフェアウェイでストレスを感じさせないホールもある。本来なら、マフリハニッシュに匹敵するほどのリンクスコースに仕上げることもできたはずだ。

けれど、なぜか心躍るものがなかった。
それはたぶん、メンテナンスの不足のせいだろう。
ティーイングエリアにほとんど芝がないホールがあったり、ところどころフェスキューが伸び放題だったり、ラフとフェアウェイの刈高がバラバラだったり、ティーイングエリアから海岸線を覗いたらゴミだらけだったり…。
素地がいいだけに、メンテナンス不足はよけいに目立つ。
もったいないな、というのが正直な感想だった。

ここが経営難で売りに出されている、というのも納得できる。
それが、私がここのコースを選んだもうひとつの理由だった。

ここから見た景色はホント、きれいだったんだけれど。ちょっと石垣を乗り越えて下を見たら…

続く

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