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夏とお盆と怪談と

梅雨明けとともに暑い日差しと真っ青な夏空が帰ってきました。
さあ、夏休みはすぐそこです。
大人になって長い休みが取れなくなればなるほど、懐かしく思い出されるのは子どもの頃の夏休み。自由でとても時間がゆっくりと流れていました。
皆さんはどの様な夏休みでしたでしょうか。
世代によって頭に浮かぶものは様々に違うと思いますが、夏には思い出として深く残るものがたくさんあるものです。
私にもたくさんの思い出がありますが、その中のひとつをお話ししてみようと思います。
ここからのお話は昭和40年代の夏休みのお話です。

怖〜いお盆のお話

長い夏休みの中には毎年「お盆」があります。(私の地域では旧盆)
それは子どもながらに意味はわからないけれど、何か特別な感じのする数日間でありました。

私の生まれた地域では、家の門の前に濡らした土で30㎝×30㎝、高さ10㎝ほどの土台の様なものを作り、その上にナスときゅうりを馬や牛にたとえてオガラの足をつけて乗せます。これは先祖の魂が家に帰ってくる乗り物で、子孫の焚く迎え火を目印にお帰りになると言われているものです。

この土でできた土台の様なものを作るのは、どこの家でも子どもの仕事でした。
母に暗くなる前に作り終わるように言われ、姉に仕上げをしてもらい完成です。
そして暗くなる頃、その土台の前で母と一緒にオガラという細い麻の枝を小さくして燃やし、お線香をつけます。するとご先祖様方がお家に入られると言われています。

家の中の仏壇の前にはお盆のしつらえがしてあり、盆灯篭が暗い仏間にぼんやりと灯ると、何だか少し怖い気持ちになったものでした。特に夕方のお線香の時には、亡くなった祖母の写真、祖父の写真、大叔父さんの写真、それらがみんな自分たちを見ているようで、姉も私もお位牌にいつもより短く手を合わせて、先を争うようにササっと茶の間にもどっていました。

お迎えも夕食も済ませてお風呂から上がる時刻になると、TVではよく夏の風物詩「怪談」が放映されていました。
この時代はスマホやPC、Netflixなども有りません。家族そろって茶の間のTVの前に座り、みんなで一緒に番組を見たものでした。怖い話の時、子どもはいつも母の背後から隠れながらTVを見ていました。

怪談番組は、母の若い頃に劇場で上映されていた怪談映画をTVで放映するというかたちでした。三味線だか琵琶の音色でかき鳴らすベンベンベンが始まると、もうその音だけですごく怖かったのを覚えています。
中でも「東海道四谷怪談」は怖かった。
いかに怖かったかは、書くことが怖くて書けません。

有名なもので記憶にあるのは次の作品ですが、皆さんはご存知でしょうか。
当時放送されていたのは「東海道 四谷怪談」「番町皿屋敷」「怪談 累ヶ淵(かさねがふち)」「牡丹灯籠」など、どれも時代劇で大映、東宝などが手がけた見応えある映画作品です。
鶴屋南北の原作の「東海道四谷怪談」だけでも充分怖いですが、他の話の中には実話と伝えられているものもある。とわかれば尚更怖くなります。
本人のお墓まであれば完璧。江戸時代版の「ほん怖」といったものだったのでしょう。

「怪談」が教えてくれるもの

ここで言う「怪談」は「心霊番組」とは違います。
「怪談」には起承転結があり、起の部分の間違った行いや考え方がどの様な状況を踏んで恐ろしい結末になるのか、そこまでの行程が実に細かく描かれております。
どれも人の世にありがちなエピソードが起の部分にはあり、それを受け入れてしまうか、拒絶するかで人生がこんなにも大きく変わってしまうということを、見終わった時にもう一度考えたくなるのです。

近頃はまったくこの種の番組が放送されなくなってしまいましたが(今の時代では描写がお子さまには推奨できないものもあるかも知れません)、私たちが見ていた「怪談」には人の裏切りや恐ろしい悪意がどのような結末を呼ぶのか。という教えがありました。

自分の欲のために人をおとしいれたり亡き者にしても絶対に幸せになれない事、悪意を持って人を傷つけるとその報いは必ずや自分に返ってくる事、そこには小学生でもわかる道徳の尊さが反面教師として描かれていたのでした。
「怪談」をひとつ見るたびに、あんなに恐ろしい目に遭うのなら私絶対いい子になる!と私も姉も心に誓い、怪談を見た夜は必ずと言って良いほどケンカもせずに仲良く眠ったものです。

怖がりな私は今でも、いい子で生きていなきゃと信じています。
そして人に感謝して誠実に毎日を生きたいと心から願ってやみません。
これからもご先祖さまに感謝してお盆を迎えたいと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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