ニートな吸血鬼は恋をする 第三章

どうも、前書きです。
前回まで、明らかに文量が多すぎたので、大幅に削減しました。
少しでも読みやすくなっていたら嬉しいです。

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愛人はフリーランスとして、個人で恋愛警官をやっている。
だが、世の大半の恋愛警官は、事務所に所属している。
真紀もその一人だ。
ここは特殊犯罪対策事務所『ラヴァーズ』に併設されている恋愛警官専用のトレーニング施設――ジムだ。恋愛警官の資格を持つ者ならば、誰でも無料で利用できる。

「ふんぬっ! う、おぉおお……!」

重量挙げ、ベンチプレス、アームカール、レッグプレス、ランニングマシン。様々なトレーニングマシンを利用して、体の各部位を鍛え上げていく愛人。しかし愛人が使うマシンの強さは、あくまで常人用だった。

「ふっ! ふっ!」

例えば重量挙げ。
 人体の強度からして、人間の限界は五百キロだ。限界でだ。
百八十センチを超える大柄な愛人でさえ、百二十キロがギリギリ持ち上がるくらいだというのに、真紀があげているのは六百キロ。それを一呼吸で上下させる。

「はぁ……はぁ……相変わらず、化け物じみた心素だね……」

ランニングマシンで走り込みをする愛人は、そんな真紀を見てたまらず愚痴ってしまう。心素はありとあらゆる身体能力を向上させることが出来る。
 しかし灯の暴走のように、やみくもに筋力を強化しても肉体は耐えられない。
 だが修練を重ねれば、心素を骨や表皮に通わせて肉体の強度そのものを底上げすることが出来る。それがプロの恋愛警官の代表的な技能――【心装】という技術だ。

「……ふぅ……」

トレーニングを終えてシャワーを浴びた愛人は、ジムを出た。

「お疲れ様」

そこへ、先に出て待っていた真紀が声を掛ける。
 へとへとな愛人と違って、トレーニングの後だというのに、真紀は平気そうだ。
心素の差は体力にも影響するのだ。

「あぁ……それより、準備はいいかい……?」
「うん」

真紀はそういうが、髪はぼさぼさだし、服はいつもの制服だった。

「……まぁいいや」

愛人は仕方ないと割り切って、真紀と歩き出した。
向かったのは、灯のマンションだ。
インターホンで灯を呼び出す。

「こんにちは、神崎さん。約束通り、来たよ」
「えぇ、すぐに降りるわ」

程なくして、灯は出てきた。

「待たせたわね。行きましょうか……って」

愛人は真紀を軽く紹介する。

「それと……この子が、前に言っていた師子王真紀ちゃん」
「……それが、あなたが紹介したい人……?」
「……」

初対面の二人は、随分と気まずそうだった。
しかし愛人にはその理由がわからず、首を傾げるだけだ。

「あなたねぇ……知らないの? 私、この子と同じクラスよ……?」
「へぇ。そうなんだ。じゃあ、もう友達なのかな……?」

愛人はわざと答えの分かっている質問をする。

「いえ、そう言うわけじゃないけど……」
「じゃあ、問題ないね……!」

愛人はにっこりと笑う。

「はぁ……まぁいいわ……」
「じゃあ真紀ちゃん、早速準備して」
「ん」

真紀は軽く屈伸を始める。

「え、何……?」
「神崎さん。ちょっと乱暴だけど、仲良くなるにはこれが一番だと思うから」
「え、うわっ!?」

訳が分からず困惑する灯を、真紀は後ろから担ぎ上げた。

「ちょっ!? 何するのよっ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてよ」
「はぁ!? 恥ずかしいのよ! 降ろしなさいっ!」
「……」

真紀は必死な灯に、どうするべきかと愛人に視線で問う。

「……いいから」

愛人は短くそう言って、真紀と手を握った。

「ちょ、何を――」
「じゃ、まずはアイスクリームでも食べに行こうか……!」
「ん!」

灯が何事かを喚く中、紅く光り始めた真紀は。軽く助走をつけて跳躍する。
 ダンッ

「きゃああああああ!?」
「あははははは!」

真紀の踏み込みによって、地面に亀裂を作りながら三人はぶっ飛んでいく。
 三人は風を切りながら凄まじい速度で空中を駆け抜ける。

「……って落ちる落ちる!?」

当然、凄まじい速度で落ちていく。
真紀は危なげもなく着地しする。
愛人は何とか足を開き、膝を曲げて着地する。

「ぐえっ」

着地と同時に、灯は真紀の肩で腹に衝撃を受ける。

「……ってうわっ!?」

しかし繋がれた灯の手は再び動き出す。
愛人が着地硬直によって動けないでいる中、真紀はさらに跳躍を繰り返す。

「うわわわ……な、なんなのよ!?」

激流のように流れる景色の中、灯は叫ぶ。

「あはははは! 面白いでしょ? ほら、もう着くよ」
 愛人は笑いながら、指を指して目的の店を灯に伝える。

「灯をお願い」
「ん」

真紀は灯をお姫様抱っこしながら、ふわりと着地する。

「……よっ」

愛人も安全に着地する。
 とはいえ、すぐに灯を降ろして歩き始める真紀と違って、やはり愛人は着地硬直によって少し動けなくなってしまう。

「……はぁ……な、なんなのよ!?」

灯は降ろされると、安堵と共に声を荒げた。

「すごいでしょ? 真紀ちゃんは生まれつきすごく心素量が多いんだ。だから三人一緒でもすぐに遠くまで行けるんだ」

足のしびれが引いた愛人が、ゆっくりと歩き始めながらのんきに解説する。

「そうじゃなくて! 何で飛んだのよっ!?」
「いやまぁ……面白いから?」
「超怖かったわよ! まったく!」

口調こそ怒っているようだが、意外にも灯はまるで派手なアトラクションを体験したかのような興奮冷めやらぬ様子であった。
 そんな灯に、愛人は人知れずほくそ笑んだ。

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