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【既存手法との比較】機械学習による売上予測の有用性

チェーンストア企業において、新規出店の成功が企業成長を左右するカギとなっています。
そのため、各企業においては、様々な手法で新規出店時の売上予測を行い、成功確率を高めるため、日々の業務に取り組まれていることと思います。

売上予測の主な手法として、国勢調査データや顧客データ、競合データを利用して出店候補地の市場環境や地域特性を把握する商圏分析や、候補物件と競合店舗を距離と魅力値で比較して吸引世帯数を算出しそれによって売上を予測するハフモデル分析が挙げられます。

しかしながら、世の中が急速に変化し、消費者行動もまた多様化している現代、商圏分析やハフモデル分析だけに頼った売上予測は限界に達していると感じる人も少なくありません。
その中で、新たな手法として、AIによる機械学習での売上予測が注目を集めています。

本コラムでは、なぜ商圏分析やハフモデル分析による売上予測では限界なのか、その理由について、それぞれの手法と課題を我々の事例を交えながら解説し、機械学習による売上予測との比較をしていきたいと思います。


1,商圏分析、ハフモデル分析の基本と精度

<商圏分析の手法>

商圏分析とは、立地や国勢調査データ、競合データなど、候補物件と既存店のデータの類似点を比較し、出店候補地のポテンシャルを測る手法です。(図1参照)
これによって、出店候補地の売上を推定し、新規出店の可否を判断する材料とします。

図1 商圏分析の手法


<ハフモデル分析の手法>

ハフモデル分析とは、魅力度(売場面積、利便性、ブランド力など様々な吸引要素)を基に商圏内の自店の吸引世帯数を算出して売上を予測する手法です。(図2参照)
顧客は近くて魅力度の高い店舗に来店する、という考え方に基づいており、商圏内の店舗の吸引世帯数を分析するものです。

売上予測においては、その吸引世帯数を基に獲得率や単価の係数を定め、年商をシミュレーションしたり、自店と競合の吸引率を算出して商圏内の市場金額の分配を行って予測を立てる手法が一般的です。
その直感的な理論と実用性から、チェーンストア企業が新規出店の立地選定や売上予測を行う際に広く用いられてきました。

図2 ハフモデル分析の手法


<商圏分析とハフモデル分析の利点>

商圏分析やハフモデル分析がチェーンストア企業によって広く用いられてきた理由は、その明確さと直感的な理解性にあります。

初めて売上予測に接する人でも、既存店との類似点を見つけることは比較的容易であり、ハフモデル分析における店舗の魅力度と距離が消費者の訪問確率にどのように影響するのか、という基本的な概念を簡単に理解することができます。
その結果、企業は具体的な立地計画を立てやすくなります。

また、これらの手法には柔軟性があります。
類似店探索では、比較項目を自分たちで設定することが可能であり、これまでの経験をより生かした分析を行うことが可能です。
ハフモデル分析においても、店舗の魅力度を評価する要素は企業ごと、または地域ごとにカスタマイズすることが可能です。(図3参照)
例えば、ある企業では店舗の広さや商品の品揃えを重視するかもしれませんし、別の企業では駐車場の有無や店舗までのアクセスの良さを重視するかもしれません。
これにより、各企業は自身のビジネスモデルに最も適したモデルを作り上げることができます。

図3 ハフモデル分析の利点


また、これらの手法は比較的簡単に実装することができ、少ないデータでも一定の予測精度を得ることが可能です。
これは特に、新規出店の際に詳細なデータが得られないケースでも有用で、初期の売上予測を行う際の参考となります。

しかし、これらの利点にもかかわらず、商圏分析やハフモデル分析では正確な売上を予測することは非常に困難です。
これらの手法を取り入れている多くの企業が、予測が当たらない、精度が改善しないという悩みを抱えています。

<商圏分析とハフモデル分析で売上予測を行うリスク>

どちらの手法においても、売上予測を行う上での各指標の選択や、各指標の売上への影響値を考察するプロセスは、開発部員に依存するため、非常に属人的です。(図4参照)

図4 商圏分析の課題


そのため、担当者の異動や退職により、それまでのロジックがブラックボックス化してしまい、再現性が取れなくなってしまったというお悩みをよく耳にします。

ハフモデル分析においては、一度項目を設定すれば一定の再現性は担保できますが、商圏分析においては完全に開発部員に依存してしまいます。
また、見ている指標項目が本当に正しいのか、シンプルな指標項目のみで現在の複雑な市況における候補物件の売上の説明が可能なのかという点においても課題があります。(図5参照)

図5 ハフモデル分析の課題


<商圏分析とハフモデル分析の精度>

では、実際のこれらの手法での予測精度はどれくらいなのでしょうか。

これらの手法において、正確な精度は分からない、というのが正しいでしょう。
なぜなら、商圏分析やハフモデル分析によって導き出された精度は属人的であり、さらには統計的な精度検証を行えないからです。
商圏分析やハフモデル分析を用いて売上予測を行っている企業様に精度を伺うと、大体20%~30%、という返答が返ってきます。
実績によって算出された精度ではありますが、担当者が自身の経験を基に長い時間をかけて試行錯誤を繰り返して算出した精度であり、統計的な確からしい精度ではありません。
さらに、その予測値が実績値とどれだけの乖離があるのかは蓋を開けてみないと分からない、という問題も抱えています。

このような背景から、新しい予測手法への関心が高まっています。
その一つが機械学習による売上予測です。


 2,AIによる機械学習の基本とその応用

<機械学習とは>

機械学習は、データから学習し、未知のデータに対して予測を行うためのアルゴリズム群を指します。
人間が経験から学ぶのと同様に、機械学習アルゴリズムもデータを通じて学習し、その経験をもとに新しい情報を予測します。

機械学習には教師あり学習、教師なし学習などがあります。(図6参照)
教師あり学習は、入力データとそれに対応する正解データ(ラベル)を用いて、モデルを学習します。

これに対して、教師なし学習は、正解データなしで、データの構造やパターンを学習します。

図6 教師あり学習と教師なし学習概要


<売上予測における機械学習>

売上予測の領域では、教師あり学習が一般的に用いられます。
過去のデータセット(店舗の位置、人口、競合店舗の数など)とそれに対応するラベル(売上)をもとに、モデルが訓練されます。
訓練されたモデルは、新しい店舗の売上を予測するために使用されます。

<機械学習の有用性>

AIによる機械学習においては、正しい精度検証方法を実施することで、統計的な確からしい精度を算出できます。
より精度が高く、その精度が確からしいものであれば、出店意思決定の際の大きな判断材料となります。
ほとんどのケースで予測誤差が10%程度に収まる、という検証がされていれば、10%下振れした場合に採算ラインを割るのであれば出店しない、というように、明確な基準を設けることができます。
それによって、出店時のリスク検知性能が向上し、不採算店舗の出店回避、採算店舗の出店増加に繋がります。(図7参照)

図7 リスク検知の図


さらに、明確な基準が設定されることで、物件選定の効率が上がります。
基準が明確になることで一次精査の精度を高め、現地調査などの具体的な検討を進める物件数が削減されます。(図8参照)
予測精度が20%だった場合、予測値が採算ラインから前後20%の位置にある物件は検討する必要がありますが、それが10%になれば、実は見込みがない物件をより精緻に洗い出すことができます。

図8 AIによる基準設定イメージ


3,機械学習系売上予測によるベネフィット

ここまで、売上予測における商圏分析の手法と課題、機械学習の有用性について解説しました。

では、機械学習による売上予測で得られるベネフィットとは、具体的にどんなものでしょうか。
大きく分けて、2つあります。

・出店意思決定スピードの向上
・適切なリスク評価

<出店意思決定スピードの向上>

機械学習では、より信頼性の高いアウトプットが出せるようになります。(図9参照)
商圏分析では、評価指標やそれによる売上の影響度は担当の開発部員に依存します。
それにより、出店会議において根拠などについて具体的な説明や、選択した指標項目に対する説明が必要になり、さらにそれが本当に正しいのかどうか議論をするため、意思決定に時間が掛かります。(図10参照)
そのため、入念な準備が必要で、さらに指標項目の選択から分析まで、分析そのものにも莫大な時間を要します。

一方、AIによる機械学習での売上予測では、影響度の大きい指標項目が明確になり、かつその項目が何円分影響を与えているかもアウトプットできるようになります。

図5 アウトプットイメージ


もちろん、AIが言っているから、という理由だけでは意思決定できません。
しかし、AIが導き出した予測が信頼性の高いものであれば、あとはその予測が正しいものなのかを、類似店比較などによって予測の裏付けし、評価、補足をするだけです。(図10参照)

図10 工数比較表


<適切なリスク評価>

予測が高精度且つ信頼性の高いものであれば、予測値からある程度の収益が予測できるようになります。
予測精度向上によって候補物件に対するリスク検知性能が上がり、採算店舗と不採算店舗の基準が明確になるからです。
これにより、保守的な出店戦略によって本来出せたはずの物件を見逃してしまうリスクや、採算が取れると見込んでいた物件がふたを開けてみたら不採算だったというリスクが回避できるようになります。
我々の導入事例では、精度向上により採算店舗出店数が20%向上し、不採算店舗出店数が42%低減したという事例もあります。(図11参照)

図11 適切なリスク評価の効果


4,まとめ

この記事では、売上予測における商圏分析やハフモデル分析の課題についての解説とAIによる機械学習の有用性を解説しました。

<それぞれの手法比較>

それぞれの手法を比較すると、以下の図のような形になります。(図12参照)

図12 各手法の比較


ハフモデル分析は、吸引数を算出するためのロジックやルールベースに基づいて予測を行うため、商圏分析よりは一定の信用性があります。
また、各指標項目は開発部員が設定しているため、解釈性と説明力は高いと言えます。

しかし、商圏分析もハフモデル分析も、統計的な精度検証が行えず、指標項目の設定や数値算出が属人的なため、売上予測に最適とは言えないでしょう。
一方で、AIによる機械学習では、前述した通り、商圏分析とハフモデル分析の欠点を補い、かつ高精度で確からしい売上予測が可能となります。

<まとめ>

商圏分析とハフモデル分析の課題は以下の3つです。

・担当者の経験に依存するため、属人的かつ再現性が担保できない
・属人的なため、分析にブレが生じ意思決定に時間が掛かる
・正しい検証が行えないため、精緻な精度が算出できない

これらの課題は、AIによる機械学習を取り入れることで劇的に改善します。
機械学習は、再現性を担保し、より短時間で、より精緻な売上予測をすることを可能にします。
最小のリソースで最大の利益を生み出すことができるようになるのです。

商圏分析やハフモデル分析が全て無意味、というわけではありません。
これまでこれらの手法によって売上予測を行ってきた企業は、その分大量のノウハウや経験が蓄積されています。

そのノウハウや経験をAIにフィードバックすることで、さらなる精度改善に繋がるのです。
さらに、ハフモデル分析によって算出された吸引世帯数を特徴量として機械学習に組み込むことで、精度改善に繋がります。

過去の記事で、ノウハウや経験をAIに学習させる手法について解説しています。
『精度改善のカギ:経験を定量化する特徴量エンジニアリング』

AIによる機械学習は、店舗開発業務を劇的に効率化し、企業成長の鍵となる新規出店を加速させます。
もし、売上予測でお悩みであれば、AIによる機械学習を取り入れることを考えてみてはいかがでしょうか。


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