塩野七生『ローマ人の物語 ⅩⅣ』から「皇帝ユリアヌス 在位361-363」

古代ローマ帝国のことを知りたいと思っても、案外、何から入っていいのかわからない。自分が小さいときは、マンガなどで学んだが、それも帝政ローマのところがメイン。その後の五賢帝時代、そして、ローマ後期の軍人皇帝時代、滅亡期など、わからないことが多かったものです。

文学部にいって、チャラいインカレサークルなどに入らずに、ディープな文科系サークルに出入りすると、一人か二人は古代ローマ時代好きな先輩や同級生がいたものです。でも、その人は、「古代ローマ時代を知りたいんですけど…?」と訊くと、「ギボンの『ローマ帝国衰亡史』を読んだらいいよ」とかこともなげに言う人でした。

私は素直でしたので、図書館に行って、当時はカードで本の場所を調べて、閉架ならばとってもらったり、ということしました。そしたら、「すげー、なげーじゃん」ということで、結局そのまま読まずに返してしまったものです。

まあでも、日本語で書かれた古代ローマについて書いた概説書や研究書みたいなものは、図書館に行けばあって、タイトルで興味深そうなものを選んで、片っ端から借りて、読んだものでした。思えば、こんな読書をしていたのは、大学時代だけだったように思います。贅沢でした。

ただ、古代ローマ時代は長くて、共和政時代にはあんまり興味ないし、帝政期についてはなんとなく物語で知っており、五賢帝期は安定しているんだろ、と思って、飛ばしていました。やっぱり、当時文学部のアングラな人が好きな皇帝は、ネロ。何でしょうね、いつまでたっても男子は中二なんですかね。

ちょっと澁澤龍彦入ると、クラウディウスだのヘリオガバルスだのカラカラ帝だの、という暴君系に移行していくのですが、私は正直、そういう人には関心がありませんでした(いえ、のちに、ちょっと興味を持ちます)。

私の関心は、国が傾き始めた時の皇帝。いわゆる分割統治を始めたディオクレティアヌス、キリスト教を国教化したコンスタンティヌス、ローマ帝国を東西分割したテオドシウスのあたりに、熱烈な興味がありました。もちろん、この三人も教科書に出てくる有名な皇帝なので、入門書、概説書のようなものはありました。特にコンスタンティヌスについては、キリスト教世界の出発点を作ったような皇帝ですから、それなりの本がありました。

そして、この時代を漁っていると、行き当たるのは「ユリアヌス」です。

一方で、日本現代文学があって、辻邦生という人が『背教者ユリアヌス』という長い小説を書いています。今、新装版が出ているのに、長すぎて購入することをためらっています。このユリアヌス、コンスタンティヌスの後を受けて、皇帝になり、信教の自由を「ミラノ勅令」(313年)の状態に戻しました。要するに、あらゆる信仰を公認した状態にしたわけです。同時に、キリスト教会への優遇政策を廃止し、ギリシア・ローマの宗教に基づく神殿などの再建費用を出したりと、していたわけです。

そんなユリアヌスはキリスト教社会からすると、確かに信仰を捨てた者ですね。しかしながら一方で、それなりに公正な宗教政策をしようとしていたとも言えそうです。若干、排除的なものといえば、教育現場からのキリスト者の追放、ということでしょうか。これは、かなり物議をかもしたようです。

こんなマイナーな時代の皇帝をわかりやすく示してくれているのは、塩野七生『ローマ人の物語』シリーズです。ギボン以上の分量があるのですが、日本語でそもそも書いてあるので、読みやすい。内容は物語ではなく、評伝的なものなので、読んでて楽しいかどうかは定かではありませんが、私は割と楽しい。こういう概説書のような評伝のような本があると、良いですね。

塩野節というか、辛口人物評もところどころに見受けられて、もう老眼真っ只中の往年の塩野七生ファンも、それなりに楽しめること請け合いです。

ただ、殊に歴史学ってことになると、やっぱり評伝体のせいか、裏付けの最新調査には基づいていないという批判もあるようで、ユリアヌスで言えば、こないだの『ヒュパティア』を訳した中西氏の『ユリアヌスの信仰世界』などの本を読んだ方がいいと思います。

すごくつまらない近況報告ですが、よろしくお願いします。




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