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「小説 雨と水玉(仮題)(33)」/美智子さんの近代 ”美智子の近代と家族 その3”

(33)美智子の近代と家族その3

「そしたら、仕事の方かな、次は?
美智子さん、仕事続けたいんでしょ?」
「はい、でも東京に行くとなると今の職場は辞めないと、とか思って。
そうするといい仕事見つけられるかなあって」
「うん、わかる、わかる。僕も転職して思ったんだけど、
仕事ってやっぱりやりがいが無いとやっていけない。
美智子さんは今やりがいあるんだと思う。それはすごく素晴らしいことやと思う。」
「ありがとうございます。
そうなんですよ、やりがいって大事やなって。」
「これからどういう仕事がしたいってあるの?」
「ええ、それがまだあいまいなんです。」
「でも、ゆくゆく自分の得意領域というか、自分でなきゃっていう仕事がしたい?」
「ええ、ええ、そんな感じあります。」
「僕はいろんなやりようがあるんやないかって思う。今の会社って東京には支店とかあるんじゃなかった?たしか渋谷でみたことあるよ」
「はい、東京にもあるんです。ただ、そういう転勤みたいなことできるかどうか」
「うん、それはあるな。自己都合やもんね、でも可能性はあるんやないかなあ。
そういうこともあるし、あの、美智子さん就職する時、
大学の先生に推薦状書いてもらってますよねえ?
先生っていろいろよく知ってるから一度相談してみるのもいいと思う。」
「たしかに、先生にまた様子を知らせに来なさいって言われてました。そうでした。一辺そうしてみます。」
「僕も転職のとき、大学のO先生に相談したんですよ、そしたら結構気が楽になりました。先生っていろんなこと知ってはるから話しするときっといいんやと思う。」
「はいそうですね。」
「あのそれから、僕が大阪に仕事を探すっていうのも手としてはあるんですけど、転職して1年半で今やりがいあって、もちろん美智子さんのためやったら最終的には考えるつもりですけど」
「そんな、そんなんいけません。
わたしまだやりたいことが固まってないし、
佐藤さんにそこまで考えてもらうのは申し訳ありません。
佐藤さんのやりたいこと、わたしも一生懸命応援したいので、
それは考えんといてください。お願いします。」
「そんなこと言ってもらって、僕なんて言うたら。
美智子さん、あの、ほんまに結婚しよう、あなたと一緒になりたい。
これから美智子さんの仕事のこと、一生懸命考えよう、二人で。
必ずなにかいい方法あるはずです。見つけましょう。」
「わたし、そんなん言うてもらえて、どうしよ、もう胸が一杯で」
「大丈夫です、きっと方法があります、必ず」
そっと美智子の肩を抱いた。

「あの、お腹すいちゃった。
佐藤さん、サンドイッチ食べませんか?」
「うん、そうやね、いただきます。」
からしのピリッと効いたおいしいサンドイッチをぱくぱくと二人で食べた。
「あの、佐藤さん、さっきのプロポーズですか?」
「ええ、そうに決まってるでしょう。返事もらってないので気になる」
「ふ、ふ、ふ(笑)どうしましょう?」
小悪魔の微笑みがまた繰り返された。

蛍池の定食屋さんで食事を済ませて、
「さ、今日も帰らないといかんか」
「新大阪までついていきますね」
「ありがとう。まだ来週行くとこ決めてなかったね、
来週はどこ行く?」
「あの、来週は大学の先生のところにいきたいんで、もし先生と土曜日でアポ取れたら、一緒に途中までついて来てくれませんか?」
「ああ、そうやったねえ、うんそうしよう、僕、大学の外で待ってるよ、それでいい?」
「なんか、待たせるの、申し訳ないんですけど、でもついて来てもらいたくて、すみません。」
「すまないことないよ、美智子さんが気になることを早く進めた方がいいと思う。」
「ありがとうございます。よかったあ」

新大阪の二十五番ホームの端、十九時二十分発の始発のひかり号を待っていると三、四分前に入線してきた。
「それでは帰ります。また来週」
「あの、何か忘れてませんか?」
「?」
近づきそっと顔を近づけると柔かく温かいものに触れ、離しがたくそのまましばしのあと、肩を引き寄せ抱きしめた。
「啓一さん、わたし、イエスですよ」
と抱きしめた耳の後ろで聞こえた。
強く抱きしめると、小さいが形の良い弾力ある二つの膨らみが腰のあたりの重厚感とともに心地よく啓一の中に溶け込むようだった。


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