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「有機フッ素系機能材料 撥水、耐熱、光学性、液晶など その3」/防汚、撥水、撥油コーティング、そしてPFPEについて

文末にこれまでのフッ素材料に関する記事を掲載しておきます。今回は、有機フッ素材料がよく使われる防汚、撥水、撥油コーティングについて、その材料面から記してみたいと思います。

防汚、撥水、撥油コーティング

典型的に撥水コートとして使用されているのは、車のフロントガラス面への撥水コートが挙げられます。これなどは、パーフルオロアルキレル(CF3CF2CF2CF2-)末端を有するシランカプリング剤をガラス表面に結合形成することで、いわゆる分子一層分のパーフルオロアルキルを最表層に配置することで撥水機能を発現させています。

この種の防汚、撥水、撥油コーティングでは、このシランカップリング剤タイプとアクリル硬化膜タイプが代表的なものになります。
シランカップリングタイプは、ガラスや金属などの表層に分子一層形成することになり、アクリル硬化タイプの場合はそれよりは厚い数ミクロンの膜厚を形成することになります。
それぞれともにパーフルオロアルキル末端構造を使用していますので、用途や環境に応じてシランカップリング剤かアクリル硬化剤かの材料が選択され使用されることになります。
また、アクリル硬化タイプの場合、非フッ素モノマーを主に使用して一部にフッ素モノマーが成膜過程で最表層に自己集積するかたちで膜形成されます。その最表面のフッ素成分のため、防汚、撥水または撥油機能が発現します。

意外に不十分な防汚、撥油特性

こうしたパーフルオロアルキル構造を有する防汚、撥水または撥油コーティング材料は、撥水はまだしも、防汚や撥油コーティングという意味ではなお十分な特性とまでは言えないということがあります。

撥油であれば、たまたまうまく油の接触角などは高角度に出来るということはありますが、意外に撥油性は高くありません。

この理由は、以前ご紹介したことのある『フッ素化学入門2010基礎と応用の最前線』(四番目の文末掲載記事参照)のP403に記載されているようなことがあるからです。
そこには、撥水撥油性をつかさどり分子間相互作用の非常に小さなパーフルオロアルキルがミクロに動きにくいこと、それを結合している高分子鎖が動きにくいことがあり(両方とも分子が活発に運動しにくいということです)、必ずしも接する油に対して相互作用の小さい分子ユニットが直接に対さないということがあるようです。

実際、私の経験でも確かにパーフルオロアルキルは意外に撥油性は高くありませんでした。

PFPE(パーフルオロポリエーテル)材料は特別

以上述べてきた、パーフルオロアルキル構造の防汚、撥水または撥油コーティング材料がフッ素材料としては通常手に入り多く使用されている市販材料になります。
ただ、先ほど述べましたように、防汚撥油性については十分でない。

これに対して、PFPE(パーフルオロポリエーテル)材料は優れた防汚撥油性能を有しています。
これは、文献をお調べになっていただくといくつか見つけられると思いますが、あまり知られていません。
私の経験上も、PFPE材料は防汚撥油性はパーフルオロアルキル材料に比べ格段に優れていると言えます。

さて、この理由ですが、
仮説も含めて言うと、
端的にPFPEが液状だからです。そしてPFPEがフッ素材料特有の低相互作用性を持つからです。

まず後者の、フッ素材料という点ですが、一見パーフルオロエチレンなどを酸素原子でサンドイッチする繰り返し構造はいわゆる全フッ素炭化水素と比べると異なった電子配置で相互作用も異なってくるかと思えます。
実際、通常の炭化水素と、エチレンを酸素でサンドイッチした構造の繰り返しであるポリエチレングリコールは全然違う材料ですから、その類推からすると不思議なのですが、PFPEは全くフッ素の仲間です。

そして、重要なのは、前者のPFPEが液状であるという点です。PFPEはフッ素オイルとして耐熱、絶縁性の求められる領域で使用される機能材料ですが、分子量をいくら上げていってもオイルのままです。それほど液状性が高いということでもあります。
これは、分子運動性が高く、いつでもミクロな分子レベルで細かく運動しているということです。ここが重要な点です。
このため、さきほどパーフルオロアルキル構造を使ったコーティング剤では分子が動きにくいので、十分な防汚撥油性が出ないと言いましたが、逆にPFPEは分子が非常に動きやすいので防汚撥油性に優れるということになっているのです。
これがPFPEのキモです。
このため、コーティング成膜して使用すると極めて高い防汚、撥水、撥油性能を発現します。

今後

少し高価であるという点がありますので、徐々にではあるでしょうが、今後いろんな形で広範に使われるようになっていくものと思います。
一方で、高価というのは、原材料から化学修飾しにくいということでもあり、使われにくいというところと通じています。フッ素材料メーカーの奮起に大いに期待したいと思います。

ちなみに、現在PFPEとして防汚、撥水、撥油コーティング剤として上市され入手可能なものとしては、数少ないのですが、ダイキンのオプツール、ソルベイのMD500などが有ります。
ご興味をお持ちの方は、直接メーカーにお問い合わせください。


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