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「有機フッ素系機能材料 撥水、耐熱、光学性、液晶など その2」/樹脂、ゴム、そしてパーフルオロポリエーテル材料

さて、下記の前報、前前報に引き続いて、有機フッ素材料に関する記事を記したいと思います。

フッ素樹脂とフッ素ゴム

フッ素樹脂とフッ素ゴムには、全フッ素樹脂と全フッ素ゴム、それに部分フッ素樹脂と部分フッ素ゴムが有ります。
前者は、炭素に水素置換が無く全てフッ素置換されていて、後者は炭素に一部水素置換が残存していて一部フッ素置換されている、樹脂及びゴム材料を言います。

樹脂やゴムと言うのは、非常に広範な用途に多岐にわたって使用される材料で、それぞれ多岐な用途ごとに、性能とコストの駆け引きの中で最善の選択のもとに夫々の材料が使用されているわけです。
もちろん、それは予定調和ではなくて、事実上の技術競争、企業競争の末に製品採用されるということではあります。

ここで広範で総合的な技術論を展開する見識は私にはありませんので、私が見てきた技術、材料、そしてこれから期待する材料技術について記したいと言うのが本コラムの趣旨です。

ですので、ここでは、

全フッ素樹脂、全フッ素ゴム

から語っていきたいと思います。
全フッ素樹脂、全フッ素ゴムは文字通り結合エネルギーの大きい炭素フッ素結合を主に構成される樹脂やゴムですので、熱的に最も安定と言ってよいほどの耐熱性を有することになります。

また、化学的にも安定であり、耐薬品性などの特異な特性を持っています。

ここでこの樹脂とゴムの合成化学的な相違に関連したことを記します。

全フッ素樹脂は全フッ素不飽和モノマーの重合により合成製造されます。そしてそのモノマーの構造に大きく依存して特性が決まってきます。
このモノマー種は結構バライエティが有りますので、共重合樹脂を含めてかなり広範な樹脂カテゴリーを形成しています。

一方、全フッ素ゴムは、全フッ素モノマーを使用しつつ、架橋により弾性を生じさせるということが必要不可欠です。
この架橋は化学処理により行われますので、全フッ素モノマーの反応不活性をどうにかするとしなかればならないわけですが、これが化学的には難しい。方法も限られますので結論的に全フッ素ゴムの種類は非常に少なく、コスト的にもゴムと言えないくらい高価になります。
ですので、全フッ素ゴムは、現在のところ高価な価格に見合い非常に諸要求の高い用途にしか使用されていないようです。
ただしこの全フッ素ゴムですが、ゴム特性が十分ではありません。特に低温ゴム特性は良くないというものです。
これは、基本化学構造が樹脂と類似のモノマー単位からなるもので、液状性が不十分です。通常のゴムは天然ゴムの場合を想像するとわかるのですが、ゴムの木から液状ゴムを取り出し、これを架橋することで弾力のあるゴムになります。柔かいゴムになるのは、液状ゴムを原料にしているからです。
しかし、全フッ素ゴムの場合、十分に液状性が不十分なせいでゴム特性が良くないのです。

全フッ素ゴムの例外

私の知る限り、この全フッ素ゴムの例外が一つだけあります。
それは、SIFELというフッ素オイルをシリコーン架橋したゴムです。これは文字通り全き液であるフッ素オイルを原料にしてますのでゴム性は抜群です。
ちなみにこのメーカーは信越化学で、さすが信越化学と思います。

パーフルオロポリエーテル

SIFELのところで挙げましたフッ素オイルですが、これがパーフルオロポリエーテルです。化学構造的には、アルキレンを全フッ素化したユニットをエーテル酸素で繫いだポリマー構造の化合物です。
これは、分子量をどこまで上げても液状であり、耐熱用フッ素オイルや耐熱用フッ素グリースなどに使用されます。グリースの場合、増チョウ剤としてテフロン微粒子にこのフッ素オイルを混合して粘調なグリースにします。

私が初めてパーフルオロポリエーテルを扱ったのは、既述した液晶開発のときで、そのユニークな特性に感じ入ったものです。

このパーフルオロポリエーテルは、かなり高価なものであるためもあり、これを構造に備えている化成品はまださほど多くありません。
そのせいもあり、これをゴム応用するのが、SIFELくらいしかないことに繋がっているようです。

しかし、私はこのパーフルオロポリエーテルはもっともっと世の中で使用されていく材料なのではないかと思っています。
理由は、一つは液状であること、さらにフッ素材料の特徴であるイオン性不純物を含みにくく特異な電気特性を有しており、分子間相互作用が小さいということがあるためです。
先述したうように、化学修飾や化学変換がしにくいことがありますので、実際フッ素材料メーカーからも原材料や中間体の形では出てきません。

こういう状況にあるパーフルオロポリエーテルですが、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とペルフルオロオクタン酸(PFOA)のように蓄積性が無く対環境性が良いこともありますので、その特徴を新しい機能に還元した新材料が出てくることを大いに期待しています。

次号では、パーフルオロポリエーテルについてもう少し詳しく述べてみるつもりです。

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