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「小説 雨と水玉(仮題)(10)」/美智子さんの近代 ”突然の電話”

10)突然の電話

新学年が始まり英文学を専攻した美智子は、サマセットモームを専門としている女性の教授のゼミに参画した。
厳しい先生で毎週宿題が山のように出たので、いきなり忙しい日々がやってきていた。

最初の二週間をなんとか乗り切り漸く友達とショッピングに出かけられるようになった土曜日、支度をしていると、
たか子が近寄って来て耳元で、
「お姉ちゃん、今日はデートやのん?洋服少しおとなしめやなあ、もうちょっと工夫せなあかんのとちゃうかなあ」
「勝手に想像しんといて。違うのよ、お友達と買い物へ行くの」
「あれ、そしたらデートはいつやのん?」
美智子は言われて、確かに忙しい毎日のなかで思っていたことを衝かれて言葉につまってしまった。
「あっ!、連絡がこないんでしょ、
あーあ、手紙の返信、ちゃんと書かなあかんかったんとちゃうのかなあ。」
ここまで言われると
「うるさいなあ、もうほっといて」
と言わざるを得なかった。

その日、梅田の街を友達とぶらぶらしながら、たか子に言われたことが気になっていた。
もし誘われたらどんな服を着ていこうかしらと想像しながら、、、、、

帰宅して夕飯を済ましたあと、来週の予習をしていると、たか子が、
「お姉ちゃん、電話よ、彼氏から」
「えっ!、また何言うてるの」
「佐藤さんよ、彼氏でしょ?」
「えっ!、ちょっと待って。すぐ行く」
と電話口に急いだ。
「はい、美智子です。
 はい、、、はい、、、
 はい、、、わかりました。
はい、大丈夫です。
はい、はい、
はい、、、ええ、承知しました。
はい、ええ、
それでは、来週。
はい、おやすみなさい。」
振り返ると柱の陰で聞いていたたか子が、にやっとして、
「よかったね。
 ちゃんとした服を着ていかなあかんよ。買いに行く?
つきあってあげよか?」
図星だった。
「たかちゃん、明日、空いている?」
「大丈夫、お姉ちゃんのためやったら、空けますよおー!
 そのかわりおいしいもん、おごってね!」
「はい、わかりましたっ。あんたには負けるわ」

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