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「小説 雨と水玉(仮題)(54)」/美智子さんの近代 ”夢”

(54)夢

その晩は今後の予定を美智子の両親に伝えた。
三月の東京での結納のこと、六月の式のことは予定は早まったが既に可能性は承知しており、返って忙しさに同情さえ寄せてくれた。啓一はさらに、
「ただ、あと新婚旅行は、式に続けていくというのは準備もあるし無理があるかなと思ってるんです。」
「そうやなあ、転勤も同時期やし」
とそれにも両親は同情してくれた。
「美智子さんとはまだあんまり相談してないんですけど、式の後夏以降で休みを取って改めていくと言うのも一案かと僕は思ってるんですけど」
と美智子の顔を覗くと、
「わたしもそれがいいと。
詰め込み過ぎてしっかりできないことがあるといけないんで」
「ええ、僕も大阪と東京を行き来してかなり忙しいと思いますし、それで詰め込み過ぎて美智子さんが万一にでも疲れて病気にでもなったらえらいことやし」
「二人がそう言うんやったらそうしたらええやないか、それがええよ」
「わたしもそう思う」
両親も賛成してくれたので、
「ありがとうございます。旅行の件は少しゆとりをもって日程を考えます。」
「ああ、よかったあ、
実はさっき阪急電車の中で啓一さんに旅行のことを言われて、もうどうしようかと思ってて。ほっとしたあ」
「ハ、ハ、ハ(笑)」
「ハ、ハ、ハ(笑)」

次の日曜、ホテルと調整した日程について詳細を二人で詰めていくことにしていた。一連の具体的事項を出してメモしていくと全体像が良くつかめてくるようだった。
「だいたいのところがつかめたように思うけど、どうかな?」
「うん、まだ多少細かいところはあるかもしれへんけど、わたしもわかった。
あとはやるだけやね」
「そうそうそう。もうやるだけやから、大丈夫、と思う、頑張ろ」
「うん、わかった」
昼食まで美智子の家で世話になり、昼過ぎに久しぶりにゆっくり夕飯まで街で過ごすことにした。

立春を過ぎ、日も少し高く明るくなった快晴の街を歩いて梅田から北浜まで行き、美智子が知っていた焼き菓子で有名なお店の喫茶で一休みすることにした。
「美智子さん、改めてなんやけど、これからこうしてみたいとか、夢というかそんな感じのことある?」
「それは啓一さんの方から言ってもらわな」
「うん、まあ、僕は美智子さんと家庭を築いていくことが第一。
それで、そのために仕事。できればやけど世界的にもインパクトのある技術を製品にしたいと思ってる、ちょっとおこがましいけどね。これも頑張るしかないんやけど。
ありきたりかなあ?あんまり面白くない?」
「そんなことない、、、ふ、ふ、ふ(笑)なんかねわたし、いつかその夢が叶って一緒に喜んでる姿が目に浮かんできて」
「は、は、は(笑)、それは楽天的というか、能天気というか(笑)、ハ、ハ、ハ(笑)」
「能天気とか、言わんといて、ふ、ふ、ふ(笑)」
「まあ、ええわ(笑)、美智子さんの方はどうやのん?」
「わたしは、たとえばやけど、イギリスかフランスの出版社と一緒に仕事して日本で出版するとか、そういうことに関わってみたいというか、、、あ、いや、やっぱりまだよくわからへんわ」
「それ、ええんちゃうかなア。美智子さん、イメージするの得意かもしれんね。ちょっと能天気やけど」
「また言う。楽天的と言うてください!」
「は、は、は(笑)、でも、そしたら、新婚旅行は、パリかロンドンにしようか、どう?」
「うん、それは行きたい」

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