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「小説 雨と水玉(仮題)(66)」/美智子さんの近代 ”体調と手料理”

(66)体調と手料理

その夜、啓一はぐっすり眠った。夜中一度汗をかいているのに気付き一度起きたがしばらくしたらまた眠りに入った。十時間以上寝たはずで夜が明け朝の明るさを感じて時計を見ると五時半だった。起きても良いと思うほど元気になったことを感じたが、美智子を起こさない方が良いと思い、蒲団の中で目をつぶった。
頭の中をこれからのことがいくつも巡っていた。気力が出てきているのと、美智子の体調に気を付けなければならないとの思いも駆け巡った。
しばらくすると隣の部屋で美智子が起き上がる気配がした。すぐにキッチンに向かったようだった。
「美智子さん、起きたの?ゆっくり寝た方がいいよ」
「啓一さん、起きてたの?
わたしは大丈夫。昨日寝たの九時やから睡眠は十分。こんなに寝たの久しぶりやわ。
啓一さん、お腹空いたでしょ、朝ごはん作るわね」
「さっき、体温計ったら六度三分だった。
お腹空いてきたよ、でも慌てなくていいよ」
「うん、ありがとう、
でも熱が下がって治ってきたようでよかったあ、こっちに来た甲斐があったわ」

朝ごはんは卵とじうどんをしてくれた。もちもちのうどんが出汁の味と合わさって胃腸に染み渡った。
薬を飲んでしばらくキッチンのテーブルで過ごしてから啓一が、
「今日は午後少し外に出てみたい、おかげさんでかなり元気になったので」
「そうね、お天気もいいようだから少しカラダ慣らしした方がいいかな」
「うん。
このうちもだいぶ家財道具はそろってきたと思うけど、細かいこと言うとまだあると思うんだけど、何か気付いたことある?」
「うん、少しそれはあるから買っておきたいな、まあ、でももうそんなに困ることは無いっていう感じにはなってるかな」
「あと、大きいモノでは箪笥が連休明けに入って揃うわけだけど、なにか不足あるかな?」
「わたし、それはだいたい考えてて、これでだいたい何とかなると思う。今日明日で残りのものを買いそろえようかと思ってるの」
「ありがとう。そしたら午後出た時にお店を見てみよう」

お昼ご飯を食べ午後二時ごろ、体慣らしついでに二人で買い物に出た。一時間半ほどブラブラ見て回りあれこれめどをつけていたものを買って帰ってきた。
「なんか、結構元気になってきた気がする。ありがとう、美智子さんのおかげ。
なんか、また美智子さんに借りが出来ちゃったなあ(笑)」
「でも、啓一さん、ほんまに疲れが出てたんやと思う。式までの過ごし方もよく考えなあかんと思う。これまでのように毎週大阪に来るというのは考え直した方がいいかもしれへん」
「たしかに体調にはもっと気を付けていかなきゃ、と今回は本当に思った。四月は残業を頑張り過ぎたせいもあったと思う。日曜も会社に行ってたので。」
「ほんま?日曜まで仕事してたの?わたしになんでゆうてくれへんの?
これからは必ずそういうこと言うてね」
「うん、わかった。これからは気を付けるし、美智子さんに必ず伝えます。
でね、考えたんやけど、ぼくはこれまで通り毎週、式の日まで必ず大阪に行きます。今回美智子さんに来てもらってわかったけども、ぼくたちの二人のことについては式の日まで手を抜かずにきっちり気持ちを合わせていかなあかんと思う。だから、大阪に行って毎週、一緒に過ごす。ただ、体調には気を付けて日曜に仕事はしない、過ごし方も出来るだけ体調に気を付ける。逆に美智子さんが倒れたりしないようにこれは万全を期したいと思う。
そんなふうにしてみない?
だいたい準備の方はできてきたと言って手を抜くと、気まで抜けてくることがあるんやないかなあ?それは僕はしたくない。
だから、そうさせてください、お願いです。」
「それは、わたしは嬉しいけど。啓一さんの身体が心配で、、、
それとお金もかかるでしょ、、、」
「そっちかいな。
それは冷静に見てこれからの生活を考えればたしかにお金は大事なんだけど、でもね、式まであと二か月も無いくらいで、これから二人の長い一生を考えれば大したことないと思う。二人で頑張れば十分取り戻せるよ、というか、小さなことだよ」
「身体の方は?」
「うん、ひとつお願いは、大阪日帰りは少ししんどいから毎週美智子さんとこに泊まらせてほしい。昨日今日と美智子さんの手料理がおいしかったのでこれから土曜の晩はそれでお願いします(笑)。そんなふうにしてゆっくりさせてもらいたい。お父さん、お母さんにお願いしてもらえるかなあ?」
「しょうがないなあ、
わかった、そうしてもらう。
もう、ほんまに啓一さんには負けるわあ」


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