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「小説 雨と水玉(仮題)(31)」/美智子さんの近代 ”美智子の近代と家族 その1”

(31)美智子の近代と家族 その1

翌日曜の午前、いつものように美智子は読書していた。読書通の端くれにはなりたいと思って通勤電車の中と日曜の午前中は必ずこうして続けている。
昼頃、たか子が、
「お姉ちゃん、昨日も帰ってきたの八時過ぎてたやん、
どうやったの?楽しかったんやろ?」
「うん、楽しかった。」
「これからのこと、なんか話しした?」
「うん、結婚を考えて付き合おうって言われた。」
「おおー、やるなあ、彼氏。
ほんまもんやな、これは。
お姉ちゃん、待った甲斐あったなあ、三年待ったんやったっけ?」
「うん、もうちょっとかも知れへん」
「なあ、なあ、そしたらもうキスした?したんやろ?」
「そういう品のないことは訊かないの。それは絶対あんたでも話さへん。」
「まあ、しゃあないな。
でもお姉ちゃん、彼氏東京やったら、結婚して東京行かなあかんとしたら、
仕事のこととか、考えなあかんやん」
「うん、そうやねん、お父さんお母さんのことも考えなあかんし、
それはどうしようか、結構難しい。」
「お父さん、お母さんはまだ若いねんからよく話したらええんちゃうの?」
「でも、ゆくゆくはそばでっていうことあるやろ?」
「まあ、あるけど、そんな何十年先かもわからへんこと、
そんなん結婚してから優しい彼氏と考えていけばいいやん。」
「そうかなあ?」
「仕事はどうするの?」
「それも考えなあかん、仕事は続けたい。
東京にもお店あるんやけど、そういう事情で転勤とかさせてくれへんのちゃうかなあ」
「お姉ちゃん、仕事辞めても彼氏の給料でやっていけるの?それもあるんちゃうの?」
「うん、それもわからへん」
「そういうとこ、お姉ちゃん疎いからな。
ま、お姉ちゃんのいいとこでもあるけど」

日曜の夜九時、
「もしもし、美智子です。はい、大丈夫です。」
「今週は、どうしましょう?御堂筋でも散策しましょか?」
「ええ、それがいいです。」
「ええ、あの、美智子さん、今日は少し元気ないんやないですか?
僕が深刻なこと言い出したからやないですか?」
「いえ、そんなことないんです。それはものすごく嬉しくて」
「あのお、何でも話ししましょ、電話でもいいですし、今度逢ったときでもいいんで。
僕に話してくれますか?
僕、時間かけて話しすれば分かり合える自信あるんですよ、美智子さんとは。
ね、だからそうしてくださいね」
「はい、ありがとうございます。
佐藤さん、わたし今度またゆっくり話しさせてください、土曜日に」
「ええ、是非お願いします。あのお、深刻には考えないでくださいね、
でも美智子さん、そんなタイプではないか、は、は、は(笑)」
「ふ、ふ、ふ(笑)、その通りです。フ、フ、フ(笑)」
「あの、なんか気になったら何でもいいんで、今でもいいですよ」
「ええ、大丈夫です。土曜日にお話ししますので、大丈夫です。」
「わかりました、でもそれまででも何かあったら電話くださいね。
あの、僕、部屋に電話引けたんで、ちょっといいですか、メモしてもらって。」
「はい、お願いします。」
「○○―〇〇△△―〇△◇□です。」
「○○―〇〇△△―〇△◇□ですね?」
「ハイ、合ってます、夜遅くてもいいですから、電話ください。」
「はい、そしたら水曜日には私から電話します。九時過ぎでいいですか?」
「ええ、いいです、もしいなかったら留守電入れといて下さい、あとで折り返しますから。
くれぐれも何か気になったら僕に電話くださいね。なんでも。お願いしますね」
「ありがとうございます。電話します、何でも」
「ありがとう。
そしたら、大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」
「そしたら切りたくないけど、切りますね。」
「フ、フ(笑)」
「おやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい、失礼します。」

水曜日の夜、
「もしもし、佐藤です。」
「もしもし、美智子です。佐藤さん大丈夫ですか?疲れてませんか?」
「ええ、大丈夫、美智子さんの声を聞いてメチャ元気ですよ、は、は、は(笑)」
「ふ、ふ、ふ(笑)、わたしも元気です。」
「よかったあ、土曜日は大阪天気いいみたいですね、散策にはいいですね」
「ええ、そうみたいです。
あの、御堂筋を散策っていうことでしたけど、大阪城公園はどうでしょう?ゆっくりしてお話しするのはいいですか?」
「ええ、問題ありません。ゆっくりお話ししましょう、ホントに何でも僕に話してくださいね。美智子さんの話を聞くの、僕好きなんですよ、は、は、は(笑)」
「ふ、ふ、ふ(笑)、ありがとうございます。
もし良かったらまたサンドイッチ作っていこうと思うんですけど。」
「ありがとう、食べます。あのからしのアクセントの効いた美味しいサンドイッチ、楽しみです。」


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